ブルガリ「オクト フィニッシモ クロノグラフ GMT」を着用レビュー。軽い、薄い、だけどガチ!!

2023.04.30

使える自動巻きとGMT機能

 ひと昔前の薄型自動巻きは、総じて自動巻きの巻き上げが弱かった。ゼンマイを巻き上げるローターが軽いため、腕の動きが小さいと、ゼンマイが巻き上がらなかったのである。対して、オクト フィニッシモの自動巻きは、マイクロローターにせよ、自動巻きクロノグラフが採用したペリフェラルローターにせよ、巻き上げ効率は悪くない。

 鍵となったのは、MPS製の自動巻きシステム「Titan」だ。これは、セラミックのベアリングを使うことで、可能な限り抵抗を抑えたもの。つまり、ペリフェラルのような軽いローターでも、十分巻き上がるというわけだ。筆者はほぼデスクワークでのみ使用したが、巻き上げには全く問題がなかった。

こちらはCal.318ではなく、標準的なオクトフィニッシモの地板。写真が示すとおり、仕上げはかなり良好だ。ブルガリは公言していないが、ムーブメントの優れた仕上げ(とりわけ手作業で丸められた面取り)は、フィニッシモコレクションに共通する美点だ。

 なおケースがセラミックということもあってローター音ははっきり鳴る。しかし、ローターの慣性が小さいためか、音は大きくない。個人的な感想を言えば、十分に許容範囲だ。精度も日差±10秒程度と、薄型としては良好だった。

 薄さを優先したためか、このムーブメントには日付も12時間積算計も付いていない。一般的に、12時間積算計は機械式時計の動力源である香箱から直接動力を取っている。オメガのキャリバー321やキャリバーETA7750のように、動力をオン/オフするクラッチを省けばコンパクトにまとめられるが、ストッパーが摩耗するとクロノグラフを作動させてないのに勝手に12時間積算計が回ってしまう。おそらくはそれが理由で、ブルガリは12時間積算計そのものを省いてしまったのだろう。

 代わりに設けられたのは、3時位置のGMT機能と、9時位置のプッシュボタンで調整する時針の単独修正機能だ。ボタンを一押しすると、時針が1時間ごとにジャンプする。筆者はこの時計をジュネーブに持って行ったが、かなり使い勝手は良かった。オクト フィニッシモは薄さを感じさせることなく普段使いできるモデルだが、これはクロノグラフも例外ではない。プッシュボタンを押した感触も、クロノグラフのそれに同じく、適度な剛性感がある。


薄いのに立体的な不思議な外装

 オクト フィニッシモ クロノグラフは、立体的なのに薄いという、不思議な外装を持っている。腕に載せると存在感があるのに、装着感は至って快適なのだ。また、外装は角張っているにもかかわらず、エッジが立ちすぎることもない。1ピースのコマを繋いだブレスレットも、予想外に優秀である。

 セラミックス素材のためか、金属ブレスのようなウネウネ感はない。ただし、角は丁寧に落としてある上、時計全体が軽いので腕に馴染むのだ。ブレスレットには極端に強いテーパーがかかっているが、時計が軽くて薄いため、装着感には全く影響がない。「時計軽いは七難隠す」をこれほど体現した時計は珍しいのはないか。

 なお、このモデルに限らず、ステップ状のケースを持つフィニッシモは、直径に比べて、どうしても時計が大きく見えてしまう。筆者は慣れてしまったが、購入を考えている人は、腕に載せることをお勧めします。ちなみに、テストしたモデルは、文字盤も針もインデックスもブラックのため、視認性は高くない。オールブラックモデルの常で、時間の読み取りやすさは期待しないこと。

本作のセラミックケースは、すべてブラスト処理が施されている。角張っているように見えるが、肌に当たらないギリギリで、エッジは落とされている。ジュエラーならではの配慮を感じさせるポイントだ。なおブレスレットはネジ留めではなく、簡易なピン留めだが、薄いフィニッシモには向いているだろう。


相変わらずよくできたバックル

 オクト フィニッシモの大きな特徴が、ブレスレットに埋め込まれたバックルだ。ただ、セラミックのモデルは、耐久性を考えたのか、貴金属のモデルほどバックルが埋め込まれていない。代わりに、バックルを支えるプレートにはセラミックのボールが埋め込まれている。

 個人的には、レギュラーモデルのバックルよりも、セラミックス板のほうが好みだ。バックルにはプッシュボタンなどはないが、意外と付け外しはしやすい。


結論:薄い、軽い、だけじゃない使える時計

 薄さばかりに目が行ってしまうオクト フィニッシモ。しかし、この時計の美点は、極薄であることを感じさせない、非凡な実用性にある(ただし視認性はのぞく)のではないか。残念ながら、テストで使ったセラミックスケースのクロノグラフは完売だ。

 しかし、このモデルに限らず、フィニッシモは腕に置いてみる価値はある。少なくとも、薄型時計に対する概念は、きっと変わるはずだ。薄くて、これほど使える時計があるとは、正直想像外だった。今や生半なメーカー以上に時計メーカーとなったブルガリ。オクト フィニッシモは、そんな同社の実力を端的に示す傑作だ。


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