1961年の創業以来、良質なツールウォッチを製作してきたジン。そんな同社のフラッグシップが、プロ用のEZMシリーズである。アインザッツツァイトメッサー、出撃用計測機器という名称が示す通り、このシリーズは、ふたつの特殊部隊の要請から生まれたものだった。以降、EZMの各モデルは、ジンの進化を反映して、あらゆる点で大きく様変わりすることになる。
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2024年5月号掲載記事]
[1997~2005]EZM1
プロツールとして開発された最初期の特殊時計
1997年に発表された、EZMシリーズの第2作。同軸積算計の視認性を極限まで高めただけでなく、30気圧防水、そして-20℃から+70℃までの耐温性を持つ。自動巻き(Cal.レマニア5100)。17石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。Tiケース(直径40mm、厚さ16mm)。30気圧防水。参考商品。
ローター・シュミットの下で、大きく変わったジン。同社は「ジン特殊時計会社」という会社名を体現するようなプロダクトを発表した。それが1997年の「EZM1」である。名前の由来は、出撃用計測機器を意味するアインザッツツァイトメッサーから。極端に機能に振った理由は、このモデルの成り立ちにある。ドイツ税関局の税関特殊部隊であるZUZの依頼で製作されたモデルだったからだ。ちなみにドイツ国境警備隊対テロリズム特殊部隊であるGSG9も、ほぼ同時期にジンに視認性の高い時計の製作を依頼した。最初に発売されたシリーズは、GSG9向けのEZM2。しかし、EZMとジンの名を広めたのは、ZUZの要望で生まれたEZM1だった。というのも、既存の403を手直ししたEZM2に対して、EZM1は純然たる新規設計だったのである。
その構成はいま見ても十分に野心的だ。チタン製ケースのクロノグラフにもかかわらず、防水性能は30気圧。また、ムーブメントの湿気を吸収するため、ラグの横にはドライカプセルが埋め込まれた。搭載するのは、同軸積算計を持つ自動巻きクロノグラフのレマニア5100。しかし視認性を高めるため、曜日や24時間表示、さらに秒針まで省かれた。
ジンは少なくとも32本のEZM1をZUZなどに納品。このモデルは文字盤にZUZのロゴが記されていたほか、内3本は右リュウズに改められていた。続いてジンは、民生用モデルを発売。徹底して機能を求めた本作は人気を博し、2005年まで製造された。
以降ジンはEZMコレクションを拡大するが、事実上のファーストモデルであるEZM1には、並々ならぬ思い入れがあるようだ。08年には250本限定で復刻したほか、17年には新型ムーブメントのSZ01を載せたEZM1.1を、22年にはEZM1.1Sを、各500本限定で製作している。
[2001~Current]EZM3
高耐磁性能を付与されたミッションタイマー
EZMのベストセラーが本作。コンパクトなサイズに、高い視認性と防水性、8万A/mもの耐磁性を持つ。またArドライテクノロジーに加えて、超低温から高温下でも安定した精度を持つ。自動巻き(Cal.SW200-1)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径41mm、厚さ12.3mm)。50気圧防水。44万円(税込み)。
ZUZ向けにEZM1を、特殊部隊のGSG9向けにEZM2をリリースしたジンは、続いてドイツ消防レスキュー部隊向けにEZM4を発表した。これらは出撃用計測機器という名前にふさわしかったが、用途は限られていた。対してジンは、汎用性の高い3針のダイバーズウォッチを追加した。それが2001年に発表されたEZM3である。
本作のコンセプトはEZM1に同じ。腕の動きを妨げない左リュウズや、ドライテクノロジー、そしてジンの特殊オイル66-228による-45℃から+80℃内での精度保証も同様だ。加えて本作は軟磁性素材のインナーケースで、8万A/mもの耐磁性能が与えられた。理由は、やはりプロユースのため。関係者によると、高耐磁の理由を聞かれたローター・シュミットは「電子戦に対応するため耐磁性能を高めた」と答えたそうだ。
ケース素材に選ばれたのは、チタンではなくステンレス。発表前の情報ではチタンケースとされていたが、製品版ではステンレスに改められた。EZM4では、発火の恐れがあるためステンレスとなったが、本作では、おそらく製造コストを抑え、防水性を高めるためにステンレスに変更されたのだろう。防水性能はEZM1の30気圧から、ダイバーズウォッチにふさわしい50気圧に向上した。合わせてベゼルも、カウントダウンタイマーから、ダイバーズウォッチでは標準的な逆回転防止に改められた。
直径41mm、厚さ12.3mmというコンパクトなサイズに、プロ向けの仕様を詰め込んだEZM3は、そう言って差し支えなければ、最も完成された実用時計のひとつである。また、ムーブメントにベーシックなETA2824-2(2021年以降はセリタSW200)を使うことで、本作は整備性にも優れていた。その非凡な完成度は、EZM3が今なおカタログに載り続けていることからも明らかだ。
特殊用途に特化した計測機器、その全記録
[EZM1~EZM16]
1997年の発表以来、ミッションタイマーとして独自の存在感を築き上げてきたEZMシリーズ。基本的なコンセプトは不変だが、ジンの進化を反映して、その在り方は大きく変わってきた。Arドライテクノロジーに代表される技術はもちろん、SUG製の優れたケースや、独自のモジュールなどが、EZMシリーズに質的な飛躍をもたらしたのである。
GSG9の要望から生まれたダイバーズウォッチ。ベースは403 ハイドロだが、視認性がより改善された。ケース内にシリコンを封入することで500気圧防水を誇る。-20℃から+60℃までの精度保証。クォーツ。SSケース(直径41mm、厚さ11.4mm)。5000m防水。参考商品
ジンがEZMを開発するきっかけは、ふたつの機関からのアプローチだった。それがドイツ税関局の税関特殊部隊であるZUZと、ドイツ国境警備隊の対テロリズム特殊部隊のGSG9である。1996年12月、GSG9のダイビング部隊に所属するふたりの人物がジンを訪問した。理由は「過酷な条件に耐えられるダイバーズウォッチを作ること」。その際彼らが要求したのは、視認性に優れていることのみだった。
ローター・シュミットは、当時開発中だったダイバーズウォッチの「403 ハイドロ」をベースに、GSG9向けモデルの開発に着手。97年に発表されたのが、最低でも500気圧の防水性能を持つ「403.EZM2」だった。かつてない防水性能を持てた理由はケースの内部にシリコンオイルを封入したため。加えてシリコンは、水中での高い視認性という副産物をもたらした。なおこのアイデアについて、シュミット本人は筆者にこう語った。「ケース内にオイルを注入すると、外圧に対してオイルが反発し、どれだけ深く潜ってもケースは外圧で潰れない。またオイルが入っているため、視認性も高くなる。そもそもケース内にシリコンを注入するというアイデアは軍用のコンパスから。IWCの在籍中にもやりたかったが、当時はできなかった」。
EZM2の後継機。ケース素材がUボート・スチールに変更されたほか、温度補正クォーツの採用で精度もさらに向上した。なおケース単体では1200気圧に耐えられる。クォーツ(Cal.ETA955.652)。直径44mm、厚さ13.3mm。5000m防水。59万9500円。
それとほぼ同時期に、ZUZの隊長もジンを訪問し、全く新しい時計の開発を依頼した。求められたのは、GSG9に同じく、高い視認性。要望を受けたジンは、15分以内にミッションが終わることを踏まえて、計測以外の表示要素はほぼ省いたクロノグラフの開発に取り組んだ。登場したのが、先述の「EZM1」である。
公的機関がジンに依頼した理由はいくつか考えられる。ひとつは1960年代以降、ドイツ軍のサプライヤーとしての実績があったこと。加えて、GSG9に所属する隊員の多くはジンの愛用者だった。関係者は、依頼者のひとりは「142」を使っていたと語る。ローター・シュミットがCEOになったことももうひとつの理由だろう。IWCで野心的なモデルの開発に携わった彼は、本人の言葉に従うなら「時計よりも技術が好き」なアイデアマンであり、大メーカーで生産と品質管理を学んだ〝逸材〞だったのである。
ちなみに彼がIWCで携わったモデルには「オーシャン2000」や「インヂュニア50万A/m」がある。シュミットがシリコンオイルというアイデアを思いついたのは、おそらく前者の開発時だろう。ちなみにIWCは、ケースの気密性を高めて防水性を上げるという解決策をとり、ラバーではなく、メタルのガスケットを採用した。これは後に、オメガが「ウルトラディープ」に用いた手法である。また、インヂュニア50万A/mの開発に際して、シュミットは非磁性の素材を、ヒゲゼンマイだけでなく、ムーブメントのあらゆる部品に採用した。結果としてこのモデルは、非公式には370万A/mもの耐磁性を実現したのである。もっとも、このふたつのモデルは、当時のIWCからしても、極端に野心的なモデルだった。後に同社はベーシックで堅牢な方向に立ち返り、おそらくはその結果、シュミットはIWCを離れようと考えたのではないか。彼がジンで最初に手掛けた「244Ti」、そして1997年発表の「EZM2」と「EZM1」からは、エンジニアリングを求める彼の姿勢が強く感じられる。
ダイバーズウォッチのEZM3をパイロットウォッチに仕立て直したモデル。防水性能は20気圧に下げられたが、耐磁性能はそのままに、ケース厚を11.7mmに抑えた。カウントダウンタイマー付きの両方向回転ベゼルを採用。自動巻き(Cal.SW200-1)。直径41mm。44万円。
ちなみにジンを創業したヘルムート・ジンは優れたパイロットであり、品質にうるさい(うるさすぎるという声もあった)経営者だった。しかし彼はエンジニアというよりも、バックヤードビルダーであり、会社を成長させるという意図はなかった。対してそんなジンから会社を譲り受けたシュミットは、ジン特殊時計会社を技術力のあるメーカーに脱皮させようと考えていた。プロフェッショナル向けの計器を作る、という依頼は、渡りに船だったのではないか。
以降、EZMコレクションの発展を、ジンの進化と合わせて見ていきたい。1997年にEZM2と1を発表したジンは、2001年に第3作の「EZM4」をリリースした。ベースとなったのはレマニア5100を載せたパイロットウォッチの157。このモデルは、EZMシリーズとしては珍しく、文字盤には黄色と赤のマーカーが施された。これは酸素ボンベの最低持続時間を示すもので、黄色の15分で救出地点に到達し、赤色の15分で現場から脱出する時間を示していた。また、被害者の脈拍を測るため、文字盤の外周にはタキメーターではなくパルスメーターが記された。
ファイアーレスキュー専門誌とのコラボレーションモデル。酸素ボンベの使用時間を確認できる。「アキレス」という通称は、フランクフルト消防隊に属していたエルンスト・アキレス教授に由来する。自動巻き(Cal.レマニア5100)。SSケース(直径40mm、厚さ15mm)。参考商品。
同年に発表されたのが、先述した「EZM3」である。事前の情報によると、ケースはステンレスではなくチタン製で、文字盤にはブランドロゴではなくEZMの表記があった。このモデルに限らず、EZMがチタンの採用をやめた理由は、防水性能を高めるためと、強いて言うならば、リュウズ回りの耐久性に難があったためではないか。1990年代から2000年代にかけて、多くのメーカーがチタンケースの採用に取り組んだが、長続きしなかった。理由はいくつかあるが、そのひとつは、リュウズを何度もねじ込むと、チタン製のリュウズチューブが簡単に摩耗することだった。個人的な推測はさておき、以降のEZMシリーズから、しばらくの間、チタン製ケースが省かれたのは事実である。
これに先立つ3年前、旧GUBで機械設計者だったロナルド・ボルト博士が、グラスヒュッテにSUGというケースメーカーを興した。ドイツでケースを製造しようと試みていた彼に対して、手を差し伸べたのは、グラスヒュッテの時計関係者ではなく、ジンを引き継いだばかりのローター・シュミットだった。ボルトはこう語る。「当時のジンは、ケースをスイスのプレタで作っていたが、彼はドイツ製のケースを使いたいと考えていた」。シュミットは新会社SUGの設立に融資。ボルト曰く、その額は決して多くなかったそうだが、ドイツ屈指の時計メーカーであるジンの助力は、銀行から融資を受ける際に役立ったそうだ。ちなみに現在、SUGはジン以外のドイツメーカーにもケースを供給するが、売り上げの大半は今なおジン向けである。SUGを傘下に収めて以降、ジンの時計、とりわけ特殊なEZMコレクションが、外装の質を大きく高めたのは当然だろう。
その成果は2005年の「EZM5」の回転ベゼルに見て取れる。03年に外装硬化処理技術のテギメントを開発したジンは、まずはパイロットウォッチの756に採用。続いてはプロ向けのダイバーズウォッチであるEZM5に転用した。併せてケースの素材も、通常のステンレスから、ジンが言う「Uボート・スチール」に置き換えられた。シュミットはこう説明する。「Uボート・スチールとは、HY100鋼のこと。ただしこれは組成がまちまちで、時計のケースには向かない。そのためジンはHY100鋼の中でもより厳密にDIN 1・3964を指定している。製造メーカーはUボートに使われる鋼に同じ、ティッセンクルップだ」。
SUGへの資本参加がもたらした、新時代のEZMシリーズ。ケースには耐蝕性の高いUボート・スチールを採用。ベゼルにはテギメント加工を施す。ブラスト処理のケースは質感も良好だ。自動巻き(Cal.SW330-1)。直径44mm、厚さ15.5mm。2000m防水。67万1000円(税込み)。
ちなみにテギメントとは、ステンレスの表面に施す窒化処理を指す。表面は硬くなるが、普通のステンレスに施すと磁気帯びしやすくなり、耐蝕性も悪化する。対してジンは、ダイバーズウォッチの外装をテギメント化するにあたって、素材を磁気帯びしにくく耐蝕性にも優れたUボート・スチールに置き換えたのである。SUGを傘下に収めればこその、新しい取り組みだ。
このEZM5の延長線上にあるのが、2008年の「EZM6」である。ケースの素材は、テギメント加工したUボート・スチール。加えて、「D3システム」により、水中でもプッシュボタンを操作できるようになった。これはプッシュボタンのガードを省き、代わりに二重の防水パッキンと、非常に重いプッシュボタンのバネを加えることで、高い防水性能と、水中でのクロノグラフ使用を可能にしたもの。パッキンに依存するシンプルな防水システムを進化できたのは、ジンが他メーカーにはないパッキンを使用するためだ。同社が2002年以降採用するバイトン製のパッキンは、最低20年は化学的安定性が保持されるほか、通常の使用時でも最低10年は耐摩耗性が持続するとのこと。加えて、水中での誤作動を抑えるため、プッシュボタンを押す力は、普通のクロノグラフの倍以上である2.5㎏まで引き上げられた。
EZM5の発展形が本作。SUGの「D3システム」により水中でのクロノグラフ操作が可能。またムーブメントには、汎用エボーシュに独自モジュールを重ねたSZ02を採用する。自動巻き(Cal.SZ02)。Uボート・スチールケース(直径44mm、厚さ18mm)。1000m防水。参考商品。
SUGへの資本参加により、時計としての完成度をさらに高めたEZMシリーズ。ひとつの完成形が、2010年のEZM7だろう。これはハッティンゲン消防隊で主任消防監察官を務める、トマーシュ・シュタンケのアイデアを具体化したもの。回転ベゼルと複数の表示を併用することで、呼吸保護具を使う際に必要な複数の数値を瞬時に読み取れるようになっている。また、ケースにはテギメント加工された904Lスチールが採用された。904Lというステンレス素材は、加工しにくい反面、素材としては極めて安定している。ではなぜ、ジンは同じように優れた素材であるUボート・スチールを使わなかったのか。理由はおそらく物性だろう。Uボート・スチールことDIN 1.3964は、ぶつけるとコブが出来やすいとボルト博士は説明する。となれば、時計をひんぱんにぶつける消防隊の隊員向けではなさそうだ。ジンは説明しないが、用途に合わせて時計を作るというEZMコレクションの在り方を考えれば、十分あり得る理由ではないか。
消防士向けモデル。回転ベゼルと複数の表示を併用することで、呼吸保護具を使う際に必要な数値を瞬時に読み取れる。ケースにはテギメント処理した904Lスチールを採用。耐磁性能8万A/m。自動巻き(Cal.SW330-1)。直径43mm、厚さ12mm。20気圧防水。参考商品。
パイロットウォッチを突き詰めた「EZM10」(2011年)ももうひとつの完成形だ。時計業界にパイロットウォッチの公的規格がないことに疑問を持ったローター・シュミットは、アビエーションの分野で名高いアーヘン応用科学大学と共同で、正式な規格作りに取り組んだ。完成したのが、TESTAF(テスタフ)規格である。ちなみにこの規格は、既存のフライトガイドラインに準拠しているが、開発に際しては、それ以外の要素も考慮された。そのひとつが、耐圧テストだ。
EZMシリーズ最小モデル。200気圧防水にArドライテクノロジーを盛り込みながら、直径はわずか37mm、ベルトを除いた重さは73gしかない。生産終了が惜しまれる傑作だ。自動巻き(Cal.ETA2824-2)。Uボート・スチールケース(厚さ14.6mm)。2000m防水。参考商品。
現在、プロ向けを謳うパイロットウォッチの多くは、ベゼルとミドルケースを一体化させた作りに特徴がある。
しかし今回テスタフでは、その規格がもう少し厳密になった。コックピットが壊れた状態を想定して、時計内の気圧を高度2万メートル以上に相当する0・044気圧まで減圧。その状態を2時間続けるという基準を加えたのだ。また、加圧と減圧を繰り返すコックピット内の状況を考えて、違う圧力差を2000回かけるテストも加えられた。精度の基準も厳密だ。-15℃、+23℃、そして+55℃の温度下でも、日差±30秒/日以内であるという基準は、やはり極限状態を踏まえたものだ。
パイロットウォッチの基準を一新した野心作。ムーブメントには同軸積算計と24時間表示付き、DIAPAL 脱進機付きのSZ01を採用する。またプッシュボタンには新しいD3システムが用いられた。自動巻き(Cal.SZ01)。Tiケース(直径44mm、厚さ15.6mm)。20気圧防水。参考商品。
磁気に対する要求も面白い。長年、時計メーカーはパイロットウォッチに耐磁性を持たせようとしてきた。しかし、耐磁ケースが残留磁気を持っていると、航空用のコンパスをわずかに狂わせる可能性がある。そこでテスタフの基準から耐磁性能は省かれた。ここまで突き詰めた企画から生まれたモデルには、確かにEZMを与えるべきだろう。2011年/13年の「EZM10.TESTAF」と、その3針版である「EZM9・TESTAF」は、パイロットウォッチメーカーであるジンが作り出した、現時点における最終形と言える。ちなみに筆者が感心させられたのは、EZM10と9の色使いだ。初代のEZM1以降、消防隊用のEZM4とEZM7、そしていくつかの限定モデルを除いて、EZMシリーズは白・黒・赤の3色でまとめられていた。水中だと赤が見えなくなり、より視認性を高めるためだ。対してEZM10とEZM9では、お馴染みの赤が省かれた。赤はパイロットにとっての緊急色。パイロットに間違った認識を与えないため、EZMのアイコンである赤を、この2モデルから省いたのである。
EZM10を3針に改めたパイロットウォッチ。耐圧性に加えて、-45℃から+80℃で±20秒以内という精度を誇る。外装にはテギメント加工のTiを、ベゼルにはサファイアクリスタルを採用。自動巻き(Cal.SW200-1)。直径44mm、厚さ12mm。20気圧防水。参考商品。
ともあれ、EZM7と10および9でミッションタイマーを完成させたジンが、以降、ダイバーズウォッチに傾倒したのは当然だろう。2010年の「EZM8」、13年の「EZM14」と「EZM15」、そして15年の「EZM16」は、すべて出撃用計測機器というよりも、汎用性の高いダイバーズウォッチだ。もちろんEZMを名乗る以上、これらのすべては、プロの酷使に耐えうる性能を持っている。
EZMシリーズとしては珍しく、外装にグレード5チタンを採用したモデル。ベゼルにのみ硬化処理のテギメント加工が施される。
ミッションタイマーにもかかわらずケースの質感は良い。自動巻き(Cal.ETA 2892-A2)。Tiケース(直径45mm、厚さ12.5mm)。1000m防水。参考商品。
ケースサイズは41mmでEZM14よりも小型だが、防水性能は200気圧を発揮。外装はEZM14に同じくTi製。押し下げてベゼルを回す構造もEZM14と同じである。EZMの傑作。自動巻き(Cal.ETA 2892-A2)。Tiケース(直径41mm、厚さ13.3mm)。2000m防水。参考商品。
しかし、これらのモデルが示すのは、EZMシリーズがついに完成を迎えたというよりも、時計メーカーとしてのジンが、ひと通りの成熟を遂げたという証しではないだろうか。その証拠に、17年の「EZM12」はもちろんハイスペックではあるものの、使いやすさを重視した時計となっている。すぐに消毒できるよう、簡単に外せるベゼルやストラップというアイデアは、今までのEZMシリーズからは考えられないものだ。EZM12が示すのは、ひと通りの完成を見たEZMシリーズが、今後違った方向に向かうという兆しではないだろうか。
救命救急医向けのモデル。回転ベゼルを使うことで、救急に必要な10分間を容易に確認できるほか、十字状の秒針で脈拍も測りやすい。外装も簡単に分解可能である。耐磁性能8万A/m。自動巻き(Cal.ETA2836-2)。SSケース(直径44mm、厚さ14mm)。20気圧防水。85万8000円(税込み)。
1997年以降、さまざまなモデルを加えてきたEZMコレクション。素材もデザインも機能も多様だが、このミッションタイマーには、ひとつの共通点がある。12時のインデックスがふたつであれば、その時計は、ジン特殊時計会社が作った出撃用計測機器ということだ。それは絶対に信頼できるツールと同義語だったし、これからもそうであるだろう。
ジンのダイバーズモデルの中で、最も大きなケースを持つのが本作だ。直径47mm、厚さ14.5mmのケースは完全にプロ仕様である。外装にはUボート・スチールを採用。ベゼルはテギメント処理が施される。自動巻き(Cal.SW300-1)。1000m防水。67万1000円(税込み)。
[2014~Current]EZM13.1
60分積算計を強調するEZM1の後継機
EZM1の流れを汲むダイビングクロノグラフ。同軸積算計に代えて、6時位置には単独の60分積算計が設けられた。写真のモデルはEZM13.1。文字盤にアラビア数字を加えたEZM13も存在した。自動巻き(Cal.SZ02)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。SSケース(直径41mm、厚さ15mm)。500m防水。74万8000円(税込み)。
創業以来、一貫して信頼できるエボーシュを採用してきたジン。EZMシリーズも例外ではなく、ETA2892A2、ETA7750やレマニア5100といったエボーシュを好んで搭載してきた。その方針は今なお変わりないが、2006年以降、ジンは独自のモジュールを載せたSZ系ムーブメントも併用するようになった。EZM13が搭載するのは、30分を60分積算計に改めたにSZ02。もともとはワールドカップ記念の「303 フットボール」向けだったが、プロ向けのEZMにも転用された。
その見た目が示すように、EZM13とは1997年に発表されたEZM1の後継機と言ってよい。視認性の高い文字盤や、Arドライテクノロジー、特殊オイルといった特徴は同じ。EZM1の特徴である同軸積算計は持たないものの、6時位置にある巨大な60分積算計は代用としては十分以上だ。また、ケース素材がチタンからSSに変わった結果、防水性能も30から50気圧に高まった。ケースの直径はEZM1より1mm大きい直径41mm。しかし、わずかに薄くなったほか、軟磁性素材の耐磁ケースにより、8万A/mの耐磁性能を持つようになった。レマニアでないことを残念がる意見はあるが、出撃用計測機器と考えれば、EZM13のほうがはるかに優れているし、SUG製のケースは、ミッションタイマー向けとしては十分に上質だ。
1997年以降、プロ向けのツールとして拡大してきたEZMシリーズ。原点であるEZM1を仕立て直した本作とは、EZMの本道であり、つまりはジン特殊時計会社そのものと言ってよいのではないか。もちろんジンには数多くの傑作がある。しかし本作ほど、ジンの変わらなさと、進化を体現したモデルはないように思える。それこそがアイコンではないか。
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