1960年代から冒険者たちを支えてきた名門、ファーブル・ルーバ「レイダー ビバーク 9000」
ファーブル・ルーバの創業は、創業者アブラハム・ファーブルがスイスのル・ロックルの独立時計職人として公式文書に記載された1737年とされている。これは、スイスの時計ブランドの歴史としては2番目に長いものだ。
ファーブル・ルーバは、1870年代から1940年代にかけてインド市場を開拓して成長を続けたほか、60年には同社初のダイバーウォッチ「ウォーターディープ」を発表し、過酷な環境に挑むプロフェッショナルや冒険家に支持されるようになる。
その後の62年に発表された「ビバーク」は、高度と気圧の測定が可能なアネロイド気圧計を搭載した世界初の機械式腕時計であり、多くの偉業を支えたモデルとなった。
ファーブル・ルーバの特徴は、大きなクッションケースと幅広のインデックスである。どのモデルを見ても、同社のコレクションであることがひと目で分かるデザインだ。またファーブル・ルーバは、登山だけでなくダイバーズウォッチでも独自のコレクションを展開しており、水深計を備える「レイダー バシィ 120メモデプス」や、潜水時間を明示するために針を1本とした「レイダー ハープーン」を擁する。手巻き(FL311)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。Ti(直径48mm、厚さ18.7mm)。30m防水。93万5000円(税込み)。
62年にアメリカで開催されたパラシュートのワールドカップで、ビバークを着用したスイスチームが好成績を収め、フランス人極地探検家のポール・エミール・ビクトールは氷の世界である極地への探検にビバークを選んだ。また、イタリア人登山家のヴァルテル・ボナッティがグランドジョラスのウィンパー峰(4196m)の北壁への登頂時と、マッターホルン北壁の最短ルートでの制覇の際にビバークを使用した。
このような冒険の精神と、それを支える機能と信頼性は、現在のファーブル・ルーバにも受け継がれている。「レイダー ビバーク9000」は、海抜9000mまでの高度を計測可能であることが特徴である。エベレスト山頂は8850mであるので、地上のいかなる地点でも計測可能であることになる。
3時位置のインダイアルが大まかな高度、センターの赤い針が詳細な高度変化を示し、1周で3000m分の高度変化を意味する。また、3時位置のインダイアルはその地点での気圧表示も兼ねている。
本作は、過去のビバークと同様に極限の世界で冒険家たちを支えており、2019年の探検家エイドリアン・バリンジャーによるK2の無酸素登頂に携行された。その際、降雪後の雪崩が多く発生して難易度の高いK2において、高度測定と気圧変動が伴う天候変化の察知に貢献した。
エベレスト登頂のスピード記録を支えたスペシャルモデル「モンブラン 1858 ジオスフェール クロノグラフ ゼロ オキシジェン リミテッドエディション」
モンブランは、エンジニアのアウグスト・エーベルシュタインが開発した優れた万年筆を販売すべく、アルフレッド・ネヘミアスとクラウス・ヨハネス・フォスを加えた3名によって1906年にドイツのハンブルグで創業された。その万年筆は、インク漏れが発生しないなど、当時の筆記具の中で最も優れたものであると3名は考えていた。
曇りを防止するということは、潤滑油と水滴が共存する状態を防ぐということにもつながる。一般的に、潤滑油内の水分は潤滑油の劣化を促進するので、結露を防止した本作はこの観点からも性能低下が抑えられているものと予想される。自動巻き(Cal.MB 29.27)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。Ti(直径44mm、厚さ17.1mm)。100m防水。世界限定290本。103万6200円(税込み)。
この「最も優れていること」とアルプス最高峰のモンブラン峰の頂上を重ね合わせ、その名を「モンブラン」と名付けた。また、モンブラン峰の黒いシルエットと頂上が白い雪に覆われている様子を、万年筆の軸のカラーと、天冠部のホワイトスターに落とし込んだことで、今日まで引き継がれるアイコニックなデザインが生まれたのだ。
モンブランは、97年に時計業界に参入した後、2007年に名門ミネルバを傘下に収めたことで、往年のミネルバのテイストを上手く取り込んだコレクションを展開するようになる。 ミネルバは、古典的なクロノグラフムーブメントを搭載するツールウォッチを製造してきた歴史があり、現在ではそのイメージとモンブラン峰が重なって、山に関連するプロ向けツールウォッチを「モンブラン 1858 コレクション」にラインナップする。
その中でも、2022年7月のラインナップで最高峰に位置するのが「モンブラン 1858 ジオスフェール クロノグラフ ゼロ オキシジェン リミテッド エディション」だ。本作は、プロ仕様の登山用タイムピースであり、登山中の安定稼働を目的として、ケース内とケース自体から酸素を取り除いていることが特徴である。
酸素を取り除く効果は、高地での急激な気温変化によって起こる曇りを解消することと、ムーブメント部品と潤滑油の酸化を防止して、性能の低下を防止することである。また、低温時の粘度上昇を抑えた潤滑油を採用して-50℃でも精度を維持している。
このようなエクストリームな環境を想定しているのは、本作が登山家として大英帝国勲章を授与されたニルマル・プルジャに手渡されるためだ。そして本作は、2022年5月に行われたカンチェンジュンガ(世界第三位)、エベレスト(世界第一位)、ローツェ(世界第四位)の酸素補給なし連続登頂に携行された。
ニルマルによるこの挑戦は、8日間23時間10分というスピード記録と共に成功している。この時の様子はニルマルのインスタグラムでも確認でき、その腕には本作が巻かれていることが確認できる。
ルーツを知れば新たな魅力に気付く
筆者は上記のようなルーツを暗記している訳ではないので、各メーカーが公表する資料を元に調査しながらこの記事を執筆している。そうやって改めて各モデルの由来を知ることで、筆者はそれぞれの魅力を再認識した。そして、使用して、その世界観を自分の中に取り込みたいと感じている。
今回紹介したプロ トレック マナスル、ファーブル・ルーバ レイダー、モンブラン 1858 ジオスフェール クロノグラフは、すべてエベレストに挑戦可能なほどのスペックを持つ。いつか挑戦することを夢見て手にするのもよし、尊敬するアルピニストへの憧れを時計に投影するのも良いだろう。
このように、自分が最も共感できる、あるいは興味深いと思えるブランドやモデルを見つけ、長く付き合える1本と出会えることができれば幸いである。
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