主要サプライヤー モデル実例[ダイアル編]
スイスの時計業界を支えるサプライヤーだが、その製品は、なかなか表に出てこない。そこで本誌では、主立ったサプライヤーと、そのプロダクトを、実際の時計とともに例示する。なおいずれも、あくまで本誌の調査によるものだ。それぞれのディテールに着目すると、サプライヤーたちの個性が浮かび上がってくるはずだ。
コンブレマイン×ゼニス
今や文字盤メーカーのブランドとなったのが、サン=シュルピスにあるコンブレマインだ。ヴティライネン傘下の同社は、地板や受けの製造に加えて、ギヨシェ装飾の文字盤、そしてスイスでは珍しい、メッキ仕上げの文字盤(約20色もある)も製作している。
写真の文字盤は、いかにもコンブレマインらしいもの。スターリングシルバー製のベースに、ウロコをモチーフとしたギヨシェを施し、上から浅くブラックメッキを施している。印字の質も申し分ない。
著名オークションハウス、フィリップスによって発表され、業界の話題をさらったプロジェクト。独立時計師であるカリ・ヴティライネンの手により、傑作ムーブメントの修復・装飾が施された。手巻き(Cal.135-O)。19石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約40時間。Ptケース(直径38mm)。3気圧防水。世界限定10本。完売(13万2900スイスフラン)。(問)ゼニス ブティック銀座 Tel.03-3575-5861
FEHR×パネライ
パネライやIWCの「パイロット・ウォッチ」などの文字盤を製作するのが、独立系のFEHR(フェール)である。ミリタリー風の文字盤を得意とする同社は、これらのメーカーが作るツールウォッチに、ユニークなタッチを添えてきた。とりわけ、白濁しにくいマットダイアルは同社の得意とするものだ。
写真は珍しいポリッシュラッカー仕上げの文字盤。近年同社は、研ぎ上げたラッカー仕上げに取り組むようになり、質と量を両立させつつある。
リサイクルベースの合金であるeスティール™を外装パーツに採用し、ストラップにも再生PET素材を使うなど、サステナビリティを推し進めるブランドの姿勢を表したモデルだ。自動巻き(Cal.P.900)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。eスティール™ケース(直径44mm、厚さ13.35mm)。300m防水。ブティック限定。143万3300円(税込み)。(問)オフィチーネ パネライ Tel.0120-18-7110
フルッキガー×パテック フィリップ
毎年のように文字盤に新しい試みを加えるのが、パテック フィリップ傘下のフルッキガーだ。同社は他メーカーにも文字盤を供給するが、最良かつ最新の試みは、パテック フィリップの製品に多く見られる。
写真の文字盤は、あえて下地を強く荒らし、上からグラデーションカラーを吹き分けたもの。ロゴを印字した平面との境目も、丁寧に処理されている。また、淡い印字を、暗い下地に載せるテクニックにも優れている。質と量を両立できる名サプライヤーだ。
アラビア数字を配した、ミリタリー風のシックな文字盤を持つ新生カラトラバ。ケースサイドにはクル・ド・パリ装飾を施し、上品な印象も兼ね備えている。自動巻き(Cal.26-330SC)。30石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KWGケース(直径40mm、厚さ8.53mm)。30m防水。493万9000円(税込み)。(問)パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Tel.03-3255-8109
カドラニエ・ジュネーブ×F.P.ジュルヌ
マイクロメゾンとしては例外的に、ずば抜けた文字盤工房を擁するF.P.ジュルヌ。同社傘下のカドラニエ・ジュネーブは、F.P.ジュルヌ以外のスイスの高級時計メーカーなどにも文字盤を提供している。
カドラニエが得意とするのは、鮮やかな印字、サファイアクリスタルへのラッカーの転写、そして極めて鮮やかなラッカー文字盤だ。大量生産に向くラッカー仕上げだが、カドラニエはあえて生産数を抑えることで、極めて発色に優れた文字盤を製造している。
光沢のあるクロムブルー文字盤が目を引く1本。高硬度で加工が困難とされるタンタルをケース素材として採用し、耐食性、耐摩耗性に優れた特性を持つ。裏蓋側からは、18Kゴールド製のムーブメントを鑑賞できる。手巻き(Cal.1304)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約56時間。タンタルケース(直径39mm、厚さ8.6mm)。30m防水。554万4000円(税込み)。(問)F.P.ジュルヌ 東京ブティック Tel.03-5468-0931
主要サプライヤー モデル実例[ケース編]
文字盤以上にサプライヤーの情報が出にくい(出しにくい)のがケースメーカーだ。質と量を両立できるメーカーは、大手との関係が密接なため、まず供給先を明かしたがらない。しかし、近年はマイクロメゾンを顧客に持つサプライヤーが、好んで顧客とのコラボレーションを明かすようになってきた。サプライヤーも、ブランド化を目指す時代となったのである。
G&F シャトラン×ローマン・ゴティエ
ローマン・ゴティエが大きな成功を収めた理由のひとつに、マイクロメゾンらしからぬ優れたケースがある。シャネルの資本参加を受けたローマン・ゴティエは、同社傘下のG&F シャトラン製ケースを使うことが可能になった。セラミックスの仕上げで培われた同社の磨きは、スイスのケースメーカーにあって群を抜く。
それを示すのが、コンティニュアムのチタンケースだ。歪みなく磨かれたケースは、その形状とも相まって、独特の存在感を放っている。
これまでとはコンセプトを変えた、モダンな風貌を持つ新コレクション。言わずもがなの美しい手巻きムーブメントを搭載し、シンプルな構造だがS字型ネジやスネイルカムなど、ブランド独自の要素が継承されている。手巻き。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。Tiケース(直径41mm、厚さ9.55mm)。50m防水。世界限定28本。完売。(問)スイスプライムブランズ Tel.03-6226-4650
コマデュール×オメガ
穴石メーカーを祖に持つコマデュールは、祖業である穴石、そしてサファイアクリスタルとセラミックスの加工を得意とする。スウォッチ グループ傘下の各社が、セラミックス製のケースをふんだんに使える理由だ。
その最高峰が、オメガの採用するセラミックス製のケースだ。焼結させたセラミックスをすべて切削することで、高級時計らしい切り立ったエッジと平滑な面を持つ。もっとも、立たせすぎない程度に角を落とすところに、老舗ならではの微妙な手腕がある。
すべての外装パーツが黒で覆われたユニークなモデル。ただし視認性に影響する部分はポリッシュとマットを使い分け、インデックスにはスーパールミノバを塗布することで視認性を確保している。自動巻き(Cal.8806)。35石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約55時間。セラミックケース(直径43.5mm、厚さ14.47mm)。300m防水。118万8000円(税込み)。(問)オメガお客様センター Tel.03-5952-4400
SUG×ジン
ジンの協力で設立されたSUGは、現在、ドイツを代表するケースメーカーとなった。納入先の大半はジンだが、他にもスイスの高級時計メーカーなどにも納めている。
貴金属も加工するようになった同社だが、得意とするのは、やはり気密性の高いステンレススティールケースだ。加えて回転ベゼルやプッシュボタンを改良することで、ケースの実用性をさらに高めるようになった。
ブルーのグラデーション文字盤が特徴の限定モデル。潜水艦に使用される、鋼鉄製のタフなケースを持ち、構造上外れない回転ベゼルなど、ジン・テクノロジーを盛り込んだ実用機である。自動巻き(Cal.SW300-1)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。Uボートスチールケース(直径41mm、厚さ11.15mm)。500m防水。世界限定500本。57万2000円(税込み)。(問)ホッタ Tel.03-5148-2174
ヴティライネン&カトゥン×オフィオン
老舗のケースメーカーであるアンリ・カトゥンと、ヴティライネンの合弁会社がヴティライネン&カトゥンだ。現在同社は、ヴティライネンはもちろん、サルトリー・ビラール、リリックといったマイクロメゾンにもケースを提供する。
写真はオフィオン「786 ベロス」のケース。ヴティライネン譲りのティアドロップラグを持つステンレススティールケースは、極めて丁寧に磨かれている。なお、ケース作りの博物館を擁するのは同社ぐらいではないか。
モデル名となった「べロス」はギリシャ語で「矢」を意味し、鋭く鮮やかなブルーカラーの針が、細かなギヨシェパターンの文字盤上で際立つ。CNCによる加工技術を駆使し、いずれも価格以上の仕上がりを実現している。手巻き(Cal.TT718.00)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約120時間。SSケース(直径39mm、厚さ10.45mm)。50m防水。69万9600円(税込み)。(問)クロノセオリー Tel.03-6228-5335
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