ブライトリングの新作、「スーパーオーシャン オートマチック 42」をレビューする。本作は、1960年代の「スーパーオーシャン スローモーション」のデザインを受け継ぐ、300m防水のダイバーズウォッチだ。そのユニークなデザインとは裏腹に、手堅く実直に作られた本作は、新生ブライトリングを象徴する懐の深い1本であった。
Text and Photographs by Tsubasa Nojima
2022年10月4日掲載記事
次々とコレクションを刷新する、新体制のブライトリング
2017年に経営体制を刷新し、IWCのCEOであったジョージ・カーンをトップに迎え入れたブライトリング。以降、同社は製品カテゴリの再構築と、それに則ったコレクションの拡充を行ってきた。
具体的には、コレクションを空、海、陸、プロフェッショナルのカテゴリに分類し、それぞれのコンセプトを明確にした。そしてカテゴリ毎に、エレガントなモデルから本格的なスポーツウォッチまでバリエーションを取りそろえる方針を定めた。
18年には早速、回転計算尺を廃した「ナビタイマー8」や、3針の「ナビタイマー」、新たなコレクションである「プレミエ」を発表し、20年には1984年のモデルを彷彿とさせる、クラシックな「クロノマット」が追加された。2022年に、クロノグラフを搭載したスタンダードな「ナビタイマー」がアップデートされたことも記憶に新しい。
これらはあくまでも一部であるが、新しく登場したコレクションの多くに共通することが、ブライトリングの長い歴史の中で紡ぎ出されてきたアーカイブピースに着想を得ているという点だ。そして、今回レビューを行う「スーパーオーシャン オートマチック 42」も例外ではない。
1960年代のデザインを受け継ぐ、新生「スーパーオーシャン」
ブライトリングのダイバーズウォッチコレクションである「スーパーオーシャン」は、先述のカテゴリでは“海”に分類される。現在の「スーパーオーシャン」は大きく、ラバーをモールド成型したベゼルと500m防水を備える「スーパーオーシャン オートマチック」と、今回レビューを行う、22年新作のもうひとつの「スーパーオーシャン オートマチック」の他に、クラシカルな「スーパーオーシャン ヘリテージ」、非ねじ込み式リュウズに両方向回転ベゼルを備えた「スーパーオーシャン ヘリテージ '57」がラインナップする。
更にそれぞれにサイズやカラーリング、素材違い等のバリエーションが存在するが、こうして並べると、同一カテゴリの中に、プロフェッショナルユースの本格的なダイバースウォッチから、エレガントなダイバーズスタイルのモデルまでカバーされていることが分かる。
自動巻き(Cal.B17)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SS(直径42mm、厚さ12.5mm)。300m防水。57万2000円(税込み)。
レビュー対象である「スーパーオーシャン オートマチック 42」は、1960年代に発表された、「スーパーオーシャン スローモーション」のデザインを踏襲している。オリジナルは、センターに60分積算計を配したクロノグラフ付きダイバーズウォッチである。分積算計の針に付いた大きなスクエアのポインターと、白地にブラックの印字が施されたミニッツスケールが、デザイン上の大きな特徴だ。
ダイバーズウォッチに必要不可欠な、経過時間を計る機能として、クロノグラフを搭載しただけでなく、水中での視認性を高めるために、分積算計をセンターに配しているのである。確かに、多くのクロノグラフは30分積算計のサブダイアルを持つため、15を指している場合に、15分なのか45分なのかを瞬時に判別することが難しい。そして何よりも、インダイアルでは針やスケール自体が小さくなってしまう。“スローモーション”という呼称も、分積算計の針が60分かけてゆっくりと周回する様子を由来としており、当時でもユニークな存在であったために名付けられたのだろう。
しかしながら、現行モデルである「スーパーオーシャン オートマチック 42」は、クロノグラフ機構のない3針モデルである。そのため、特徴的なスクエアのポインターは、時刻表示用の分針に採用されている。幅広のミニッツスケールもオリジナルのデザインを受け継いだものだ。セラミックベゼルやリュウズガードを備えたスマートなケースが、モダンな印象をもたらしているが、そのディティールには、ブライトリングのヘリテージピースのDNAが受け継がれている。
コンパクトな外装に、ラグジュアリーなディティールが光る
それではレビューに移りたい。本作を手に取って最初に思ったことは、ケース径42mmという数字よりも小ぶりに感じるということだ。これは、ラグの上部先端から下部先端までの長さ(いわゆる、ケースの縦の長さ)が47.7mmと、比較的切り詰められていることがひとつの要因だろう。
参考として、従来よりラインナップする500m防水の「スーパーオーシャン オートマチック 42」は、この長さが50.6mmであり、約3mmもの差がある。加えて、ミニッツスケールを兼ねるフランジの幅が広いため、ダイアル自体が小さく見えることも、見た目のコンパクトさに寄与しているだろう。一般的にスポーツウォッチは、衝撃を受けた際に針同士が干渉して機能を停止することがないよう、針と針とのクリアランスを十分に保つよう設計されている。すり鉢状の特徴的なフランジは、そのクリアランスを小さく見せる効果も併せ持ち、時計全体に凝縮感を与えている。
サイドから眺めても、コンパクトな印象は変わらない。ベゼルとミドルケースにバランスよくボリュームを配分することによって、厚みを感じさせないデザインに仕上げた。もっとも、300m防水のダイバーズウォッチであることを考えると、ケース厚12.5mmは数値上でも決して厚くはない。
ケースの仕上げは、サテンを基調としつつエッジにポリッシュをかけている。実用時計に立体感を与えるために多く使われる手法だ。その面取りがリューウズガードへつながる様は、細身のラグと相まって優雅さすら感じさせる。
ダイアルは、グロッシーなブラックカラー。その周囲には、スーパールミノバがたっぷりと塗布された、12個のスクエアインデックスが配されている。3時、6時、9時のインデックスは少し長めに、12時のインデックスは台形になっているため、例え暗闇であっても読み違える心配はない。
また、本作はノンデイト仕様である。デイトの有無については、人によって大きく好みが分かれるだろうが、シンメトリーなデザインに加え、止まっている状態でも時刻さえ合わせればすぐに使える手軽さは魅力だ。特に、搭載するCal.B 17は、パワーリザーブが約38時間である。数年前であれば標準的と言える長さだが、ロングパワーリザーブ化の波が低価格帯にまで及んでいる昨今では、相対的に短いと言わざるを得ない。毎日使うのであれば支障はないだろうが、複数本を使い回すコレクターにとって、使い始めの手間が少ないノンデイトは歓迎すべきポイントだろう。
逆回転防止ベゼルには、セラミックス製のインサートがセットされている。ベゼル上の数字やマーカーは、深く彫りこまれたものだ。これによって立体的な表情が与えられ、見た目の高級感も高められている。もちろん、耐傷性や耐候性に優れるという素材の特性は、実用上のメリットでもある。このベゼルは、1回転120クリックと、細かくセットできるようになっている。実際の回し心地は非常に軽やかで、狙ったところにピタリと合わせることができる。
ストラップはラバー製だ。両サイドに布地のようなパターンを施している上、ラグ幅22mmに対してクラスプ側18mmと絞られているため、すっきりとした印象となっている。フォールディングクラスプが装着されており、ストラップそのものは、ユーザーの腕周りに合わせて物理的にカットした後に、クラスプに取り付ける。カットしてしまった部分を戻すことはできないが、クラスプの機構を活用することでカット後に長さを微調整することができる。
そのクラスプは、ワンプッシュ式の三つ折れタイプである。スポーツウォッチの多くは、クラスプに二重ロック機構を備えているが、本作にはそのようなものはない。勘合式であれば、経年劣化によって手首を曲げた際にクラスプが開いてしまうことがあるが、プッシュ式であれば自然に開いてしまうことはそうそうない。二重ロックによる安心感よりも、着脱のしやすさに重きを置いたということなのだろう。
微調整機構は、クラスプの内側に隠されている。溝の付いたレバーを押下しながらストラップを引く、または押し込むことで、長さを最大15mmまで調整できる。これだけの調整幅があれば、体形や体調の変化、もしくは多少ストラップを切りすぎてしまったとしても、リカバリーの効く可能性が高い。もっとも、ストラップのカットに関しては、販売店でプロに依頼するのが一番安心だ。
また、ストラップを眺めていて気付くのは、ストラップとケースとの隙間が詰められているということだ。正確にはミドルケースに少し窪みを持たせることで、ストラップを逃がしている。細かな部分であるが、全体に緊張感を持たせるための重要なディティールだ。隙間は狭くとも、スムーズにストラップを動かせることができるのは、高い加工精度故のことだろう。