隈研吾など著名な建築家が手掛けた、4つの時計ブランドの建築物を紹介

FEATUREWatchTime
2023.08.03

時計の世界における先駆的なデザインは、時計そのものだけではない。時計ブランドに関する建築物においても、ブランドの世界観が表現されているのだ。著名な日本人建築家である隈研吾など、世界に名を馳せる建築家4名が手掛けた4つのブランドの建築物を紹介する。

Originally published on watchtime.com
Text by Maria-Bettina Eich
2023年8月3日掲載記事


坂茂によるオメガ・スウォッチ本社

オメガ・スウォッチ本社

坂茂が設計を手掛けた、スイスのビール/ビエンヌに建つオメガ・スウォッチ本社。(問)スウォッチ コール Tel.0570-004-007

 2019年に完成したオメガ・スウォッチ本社は、上から見下ろすとまるで大きな蛇が横たわっているように見える。この特徴的な建物をデザインしたのは、建築家の坂茂(ばん しげる)だ。日本生まれの坂は、紙や木、竹といった素材で大きな創作物を作り出すことに長けている。

 また坂は、地震や台風といった災害の被災地のために、素早く簡単に設営できる、紙管を使った避難シェルターをデザインしている。2011年2月に発生したニュージーランド・クライストチャーチでの地震では、大きな被害を受けたクライストチャーチ大聖堂の仮説大聖堂として、紙管を使った「紙の教会」を手掛けている。

オメガ・スウォッチ本社

オメガ・スウォッチ本社は、約5年の施工期間を経て2019年に竣工した。

 スウォッチ本社に加え、ミュージアムや会議場を収容する「シテ・ドゥ・タン」とオメガ生産本部を併設するオメガ・スウォッチ本社は、全長240mという世界最大級の木造建築だ。坂茂らしい木製格子の骨組みで、内部は落ち着きのある雰囲気だ。

 その曲線的な構造はドラマティックかつ有機的であり、2800枚のファサード・エレメントで構成される鱗のような表層部分は、屋内の温度や湿度の調整も担っている。建物に使用する木材をスイス産にするという選択に加え、建築の持続可能性を最大限に確保するため、さまざまな技術が用いられた。


ビャルケ・インゲルスによるミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ

ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ

螺旋状の建築物である「ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ」。ブランド最古の建物に隣接している。(問)オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000

 デンマーク出身のビャルケ・インゲルスは、現代における最も革新的な建築家のひとりである。彼の建築会社「BIG(Bjarke Ingels Group)」は、過去や未来、慣習や伝統にとらわれることなく、建物を使う人々の需要や環境への配慮を考慮して建築を行う。

 そうして生み出された作品は、往々にして従来の建築物とは異なって見える。例えばデンマークのコペンハーゲンで、BIGは「コペンヒル」と呼ばれる廃棄物処理場を手掛けた。コペンヒルの屋上は人工芝や自然芝に覆われていて、その名の通り丘のような見た目をしている。その斜面は登ることができ、一年中スキーやスノーボードを楽しめるほか、ハイキングも楽しめるのだ。

ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ

Photograph by Maris Mezulis
ル・ブラッシュの地にとけ込むように建つ「オテル デ オルロジェ」。

 2020年、スイスのジュウ渓谷に位置する時計づくりの街、ル・ブラッシュに、ビャルケ・インゲルスが手掛けた「ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ」が完成した。ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲは、丘陵地帯の斜面に沿って建てられた、屋根が草に覆われた螺旋状の建物である。

オテル・デゾルロジェ

宿泊施設であるオテル デ オルロジェは、ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲと同じくBIGが設計を手掛けている。

 複雑な構造を持つミュゼ アトリエ オーデマ ピゲの内部は、グランド・コンプリケーションとメティエ・ダールのための工房を併設したオーデマ ピゲのミュージアムとなっている。そのほど近くに、おなじくBIGのデザインによる宿泊施設「オテル デ オルロジェ」がオープンしている。ラグジュアリーなデザインは建物を取り巻く自然をモチーフとしており、各部屋は斜面に沿ってジグザグに伸びた回廊で繋がっている。

ミュゼ アトリエ オーデマ ピゲ

Photograph by Ambroise Tezenas
建物の中心部には、複雑なタイムピースの製作を手がける工房が設けられ、訪れる人々がオーデマ ピゲの職人たちと身近に接する機会が提供されている。


隈研吾による「グランドセイコー ブティック パリ ヴァンドーム」

グランドセイコー パリブティック

2020年、パリのヴァンドーム広場にオープンしたグランドセイコーのブティック。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617

 日本の高級腕時計ブランドであるグランドセイコーは、2020年にパリのヴァンドーム広場にブティックをオープンするにあたり、日本出身の建築家、隈研吾を起用した。

グランドセイコー パリブティック

店内は竹が使用され、和の空間となっている。

 隈研吾は、自然素材を使った魅力的な空間を何度も生み出してきた。パリのグランドセイコーブティックでは、フレンチ・バロック調のファサードの奥に、日本らしい感覚を取り入れた空間を作り上げた。

 明るく直線的な竹の構造はブティックに静謐な雰囲気を与え、障子や畳にはグランドセイコーが表現する日本の美に見られるような伝統的工法が用いられている。


ル・コルビュジエによるラ・メゾン・エベル

ラ・メゾン・エベル

ラ・ショー・ド・フォンにあるメゾン・エベル。

 1917年、のちにル・コルビュジエとして名をはせるシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ=グリが、生まれ故郷であるスイスのラ・ショー・ド・フォンにおいてアナトール・シュウォブのための別荘を完成させた。

 エベルは、その6年前に同じ街で創業した時計ブランドだ。数十年が経ち、ル・コルビュジエはモダニズム建築の巨匠となり、エベルはスイスにおける重要なブランドのひとつとして地位を確立した。

ラ・メゾン・エベル

ラ・メゾン・エベルは、エベルが創立75周年を迎えた1986年に購入した建物で、1917年にル・コルビュジエが設計した。

 1986年、エベルは創業75周年を記念して、ル・コルビュジエの初期の作品を購入した。ヴィラ・シュウォブ、またの名を「ヴィラ・トゥルク(トルコのヴィラ)」というこの建物は、今はラ・メゾン・エベルと呼ばれている。

 若き日のル・コルビュジエのデザインであるが、幾何学構造や鉄筋コンクリート造りなど、のちに彼の代名詞となる要素が見られる。エベルによってエレガントに修復され、現在は再びラ・ショー・ド・フォンのアイコン的な建物として、時計愛好家たちを魅了し続けている。


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