1994年、A.ランゲ&ゾーネは「ランゲ1」を発表して大きな反響を呼んだ。オフセンターダイアルは当時まだ画期的であり、さらに同社は空いたスペースにデイトやパワーリザーブ表示、スモールセコンドなどを配してバリエーションを増やしていった。ブランドのアイコンとは、美しいだけでなく独特なデザインでなければならない。これは、ランゲ1が瞬く間に成功を収めた理由でもある。今回はランゲ1の多様なバリエーションを紹介しながら、その進化をたどっていこう。
手巻き(Cal.L121)。43石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KPGケース(直径38.5mm、厚さ9.8mm)。30m防水。532万4000円(税込み)。
強い個性を持ったアイコンウォッチ「ランゲ1」
ドイツ・ドレスデンのゼンパー・オーパー(ザクセン州立歌劇場)にある5分時計に着想を得て、当時としては珍しいラージデイトを採用した「ランゲ1」。これは、その後も続くラージデイトのトレンドを生み出した。特徴的なオフセンターダイアルも、グラスヒュッテの他のブランドへ導入されていった。
キャリバーL901.0を搭載した初代「ランゲ1」はクローズドバックを採用したが、わずか1年後にはトランスパレントバックとなった。これによりグラスヒュッテ・ストライプが施された洋銀製の4分の3プレート、ねじ留めのゴールドシャトン、チラネジ式テンプ、スワンネック型緩急針調整装置といったムーブメントの特徴を鑑賞できるようになったのだ。またキャリバーL901.0は、約72時間という長いパワーリザーブも大きな特徴である。
ランゲ1は、20年にもわたって1994年の発表当時の姿を保った。2015年になって初めて変更が加えられた。4分の3プレートは踏襲しながらも、テンプは緩急針から偏心錘を用いたフリースプラングとなり、自社製のヒゲゼンマイを採用した全く新しいムーブメントが搭載されたのだ。外観はベゼルの幅が若干狭くなった以外に変化はない。クラシックなランゲ1は1994年以来その姿をほとんど変えないが、派生モデルが少しずつ増えていき、ランゲ1はひとつのコレクションとなったのだ。
複雑機構搭載の要望に応えた「ランゲ1・トゥールビヨン」
2000年に発表された最初のコンプリケーション「ランゲ1・トゥールビヨン」は、特に洗練されたものだった。スモールセコンドを表示していた位置に開口部を設け、そこにトゥールビヨンを配置したのだ。これによって、スモールセコンドは7時半位置へと移動した。
2010年には、独自素材であるハニーゴールドをケースに採用したトゥールビヨンモデルのムーブメントが、特許取得のストップセコンド機構を搭載することによって正確な時刻合わせが可能になるなど、技術的にアップデートされた。V字型のヒゲゼンマイが見えるよう、文字盤の開口部が拡大されたため、アウトサイズデイト用のカレンダーディスクがはみ出るようになっている。
このためデイトのディスク自体はサファイアクリスタル製の透明なものにし、日付窓の背景を白とすることで1時位置の窓枠からはしっかりと日付が見え、5時位置の開口部ではトゥールビヨンの鑑賞を邪魔しないように工夫が凝らされている。
A.ランゲ&ゾーネが独自開発した合金であるハニーゴールドは、マンガンとシリコンの含有と熱処理により、従来のゴールドだけでなくプラチナも凌ぐ硬さになり、独特な色合いを保持している。
ムーンフェイズ機能を搭載した「ランゲ1・ムーンフェイズ」
2002年、A.ランゲ&ゾーネはランゲ1にムーンフェイズ搭載モデルを投入した。ムーンフェイズ表示はスモールセコンドに一体化されることによって、調和のとれたデザインを維持している。同社はムーンフェイズを搭載するにあたり、機構をイチから再設計した。
このムーンフェイズ表示の誤差は朔望月の1周期あたりわずか57秒で、122.6年に1日ずれるだけだ。また、ランゲ1でのムーンフェイズ表示は1日に1度動くのではなく、常に動き続ける。
2017年、A.ランゲ&ゾーネはこのモデルを更新し、洗練された昼夜表示を追加している。ムーンフェイズはゴールドの月で表示され、夜はダークブルーの星空が、昼はライトブルーの空が背景となっている。
ケースサイズを拡大した「グランド・ランゲ1」
2003年、愛好家たちの要望に応えて、それまで直径38.5mmのケースで展開してきたランゲ1に、新しくケース径41.9mmの「グランド・ランゲ1」が登場した。これに伴ってA.ランゲ&ゾーネはそれまでの方針を破ることになり、新しいムーブメントであるキャリバーL901.0を導入した。
当初ラージデイトは時間表示に食い込んでいたが、2012年にケース径40.9mmの新モデルが発表、ここでラージデイトも拡大されてオリジナルモデルのプロポーションを取り戻した。新しいキャリバーは旧作にくらべ、直径が約4mmサイズアップしている。
世界の時間がひと目で把握できる「ランゲ1・タイムゾーン」
2005年、A.ランゲ&ゾーネはタイムゾーン機能搭載した「ランゲ1・タイムゾーン」を発表した。この機構の特徴は都市リングにあり、第2時間帯の小さな文字盤と連動している。8時位置のプッシャーを使ってスイッチしていくと、時針が1時間単位でジャンプし、適切なタイムゾーンを常に表示、5時位置の矢印が選択した都市を示してくれるのだ。
また、大きなサブダイアルでホームタイムを設定する時には、第2時間帯も同期して動く。両タイムゾーンとも12時間表示となっているため、統一感のある見た目だ。アウトサイズデイトは、大きなサブダイアルに連動している。タイムゾーン機構の一部は4分の3プレート上で見ることができる。
ランゲ1史上、最も複雑な機構を備えた「ランゲ1・トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダー」
2012年、ランゲ1はそれまでにない複雑な機能を備えた「ランゲ1・トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダー」を発表した。ミニッツトゥールビヨンには正確な時刻合わせを可能にするストップセコンド機構が搭載されている。また、従来の緩急針による緩急調整に代わり、フリースプラングテンプを採用した、新しいムーブメントが採用されている。文字盤上では、オフセンターの時・分ダイアルの周りにカレンダー表示を配置することで、時刻表示が妨げられないよう配慮されている。
新しいムーブメント開発において最も困難だったのは、外周に走る月次リングが、アウトサイズデイト、曜日のレトログラード表示、閏年表示、ムーンフェイズよりも多くの動力を必要としたことであった。最終的には、月表示を先に進めるための独立した歯車が設けられることでこの問題は解決した。
自動巻き(Cal.L082.1)。76石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。Ptケース(直径41.9mm、厚さ12.2mm)。生産終了。
搭載されているキャリバーL082.1は、各月の異なる長さを月次リング下にある凹みから読み取るシステムを搭載。それぞれの表示に対応した埋め込み式コレクターに加え、全ての表示を一度に切り替えられるコレクターも備えている。緻密な装飾が施された自動巻きキャリバーは624点のパーツで構成され、ゴールドとプラチナ製のローターによって巻き上げが行われる。
2013年には、世界限定15本の「ランゲ1・トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダー “ハンドヴェルクスクンスト”」が発表された。手仕上げのエングレービングなどさまざまな技法を駆使したホワイトゴールド製文字盤を採用し、青色のアウトサイズデイトは初めて手で描かれている。
暗所で輝く「グランド・ランゲ1・ムーンフェイズ “ルーメン”」
手巻き(Cal.L095.4)。42石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ptケース(直径41mm、厚さ9.5mm)。30m防水。価格要問い合わせ。
2013年に発表された「グランド・ランゲ1・ムーンフェイズ “ルーメン”」で、ランゲ1に初めて蓄光素材が採用された。蓄光塗料は時刻表示部のみならず、ムーンフェイズ表示とアウトサイズデイトのガラスディスクにも採用されている。
グランド・ランゲ1・ムーンフェイズ “ルーメン”のプラチナモデルは、ムーンフェイズ表示の月と1164個の大小さまざまな星が暗所で輝く。この時計の正確な駆動を司るのは、約72時間のパワーリザーブを備えた手巻きムーブメントL095.4だ。
クラシックモデルよりもひと回り小さい「リトル・ランゲ1」
手巻き(Cal.L121.1)。43石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KPGケース(直径36.8mm、厚さ9.5mm)。30m防水。価格要問い合わせ。
2018年、クラシックモデルのランゲ1よりもひと回り小さい「リトル・ランゲ1」が、3つのカラーバリエーションで登場した。ブティック限定として100本のみ生産されたパープルダイアルのホワイトゴールドモデルのほか、グレーダイアルのホワイトゴールドモデル、ブラウンダイアルのピンクゴールドモデルだ。いずれもケース径36.8mmで、アリゲーターストラップが組み合わされている。