“ケースの価値”をApple Watchの世界に持ち込んだゴールデンコンセプト
Apple Watchケースというジャンルが注目され始めたのは2015年。スウェーデンのゴールデンコンセプトがApple Watch向けのケースと専用ストラップを発売したのが始まりだ。
もっとも“ケース”といっても様々な定義がある。Apple Watch向けのアフターアイテムとしては、スマートフォンのケースに近いカジュアルな傷防止用ケースならば、以前から存在していた。しかし、ゴールデンコンセプトが斬新だったのは“スマホアクセサリ”然としたケースではなく、伝統的な腕時計の価値観を持ち込もうとしたことだ。
高級腕時計にも通じる、外観デザインや機構設計の工夫、素材や加工精度へのこだわりや装着時の快適性を追求し、ファッションブランドとしての確立を狙った製品として誕生したのだ。
このゴールデンコンセプトが2019年に日本にも上陸すると、画一的なApple Watchのデザインに不満を感じていた人たちがこのブランドに飛びついた。Apple Watchは同社製品らしくミニマルな外観とニュートラルなトーンが特徴だ。しかし、それは没個性的とも言える。
そこでApple Watch本体を、現代の標準ムーブメントに見立てて腕時計をデザインしようというアイディアと言い換えることもできるだろう。
もっとも高いデザイン性、機能性を実現しながら、さらに高精度な加工が施された品質の高いケースは、それだけでApple Watchを超えるコストになる。彼らを真似るブランドもあったが、大きな流れにはなっていなかった。
しかし、ガガミラノのデザイナーを務めていたルーベン・トメッラ氏が立ち上げたApple Watchウェア「ハンブルリッチ」は、このトレンドをよりポピュラーで広がりのあるものにしてくれる可能性がある。
“着け替える”感覚で使いこなす
ゴールデンコンセプトが画期的だったのは、まるで最初からそのようにデザインされているかのような緻密な作りにあった。
電子機器のケースに、ここまで手間をかけるとはなく、Apple Watchがまるで高級腕時計の佇まいを持つことに驚きがあったが、一方で高精度に加工されたゴールデンコンセプトは、専用工具で組み立てる必要があり、手軽に着せ替えることはできない。
ハンブルリッチに興味を惹かれたのは、トメッラ氏自身が毎日の装いに合わせて腕時計を付け替えていた感覚と、Apple Watchの利便性の双方を両立できないかと考えていた点にある。
さらにさかのぼると、この考えは彼がガガミラノのデザインをした頃に思いついたものだ。工芸品とも言える美しい機械式時計。ストラップの交換を容易にするための仕掛けは、昨今、幅広く採用されているが、ケースも含めて着せ替えができないかとスケッチを繰り返していた。
そのアイディアは実際に製品化するまでには至らなかったが、ニュートラルなデザインにこだわるApple Watchならば似合う。そこで彼は簡単に交換可能な専用ストラップに加え、専用工具を使わずにApple Watch本体の入れ替えも可能なApple Watchウェアをデザインした。それがハンブルリッチだ。
開閉式の本体ケースはマシニングセンターによる切削加工された骨格をベースに、極めて細く高精度、高強度のヒンジとロック機構により閉じられ、まるで専用工具でネジ止めしたかのような”チリ”を詰めた外観を確保。この骨格に4種類の素材で作られたベゼルが用意されている。
開閉は付属ピンでボタンをプッシュするだけ。イージーだが頼りないところはなく、何も言わなければ“着せ替え可能”だなどとは、誰も思わないはずだ。交換式ストラップのデザインも、指でボタンを押すだけの簡単さ。意匠の面でもベゼルとストラップを結びつけるふたつのブリッジパーツがアクセントとなって美しい仕上がりになっている。
スマートウォッチの核としての機能をApple Watchに依存する点に、他のApple Watchウェアとの違いはない。しかし、“着せ替え”と質感・装着感の高さを両立できているところに、この製品の価値がある。
便利ないつものウェアラブルに控えめで贅沢な主張を
“控えめな贅沢”を意味するハンブルリッチは、決してゴージャスな宝飾品を思わせるApple Watchウェアではない。
素材や仕上げの違いにより”クラシカル”、”スポーツ”、”エシカル”と3つのラインが用意されているが、いずれもリサイクル素材を活用。クリスタルガラスや宝石、あるいは貴金属を多用しているわけではない。
クラシカルラインはベゼル部にイオンプレーティング(IP)加工が施されたステンレスが用いられ、同じくIP加工により着色されたフレームとのコントラストを生かしたフォーマルな装いだ。
スポーツラインには染色された再生アルミニウムのカラフルなベゼルと、リサイクルカーボンで強化したプラスティックベゼルから選択可能だ。
カーボンベゼルは、成形時に蓄光塗料を流し込んだ“光る”ベゼルと、ローズゴールドの金箔を混ぜて成形したバージョンが用意され、マットな質感と蓄光塗料あるいはローズゴールドの華やかさを併せ持つ。
エシカルラインは環境を意識し再生素材を成形・焼結させたセラミックスで、強く主張をしないシンプルで控えめな佇まい。それぞれに用意されるストラップも、ヒンジ部を固定した上で柔軟性の高いエラストマを用いることで装着感を高め、その表面にやはりそれぞれのラインに似合うエコ素材を接着している。
なるほど確かに“Hunble(控えめ)”だが、しかし機能的にはそれだけで十分なApple Watchをファッショナブルに使いこなすとしたら、それはちょっとした自分の心を満たす贅沢。
いつも便利に使っている、もはや手放せないApple Watchに少しだけ、自分だけの主張を加えてみるのもいいかもしれない。
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