実用性抜群なGMTウォッチ、ボール ウォッチの新作「エンジニア Ⅲ アウトライアー」を実機レビュー

2023.05.09

海外渡航者に便利な時針単独可動のGMTムーブメント

 本作に搭載されているのは、ボール ウォッチの自社製自動巻きムーブメント、キャリバーRRM7337-Cである。C.O.S.C.公認クロノメーターを取得した高精度と、約42時間のパワーリザーブを備える基本性能に加え、時針単独調整が可能なGMT機能を搭載している。これによって、異なるタイムゾーンに移動した際に、すぐに時差を修正することが可能だ。

 実際にリュウズを操作してみる。ねじ込みを解除し一段引くと、時針を単独可動させることができる。12時側に回すと時針を1時間分送り、6時側に回すと1時間分戻すことが可能だ。このポジションでは秒針規制が働かないため、時差調整時に時刻がずれる心配はない。夜中の12時を境に、時針に合わせて日付も連動して修正されるため、日付を跨ぐ移動でも支障がなく調整することが可能だ。

 その代わり、一般的な3針ムーブメントに備わっているような日付のクイックチェンジ機能はなく、日付の調整をするためには、1日分につき時針を2周させる必要がある。送るだけでなく戻すことも可能であるため、久しぶりに使う際には、送るか戻すか、どちらが早く調整できるかを見極めると良いだろう。

 もう一段リュウズを引くと、時刻調整をすることができる。このポジションでは、秒針が止まり、時分針とGMT針が連動して動く。時刻を調整しリュウズを押し込んだ状態では、主ゼンマイの巻上げが可能だ。


取り回しやすいサイズ感と抜群の視認性

 腕に載せてみると、直径40mmのケースから想像していたよりも少し大柄に感じた。これは、ミドルケースよりもベゼルの方がわずかに大きいためだろう。実際に計測してみたところ、ベゼルは直径約41.5mmであった。ケースの縦は実測で約46.5mm。腕周り16.5cmの筆者にはちょうど良い収まり具合だ。

 腕を振ってみると、バックルが薄いためか、少々ヘッドの重さが気になった。腕上で時計が暴れないようにするためには、ブレスレットをきつめに調整することが有効だが、そうすると今度は、勘合式のバックルを外すためにブレスレット内側に指を滑り込ませることが難しくなる。実際の使い勝手を考えると、プッシュボタン式の方が本作に合っていたのではないかと感じる。

エンジニア Ⅲ アウトライアー

バックルの開閉は勘合式だ。脱着時には力を入れる必要があるが、プッシュボタンのような機構を持たないため、バックルそのものを薄く仕上げることができる。デスクワークにはうってつけだろう。

 マットブラックダイアルとホワイトのマイクロ・ガスライトが作り出すコントラストによって、視認性は非常に高い。ただし、時分針は中央に稜線があるものの、その造形は平面に近く、かつ鏡面仕上げのために光が反射し、光の具合によっては針の輪郭をはっきりと捉えることが難しい。特に分針は、先端がどこを指しているのかが分かりづらい場面があった。

 暗所ではマイクロ・ガスライトが輝き、抜群の視認性を確保してくれる。スーパールミノバに比べて特段輝度が高い訳ではないが、自発光型のために光り方にムラがなく、途中で明るさが失われてしまうこともない。暗所で長時間の作業にあたる場合には、かなりのアドバンテージになるはずだ。

 ボックスサファイアクリスタルは、立ち上がり部分が柔らかく歪み、ダイアルにクラシカルな温かみを与えている。角度を変える度に変化する表情は、ボックスサファイアクリスタルの魅力のひとつだ。ただし、ダイアルの縁が歪んで見えてしまうため、そこに配された24時間表記を読み取るためには少々苦労することもあった。

エンジニア Ⅲ アウトライアー

ケースサイドには、縦方向のヘアラインが与えられている。厚さは13.8mmあるが、見た目のバランスは良好だ。ブレスレットとミドルケースの接続は、バネ棒ではなくネジによるもの。

 ベゼルは先述の通り、1周24クリックで双方向に回転するが、スムーズに回すためには少しコツが要る。ベゼルの側面に滑り止めの溝が刻まれているものの、ダイアル正面から見ると分かるように、その溝の主張はあまり強くない。そのため、ベゼルの上から押しつけて回すようにすると溝に指がかからず、回しづらいのだ。

 なるべくベゼルの下部を指で摘まむようにして回すと、余計な力を入れずに済む。ベゼルの直径がミドルケースよりも大きいのは、ベゼルの回しやすさを考慮した結果ではないだろうか。色々と試してみた結果、2時位置と8時位置を摘まんで回す方法が、筆者にとって一番回しやすかった。

 恐らくこのベゼルのデザインは、誤作動の防止を狙ったものではないだろうか。タイムゾーンを跨ぐのは、一般的な生活であれば日に何度も発生するようなことではない。つまり、ベゼルの操作頻度は低い。そして、頻繁に設定する都市であれば別だが、ベゼルの設定がずれてしまったとしたら、そのことに気付くことは難しいだろう。

 つまりこの手のベゼルに対しては、操作性は二の次で、第一にずれないことが求められるはずだ。本作のような仕様であれば、ベゼルに何かがぶつかったとしても、そうそう簡単には動かないだろう。

エンジニア Ⅲ アウトライアー

直径40mmのミドルケースに比べ、ベゼルは僅かに大きい。これによって、ベゼルが掴みやすくなっている。ラグ先端は細く、中央をポリッシュとしたブレスレットと相まってドレッシーなデザインだ。


ボール ウォッチの“正統”な世界へ誘う異端児

 総括して、本作は実直に作りこまれた時計だと感じた。個人的に気になった点は、ブレスレットくらいだろう。精度、防水性、耐衝撃性や視認性、取り回しやすさといった実用時計に求められる基本性能を高い次元で兼ね備え、特に耐磁性や暗所での視認性には、並みの時計を遥かに凌ぐスペックを与えられている。

 再び海外との往来が活発になってきた昨今において、益々有用さを増すGMTウォッチは、各社がこぞって新製品を送り出すカテゴリのひとつだ。本作では、その機能を最大3カ所のタイムゾーンの同時表示と、時針単独可動というリッチな仕様で搭載している。

 デザイン面としても、マットブラックダイアルやリュウズガードによるスポーティなテイストを基調としながらも、流麗なケースラインや鏡面を主体としたブレスレットがエレガントさを添えている。幅広いシーンで活躍できるモデルと言えるだろう。

 冒頭で紹介した通り同社は、本作を“ボール ウォッチのラインナップになかった異色のスタイルのスポーツウォッチ”と説明している。アウトライアーが意味する異端児という言葉が、世間一般ではなくボール ウォッチの中で比較したものとして使われていることに、独自の道を突き進む同社の姿勢を暗示しているのだろう。

 同社のラインナップの中でも比較的クセの無い本作は、これまでボール ウォッチの時計を手にしたことのなかった層にもその魅力を訴えかけ、やがて“正統”へと誘う足掛かりになることだろう。

ボール ウォッチ・ジャパン Tel.03-3221-7807


【2023年新作時計】ボール ウォッチから904Lステンレススティールを採用した「エンジニア Ⅲ アウトライアー」がデビュー

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編集部の勝手に討論会〜ボール ウォッチの国内新展開シリーズ「ロードマスター マリン GMT」〜

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