A.ランゲ&ゾーネCEOのヴィルヘルム・シュミットに、需要に供給が追いついていない現在の同社の生産体制について聞いた。
鈴木幸也(本誌):取材・文 Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年5月号掲載記事]
瞬間にして美しいものは長期にわたって好まれなくなる
A.ランゲ&ゾーネCEO。1963年、ドイツ生まれ。アーヘン大学で経営学を学んだ後、BPカストロール、BMWを経て、2011年より現職。ブランドの長期的発展を見据えて、工場とブティックの拡充を図り、さらに基幹コレクションを整理。情熱的な時計コレクターがコアな客層だと明言するが、近年、30代以下の若い顧客が増えたことに対しても「彼らも自然とコレクターになっていきます」と同社が追求する本物の時計作りに自信を見せる。ブランド価値を高めることに注力する姿勢は、時計関係者から高い評価を得ている。
「確かに、手に入らないから貴重になり、一層欲しくなる。A.ランゲ&ゾーネは本物の時計作りをずっとしています。そこには熟練の職人による手作業が多く含まれています。彼らの作業量には限りがあり、そこが生産量の限界になります。自社で持つ時計学校以外にも、毎年新たに12人を採用し、技術者を増やしています。現在、会社全体の従業員が約560人で、年間5000本程しか生産していません。これ以上、生産数を増やすと、クォリティの面からも愛好家の皆さんの要求に応えられなくなってしまいます。しかも企画・デザイン・製造のすべてが自社製のうえ、そのほとんどに手作業の工程が含まれますから、それをスピードアップするのは難しいのです」
それは結果的に、市場での稀少性を高めることになるが、それも戦略なのか?
「私のブランドの客層が集中しているのはコレクターたちです。彼らは真の時計好きで、とても情熱のある人たちです。こうした時計のことをとてもよく知っている人たちが多くを占めています。彼らは、ランゲが好きだから長い間、時計を買い求めてコレクターになっているわけです」
シュミットは確信を持った表情で続ける。
「ただし、そこでとどまっていてはいけないんですよ。期待を裏切らないものを発表していかないといけない。つまり、永遠にコレクターを惹きつけていかなければならないのです。実は、オデュッセウスを発表した当初、昔からのコレクターにはあまり評価されませんでした。それが、だんだん慣れてきて、欲しいと言ってくれるようになった。瞬間にして美しいものは長期にわたって好まれなくなる、つまり、飽きが来る。当初、“ランゲらしくない”という評価がありましたが、それは間違っています。なぜなら、白紙の状態から自分たちで企画・デザイン・開発・製造し、すべてのディテールにも妥協なく完璧な美しさを表現しながら作っています。デザインが気に入らないのは別の話ですが、“ランゲらしくない”というのは当たらないと思います」
完璧なクォリティを目指した時計作りに、愛好家への〝驚き〞を常に盛り込み、決して立ち止まらない。ウォッチズ&ワンダーズで発表されたばかりの「オデュッセウス・クロノグラフ」も決して例外ではない。
「ランゲ初の自動巻きクロノグラフですが、それだけではありません。リセットの際の針の動きに〝驚き〞があります。後はウォッチズ&ワンダーズでのお楽しみです」
A.ランゲ&ゾーネ初の自動巻きクロノグラフがオデュッセウスから登場。原稿執筆時点で未見のため詳細は不明だが、CEOのヴィルヘルム・シュミットによると、最大の見どころはリセット時のクロノグラフ針の動きにあるという。開発に6年を要し、オデュッセウスの特徴である日付と曜日表示を生かすため、積算カウンターは設けず、センター積算計とした。コラムホイールと垂直クラッチを採用。自動巻き(Cal.L156.1)。52石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径42.5mm、厚さ14.2mm)。120m防水。世界限定100本。価格要問い合わせ。
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