ジン/EZM シリーズ Part.1

FEATUREアイコニックピースの肖像
2024.07.17

1961年の創業以来、良質なツールウォッチを製作してきたジン。そんな同社のフラッグシップが、プロ用のEZMシリーズである。アインザッツツァイトメッサー、出撃用計測機器という名称が示す通り、このシリーズは、ふたつの特殊部隊の要請から生まれたものだった。以降、EZMの各モデルは、ジンの進化を反映して、あらゆる点で大きく様変わりすることになる。

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2024年5月号掲載記事]


[1997~2005]EZM1
プロツールとして開発された最初期の特殊時計

EZM1

EZM1
1997年に発表された、EZMシリーズの第2作。同軸積算計の視認性を極限まで高めただけでなく、30気圧防水、そして-20℃から+70℃までの耐温性を持つ。自動巻き(Cal.レマニア5100)。17石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。Tiケース(直径40mm、厚さ16mm)。30気圧防水。参考商品。

 ローター・シュミットの下で、大きく変わったジン。同社は「ジン特殊時計会社」という会社名を体現するようなプロダクトを発表した。それが1997年の「EZM1」である。名前の由来は、出撃用計測機器を意味するアインザッツツァイトメッサーから。極端に機能に振った理由は、このモデルの成り立ちにある。ドイツ税関局の税関特殊部隊であるZUZの依頼で製作されたモデルだったからだ。ちなみにドイツ国境警備隊対テロリズム特殊部隊であるGSG9も、ほぼ同時期にジンに視認性の高い時計の製作を依頼した。最初に発売されたシリーズは、GSG9向けのEZM2。しかし、EZMとジンの名を広めたのは、ZUZの要望で生まれたEZM1だった。というのも、既存の403を手直ししたEZM2に対して、EZM1は純然たる新規設計だったのである。

EZM1

ミッションタイマーにふさわしく、EZMには回転式のカウントダウンタイマーが備わる。素材はチタン製。既存の103や203より夜光のマーカーが大きな理由は、視認性を高めるためだ。なお、パイロットウォッチとして使われることを考慮して、0.2気圧の環境下でもケースは破損しない。
EZM1

袖に引っかからないよう、短くカットされたラグ。また、ケースの反射を抑えるため、全面にブラスト処理が施された。ラグ横に見えるのは、ケース内の湿気を吸収するドライカプセル。後に、プロテクトガスとEDRパッキンを加えて、湿気をシャットアウトするArドライテクノロジーに発展した。

 その構成はいま見ても十分に野心的だ。チタン製ケースのクロノグラフにもかかわらず、防水性能は30気圧。また、ムーブメントの湿気を吸収するため、ラグの横にはドライカプセルが埋め込まれた。搭載するのは、同軸積算計を持つ自動巻きクロノグラフのレマニア5100。しかし視認性を高めるため、曜日や24時間表示、さらに秒針まで省かれた。

EZM1

ケースサイド。分厚いレマニア5100を搭載するため、ケースは決して薄くない。ただし、風防とベゼルを盛り上げて、袖口に引っかからないような配慮を加えている。

 ジンは少なくとも32本のEZM1をZUZなどに納品。このモデルは文字盤にZUZのロゴが記されていたほか、内3本は右リュウズに改められていた。続いてジンは、民生用モデルを発売。徹底して機能を求めた本作は人気を博し、2005年まで製造された。

 以降ジンはEZMコレクションを拡大するが、事実上のファーストモデルであるEZM1には、並々ならぬ思い入れがあるようだ。08年には250本限定で復刻したほか、17年には新型ムーブメントのSZ01を載せたEZM1.1を、22年にはEZM1.1Sを、各500本限定で製作している。

EZM1

EZM1の特徴が、60秒と60分の同軸積算計。文字盤に3Hのロゴが入ったモデルは、2002年まで製造された。Arドライテクノロジーを搭載した以降のモデルは、文字盤の表記がArに改められている。
EZM1

ケースバック。チタン製のケースを持つクロノグラフでありながら、本作は30気圧防水を実現していた。気密性の高いケースは、以降EZMシリーズの一要素となる。


[2001~Current]EZM3
高耐磁性能を付与されたミッションタイマー

EZM3

EZM3
EZMのベストセラーが本作。コンパクトなサイズに、高い視認性と防水性、8万A/mもの耐磁性を持つ。またArドライテクノロジーに加えて、超低温から高温下でも安定した精度を持つ。自動巻き(Cal.SW200-1)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径41mm、厚さ12.3mm)。50気圧防水。44万円(税込み)。

 ZUZ向けにEZM1を、特殊部隊のGSG9向けにEZM2をリリースしたジンは、続いてドイツ消防レスキュー部隊向けにEZM4を発表した。これらは出撃用計測機器という名前にふさわしかったが、用途は限られていた。対してジンは、汎用性の高い3針のダイバーズウォッチを追加した。それが2001年に発表されたEZM3である。

 本作のコンセプトはEZM1に同じ。腕の動きを妨げない左リュウズや、ドライテクノロジー、そしてジンの特殊オイル66-228による-45℃から+80℃内での精度保証も同様だ。加えて本作は軟磁性素材のインナーケースで、8万A/mもの耐磁性能が与えられた。理由は、やはりプロユースのため。関係者によると、高耐磁の理由を聞かれたローター・シュミットは「電子戦に対応するため耐磁性能を高めた」と答えたそうだ。

EZM3

EZM1譲りの回転ベゼルには、やはり三角形のマーカーが備わる。ダイバーズウォッチとして企画された本作は、逆回転防止の回転ベゼルに変更された。EZM1に同じく、0.2気圧でもケースが破損しない耐低圧性能を持つ。
EZM3

EZMシリーズの特徴であるコンパクトなラグ。除湿用のドライカプセルが埋め込まれたのもEZM1に同様だ。デザインは2001年のファーストモデルに同じだが、SUG製のケースは明らかに質感が改善された。

 ケース素材に選ばれたのは、チタンではなくステンレス。発表前の情報ではチタンケースとされていたが、製品版ではステンレスに改められた。EZM4では、発火の恐れがあるためステンレスとなったが、本作では、おそらく製造コストを抑え、防水性を高めるためにステンレスに変更されたのだろう。防水性能はEZM1の30気圧から、ダイバーズウォッチにふさわしい50気圧に向上した。合わせてベゼルも、カウントダウンタイマーから、ダイバーズウォッチでは標準的な逆回転防止に改められた。

EZM3

ケースサイド。裏蓋の張り出したデザインだが、装着感はまずまずだ。

 直径41mm、厚さ12.3mmというコンパクトなサイズに、プロ向けの仕様を詰め込んだEZM3は、そう言って差し支えなければ、最も完成された実用時計のひとつである。また、ムーブメントにベーシックなETA2824-2(2021年以降はセリタSW200)を使うことで、本作は整備性にも優れていた。その非凡な完成度は、EZM3が今なおカタログに載り続けていることからも明らかだ。

EZM3

EZM譲りのコントラストを強調した文字盤。なお、このモデルに限らず、EZMシリーズは文字盤と針のクリアランスを詰めている。これが、ありきたりのツールウォッチと一線を画す理由である。
EZM3

50気圧防水を可能にした強固な裏蓋。ムーブメントにはベーシックなものを採用する。なお2005年以降、EZM3は船級協会であるDNVのダイバーズ認証を得ている。これは時計を-20℃と+50℃の環境でそれぞれ3時間放置したのち、-30℃で3時間、そして+70℃、湿度95%の環境で3時間再テストするというもの。現在、ジンのダイバーズウォッチは、別条件の規定が設けられているUXシリーズを除いて、すべてがこの規格をクリアしている。



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