ブレスレットの感触にカルティエの底力を見た
どのモデルも魅力的だが、筆者が引かれたのはブレスレット付きのモデルである。ケースだけでなくブレスレットも往年のタンク ノルマルにそっくりだが、加工精度が高く、左右の遊びも小さい。
かといって、今風の“ラグスポ”のようにガチガチに固めていないのがカルティエらしい。適度な重みとしっとりした感触は、このモデルが正当なドレスウォッチであることを物語っている。
余談になるがこのモデルに限らず、2023年のカルティエはブレスレットでさまざまな試みを行っている。造形もコマのつなぎ方も、そして感触もそれぞれモデルで異なる。
普通どのメーカーもブレスレットの感触をそろえたがるが、あえて味付けを変えるところに、今のカルティエの底力がある、と言えそうだ。感触をそろえるだけでなく、モデルに応じてチューニングできるのだ。正直、ここまでできるメーカーは世界広しといえど多くない。
このモデルが23年製であることを示すのが、ブレスレットにビルトインされたバックルだ。完全に格納しないのは、ブレスレットの厚みを担保するため。あるいは、ブルガリの特許を避けるためか。
さておき、バックルのプレートをできるだけブレスレットと一体化させることで、本作は、まるでリストレットを着けているような着け心地を得られた。こういう微妙な味付けは、最近のカルティエならではだろう。
唯一の問題は需要に対して少なすぎる販売本数
過去作との大きな違いは、文字盤の仕上げだ。かつてのカルティエはプレーンなペイント仕上げの文字盤を採用していたが、本作は強い筋目を施したシルバーダイヤルに改められた。モダン過ぎるという意見もあったが、筆者の見る限り、サテンを強調した外装にはよく合っている。
満を持して復活したタンク ノルマルは、なるほどカルティエの意地を感じさせる傑作だった。歴代プリヴェはどれも素晴らしいが、本作は、さらに頭ひとつ抜きん出た印象を受ける。
問題はただひとつ。需要に対して、生産数があまりにも少ないことだ。非限定とはいわないまでも、もう少し生産本数が多ければ、時計愛好家たちの不満も収まっただろうに。時計の出来よりも、買えないことに不満が上がるのは、傑作の証しだろう。
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