1世紀を経てなお進化を続ける時計業界のアイコン、カルティエ「サントス ドゥ カルティエ」

FEATUREその他
2022.08.01

「サントス」、その1世紀を超える歩み

 今でこそ当たり前になった「腕時計」というアイテム。その在り方を定めたのが、1904年に発表され、11年に市販されたカルティエの「サントス」だった。もちろん、それ以前にも腕時計らしきものはあったが、懐中時計を改造しただけの腕時計が、腕時計というひとつのジャンルとなったのは、「サントス」以降のことである。このモデルが、しばしば「世界初の腕時計」と称されるのは当然だろう。

アルベルト・サントス=デュモン

Archives Cartier © Cartier
「サントス」コレクション生みの親が、起業家にして飛行家のアルベルト・サントス=デュモンである。これは1907年の3月に、パリのサンシールで撮られた写真。自製の15型飛行機に搭乗している。飛行船を操縦する際に使える時計が欲しいという彼の要望は、1904年の「サントス」に結実した。

「サントス」というコレクション名は、依頼主の名前に由来する。ブラジル出身の富豪にして伊達男、そして何よりも飛ぶことが好きだったアルベルト・サントス=デュモンは、飛行船を操縦する際、簡単に時間を確認できる時計を望んだ。というのも、両手で重い操縦桿を支えていた当時のパイロットに、服から懐中時計を引き出す余裕はなかったためだ。彼はその切実な願望を、友人のルイ・カルティエに話した。名門宝石商の三代目に生まれながらも、稀代の新しいもの好きでもあったルイが、サントスの話に触発されたのは言うまでもない。果たして彼は、ケースとストラップを一体化した腕時計「サントス」を完成させたのである。

サントス リストウォッチ

Vincent Wulveryck, Collection Cartier © Cartier
カルティエ「サントス リストウォッチ」
1911年、サントス=デュモンは自らのために作られた時計を、カルティエが顧客に販売することに同意。同年の2月16日、「サントス」初の量産型がカルティエの販売台帳に記された。写真のモデルは、12年に市販された個体である。同時代の腕時計と一線を画す、ケースと一体化したラグを備えていた。手巻き。18Kゴールド製。カルティエ・パリ製。

「サントス」の新しさは、今までにないケースにあった。あえて時計を四角くすることで、「サントス」の文字盤は大きくなり、視認性が高まった。またストラップを固定するラグは、当時は一般的だったワイヤ状から、ケースとの一体型に改められたのである。あえてひとつにまとめたのは、強い衝撃を受けてもストラップを外れにくくするため。もっとも、飛行機を操縦するためだけでなく、パリの一流レストランでも使えるようなデザインに仕立てあげたのは、ルイ・カルティエのセンスだった。どこでも使える腕時計を目指した「サントス」とは、今や当たり前になった万能時計の先駆け、と言えるかもしれない。

 そんな「サントス」は、1978年の「サントス ガルベ」でカルティエのメインコレクションに返り咲き、以降ラインナップを増やしていった。シーンを選ばず使える性格を強調した新しい「サントス ドゥ カルティエ」。対して「サントス」の持つエレガンスさを打ち出したのが、「サントス デュモン」だ。


サントスのいわば原点回帰「サントス デュモン」

サントス デュモン

© Cartier
カルティエ「サントス デュモン」
初代「サントス」の精神を今に受け継ぐモデル。7.3mmという非常に薄いケースと、ドレスウォッチとスポーツウォッチを折衷させたディテールを備える。搭載されているのは新規開発されたクォーツ。バッテリー寿命が6年もあるため、普段使いに最適だ。クォーツ。SS(縦43.5×横31.4mm、厚さ7.3mm)。3気圧防水。ネイビーブルーアリゲーターストラップ。54万4500円(税込み)。他にも小径のSMサイズ(縦38×横27.5mm、厚さ7.3mm)のモデルがある。

 1980年代以降、「サントス」が持つもう一面を打ち出してきた「サントス デュモン」。マニュファクチュールとしてカルティエが成熟するに伴い、このコレクションも大きく進化を遂げた。2019年にリリースされたのが、クォーツを搭載したモデルである。ケース厚は「サントス ドゥ カルティエ」よりさらに薄い7.3mm。また、新規開発のクォーツムーブメントは、6年ものバッテリー寿命を持つ。もちろん、ケースはカルティエの自社製だ。

サントス デュモン ケース

1904年に発表された「サントス」の特徴が、ケースと一体成型されたラグにある。その伝統は、最新の「サントス デュモン」も同じだ。自社製のケースは角が立ち、面もよりフラットになった。ケースサイズに比べてラグが短いため、時計の装着感は極めて優れている。

 加えて22年には、手巻きモデルもレギュラーコレクションに追加された。搭載するのは薄形ムーブメントの傑作として知られるCal.430 MC。しかし、これは過去の「サントス デュモン」のリバイバルではない。なんとこのモデルのケースに対して、カルティエは色を施したのである。ケースの一部が黒く見えるのは、ケースの一部がツヤのある黒いラッカーで塗装するため。最新のスポーツウォッチを思わせる色使いだが、あえてツヤを残すことで、本作はむしろタキシードに映える時計となった。ちなみに、外装にラッカーを埋め込んだ時計は過去にも存在する。しかし、カルティエのような老舗で、こういった試みを行った例は極めて珍しい。自社で製造するケースの質に、絶対の自信があればこその試みだろう。

サントス デュモン

© Cartier
カルティエ「サントス デュモン」
2022年に新しく加わった機械式モデル。黒い外装は、ケースの一部を彫り、そこに塗料を流し込むシャンルベという技法で仕上げられたもの。色を流し込み、乾燥させた後に磨くことで、ケースの表面は極めて滑らかになる。薄い手巻きムーブメントの採用により、ケースの厚さは7.3mmに留まった。手巻き(Cal.430 MC)。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。SS(縦 43.5mm×横31.4mm、厚さ7.3mm)。3気圧防水。ブラックアリゲーターストラップ。予価81万4000円(税込み)。

 しばしば、その歴史の長さが注目される「サントス」コレクション。しかし、より意味を持つのは、「サントス」のたゆまぬ進化だ。シチュエーションを問わず使用できる時計として製作された「サントス」は、その本質を変えることなく、時代に応じて変わり続けてきた。なぜ「サントス」が、カルティエのみならず、時計業界のアイコンであり続けるのか。最新の「サントス」を手にすれば、理由は言わずと分かるに違いない。


【カルティエ 公式オンライン ブティック】
https://www.cartier.jp/ja/

Contact info: カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-301-757


カルティエ「サントス」100年のメタモルフォーゼ

https://www.webchronos.net/features/43444/