オリエントスターのスポーツコレクションに加わった新作は、「アバンギャルド」という名が示すように前衛的なコンセプトを持ち、ムーブメント・外装ともに最新の技術が反映されたスケルトンウォッチだ。先代モデルから一段と洗練された、「スポーツコレクション アバンギャルドスケルトン」の最新モデルに注目する。
土井康希(本誌):文 Text & Edited by Kouki Doi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年7月号掲載記事]
表現したのは金属が持つソリッドな表情
オリエントスターといえばスケルトン、と思うユーザーも多いだろう。それもそのはずで、現行モデルの半分以上が、ムーブメントのテンプ部分をダイアル側から見せたセミスケルトンか、地板を全体的に肉抜きしたスケルトン仕様となっているからだ。
時計全体がシルバーカラーで統一され、コンセプトである金属らしいソリッド感を最も強調したSSブレスレットモデル。ピッチが短い、新型のH型のコマを連結させることで、手首へのなじみを向上させた。自動巻き(Cal.F8F64)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径42.3mm、厚さ12.4mm)。10気圧防水。24万2000円(税込み)。2023年6月10日発売予定。
「輝ける星」と呼ばれる機械式腕時計を作りたい、という想いから誕生したオリエントスターは、すべてのモデルにおいて機械式ムーブメントを搭載している。その中でもスケルトンモデルは同ブランドが得意とすると同時に、古くから注力してきた分野なのだ。
オリエントスターが初めてスケルトンモデルを手掛けたのは1991年のこと。手巻きのCal.48320を搭載した「モンビジュ」(現在は販売終了)は、当時の国産機械式腕時計の中で異彩を放つ外観で、表裏から時を刻む様子を鑑賞できる意欲作だった。後にこの機械はオリエントスターに転用され今も進化を続けていると同時に、スケルトンウォッチというものを身近な存在にしてくれた。そんなモンビジュはスケルトンモデルの原点と言えるだろう。
ブラック×シルバーの配色がよりスポーティーで軽快さを演出。合わせられたストラップは表にコーデュラバリスティックナイロン、端面にカーフ、裏材に人工皮革を使用し、着けやすさと耐久性を考慮する。バックルもケースに合わせて黒い。自動巻き(Cal.F8F64)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径42.3mm、厚さ12.4mm)。10気圧防水。24万2000円(税込み)。2023年6月10日発売予定。
それから30年以上が経過した今、めまぐるしい技術の進歩により、性能・デザインともに現代にふさわしいものに進化を遂げている。今回注目するのは、スポーツコレクションに加わった「アバンギャルドスケルトン」の最新作だ。クラシカルな意匠を持つ大半のモデルとは異なり、存在感のあるスポーティーな印象のケースと、大胆にオープンワークを施したダイアルが魅力のシリーズである。2020年に誕生した同シリーズの初代モデルは、従来のクラシックからモダンなスタイルへと方向性を一変させ、先進性を押し出したものであった。それを受け継ぎ、満を持してフラッグシップ機として登場した新作2モデルは、外見も中身もまったく別物に仕上がっているのだ。
まずは外装。本作が表現するのは、金属が持つモノトーンで無機質な素材感。6本の六角ビスで留められたベゼルが目を引くケースは高品質なSUS316Lのステンレススティール製で、筋目とザラツ研磨による鏡面仕上げが際立つ。なお、ケースと同素材のブレスレットを組み合わせたRK-BZ0001Sと、黒いメッキをかけたケースにナイロン製のストラップを合わせたRK-BZ0002Bの2モデルが用意され、互いに印象を異にする。
最も注目すべきは精密な造形のオープンワークダイアルだろう。現代の精密加工技術を駆使し、デザイン・仕上げの質ともにレベルアップされた。2層構造であることは前作に同じだが、ダイアルとスケルトンムーブメントとの境目を感じさせない計算された意匠だ。ダイアルの下板は衝撃や変形を防ぐための直線的な造形で、表面には縦方向に筋目が入れられている。また上板は表示のための目盛り等が振られ、表面の筋目は放射状である。この2枚のレイヤーが重なることで、奥行きと立体感を与えているのだ。この手法はオリエントスターが得意な、「レイヤードスケルトン」の応用とも言える。
そしてムーブメントは、オープンワークダイアルを引き立てる大切な要素だ。本作が搭載するのは、新型のCal.F8F64。2021年にブランド創業70周年を記念したスケルトンモデルに初搭載された手巻きのCal.F8B63に自動巻き機構を追加した仕様で、採用は本作が初。最大の見どころは、エプソンとの統合によって実現した、シリコン製ガンギ車にほかならない。ガンギ車は脱進機の重要なパーツで、精密な設計と軽さ、そして耐摩耗性が求められる。プリンター等の電子機器製造を得意とするエプソンが持つMEMS技術を用い、割れやすいシリコンにバネ性を持たせるため独自の形状を開発。結果、脱進機効率が上がったことでパワーリザーブが延び、精度も向上したのだ。
この青く輝くシリコン製ガンギ車の動きはダイアル側からも確認でき、その存在を際立たせるためにメインプレートが肉抜きされているだけでなく、6時位置にあるスモールセコンドのリングの一部がカットされている。加えて、メインプレートの表面に切削による波目模様を施すことで、この腕時計の顔となるダイアル全面がきらびやかに輝くのだ。
ムーブメントもデザインの一部、というスケルトンならではの考え方から生まれたアバンギャルドスケルトン。外観も相まって現代的なアプローチに思えるが、モンビジュ誕生から時代とともに正統な進化を遂げた結果なのだ。
カジュアルに“着こなす”、レイヤーダイアルのコーディネート
暗めのトーンが多かったこれまでのレイヤードスケルトンとは異なり、明るく光沢のあるダイアルを採用。スーツからカジュアルスタイルまで幅広いシーンで映えるだろう。12時・6時位置にはローズゴールドカラーのローマンインデックスが配される。自動巻き(Cal.F6F44)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径41mm、厚さ13.6mm)。10気圧防水。9万6800円(税込み)。
もうひとつの注目作は、フォーマルなスーツスタイルから着想を得た、コンテンポラリーコレクションの「レイヤードスケルトン」に加わった2本の新モデルだ。セミスケルトンに分類されるが、2層に重なったレイヤーダイアルが奥行き感を与え、開口部からのぞくテンプの動きとも相まって華やかな印象を与えている。
そして世界限定1000本で展開されるRK-AV0B09Nは、シルバーグレーとネイビーブルーのツートンカラーが際立つリミテッド仕様。サンレイ仕上げはレギュラーモデルと共通だが、表面にテキスタイル模様を一切施していないシンプルさが新しい。搭載するのは、パワーリザーブインジケーターとスモールセコンドを備えたキャリバーF6F44。実用性に優れた10万円前後の機械式腕時計を探すなら、本作は有力候補になるだろう。
グレーのカーフレザーストラップが付属するリミテッドモデル。サファイアクリスタル風防は丸みを帯び、生地のドレープ感を表現した緩やかなカーブを描くラグ形状が特徴だ。5列リンクのしなやかなブレスレットが手首にフィットし、快適な着け心地を提供する。自動巻き(Cal.F6F44)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径41mm、厚さ13.6mm)。10気圧防水。世界限定1000本(うち国内300本)。10万4500円(税込み)。
オリエントスターサイト https://www.orient-watch.jp/orientstar/
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