ラジオミール

(左)ラジオミール スリーデイズ オロビアンコ-47MM
ピンクゴールドを意味するオロロッソに対して、オロビアンコはホワイトゴールドを指す。「ラジオミール1936」のリエディションだが、より原型に近い。針が金色に変更されたほか、形状も当時のオリジナルに同じである。その一方で、防水性能は100mに高められた。決して安価ではないが、好事家には響くだろう。PAM00376。18KWG。限定501本。297万円。他のスペックは右モデルに同じ。
(右)ラジオミール スリーデイズ オロロッソ-47MM
2011年初出。意匠は1997年の「ラジオミール 47mm」に同じだが、サンドイッチダイアルやプレキシ風防などの採用で立体感が増している。また時計全体の完成度も、高まっている。とりわけ歪みのない鏡面ケースは、近年のパネライらしい美点だ。PAM00379。手巻き(Cal.P.3000)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KPG(直径47mm)。限定501本。270万円。

現代のパネライを象徴する8本のタイムピース

ルミノール 1950を筆頭に、明快な個性と高い完成度を両立する今のパネライ。好事家に限らず、ひと味変わった実用時計を求める人にも強く薦められるだけの内容を備えている。そんなパネライの実力を、8本のモデルから見ることにしよう。ポイントは、ケースとムーブメント、そして今なおパネライが忘れない、好事家たちへの「配慮」である。

ルミノール クロノ モノプルサンテ チタニオ-44MM

ルミノール クロノ モノプルサンテ チタニオ-44MM
P.2002系のバイプロダクトである、P.2004/1を搭載。ケースには純チタンではなく、グレード5のチタン合金を採用する。その質感はSSに遜色ない。ムーブメントの等時性も良好だ。ブラウン文字盤を採用する。PAM00311。自動巻き。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約240時間。直径44mm。100m防水。213万円。
ルミノール 1950 テンデイズ GMT チェラミカ-44MM

ルミノール 1950 テンデイズ GMT チェラミカ-44MM
PAM00270の素材違い。チェラミカとは、イタリア語でセラミックのこと。ケースに新素材を用いているが、夜光塗料にあえて古色を帯びさせるのが、近年のパネライらしい。軽量で装着感に優れる。PAM00335。自動巻き(Cal.P.2003)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約240時間。直径44mm。100m防水。199万円。

 マニュファトゥーラ宣言以降、自社製ムーブメントの比率を増しつつあるパネライ。またヴィンテージムーブメントに代わるヒエラルキー化の手法に立体感を掲げ、それは近年のプロダクトを見る限り、成功を収めているように思える。しかし立体感にたどり着いた理由を、ただマーケティングに限るのは間違っている。

 1998年以降、パネライのケース製造は、ドンツェ・ボームが担っている。同社は中堅のケースメーカーであったが、パネライ(及びリシュモン グループ)とのコラボレーション以降、技術力を飛躍的に高めた。とりわけ、仕上げのプロセスをはさみつつケースを完成させる手法は、同社製のケースに、かなり複雑な造形を与えることに成功した。好例はリシャール・ミルであり、ステンレス製のパテック フィリップだろう。しかし、同社最大の顧客は一貫してリシュモン グループであり、とりわけ初めて同社を見いだしたパネライである。ドンツェの技術力を反映するように、パネライのケースは毎年仕上げが改良された。ドンツェのコメントに従うなら「同じルミノールでも、今や同じ部品はひとつもない」のである。実際、新旧のルミノールを比較しても、ケースの磨きや、部品の噛み合わせ(とりわけリュウズカバーの部分)は大きく異なる。ジャーナリストとして言わせてもらうと、かつてのパネライは価格相応の仕上げを備えておらず、筆者も批判的だった(愛好家のひとりとしては、パネライを好んでいたが)。しかし近年は少なくとも価格相応であり、ものによってはそれ以上である。

ルミノール マリーナ 1950 スリーデイズ オートマティック-44MM

ルミノール マリーナ 1950 スリーデイズ オートマティック-44MM
PAM00359。3日巻きのP.9000を搭載する。PAM00 312の文字盤違いだが、アンティーク感を強調した文字盤に併せて、ストラップもカーフに変更されている。好事家以外にもお勧めできる、バランスが取れた1本だ。自動巻き。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。SS(直径44mm)。300m防水。88万円。
ルミノール 1950 エイトデイズ GMT-44MM

ルミノール 1950 エイトデイズ GMT-44MM
現在のパネライを代表する傑作。等時性に優れた自社製ムーブメントと、良質な外装を併せ持つ。巧まぬ立体感も魅力のひとつだ。安価ではないが、内容を考えれば十分魅力的な時計。PAM00233。手巻き(Cal.P.2002)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約192時間。SS(直径44mm)。100m防水。146万円。

 パネライの仕上げを褒める時計関係者は、筆者以外にも少なくない。優れたケースを持つに至ったパネライが、さらにケースを複雑にできると考えたのは当然のことで、パネライの立体化は明らかにケースの改良を前提としている。

 加えて「マニュファトゥーラ」ムーブメントの完成度も高い。設計こそリシュモン傘下のヴァル フルリエだが、P.999を除くすべてのムーブメントはフリースプラング化されている。またどのムーブメントにも、ヒゲの変形を防止するブロックが備わっている。耐衝撃性はかなり高いだろう。ただムーブメントをETAから置き換えるのではなく、どのような使われ方をするのかまで盛り込んだ点で、パネライのアプローチは、リシュモン グループの他社と大きく異なる。筆者自体は安直な「ヴァル フルリエ化」を好まないが、パネライのような独自性を持たせるという方向性には、大きく賛成である。等時性に優れているのもマニュファトゥーラムーブメントの大きな美点で、今やパネライは優れた実用時計のひとつである、と言って間違いないだろう。少なくとも今のパネライは、意匠だけでなく、中身でも選ぶだけの明確な理由を備えているのだ。

ラジオミール トゥールビヨン チタニオ GMT-48MM
PAM00315。チタニオはチタニウムの意味。PAM00311に同じく、グレード5のチタンケースを採用したハイエンドモデルである。キャリッジが3次元に動く(30秒ごとに水平方向に回転する)トゥールビヨンを搭載。手巻き(Cal.P.2005)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約144時間。直径48mm。100m防水。1280万円。

ラジオミール-42MM
好事家向けの1本。自社製のP.999を搭載する。直径27.4mm、厚さ3.4mmと比較的小径のムーブメントのため、ケースも相応に薄い。なおPGケースのモデルは、緩急針にスワンネックが加えられる。PAM00337。手巻き。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径42mm)。100m防水。参考商品。

 好事家向けの時計から脱し、今や幅広い層に受け入れられるだけの内実を備えたパネライ。とはいえ今もって好事家を疎かにしないのも、らしい点だ。例えば、近年のモデルが採用するクリーム色の夜光塗料。これは意図的に退色感を演出した物である。トリチウム夜光を採用した往年のモデルが人気を集めていることを、パネライは熟知しているのだろう。いくつかのモデルは文字盤も茶色に改め、クラシカルさをより強調している。しかもこういった仕上げを限定モデルだけではなく、「ルミノール マリーナ 1950 スリーデイズ オートマティック-44MM」という定番モデルに加えた点が、パネライの巧みな点である。

 今や実用時計としても申し分ない性能を備えたパネライ。しかし時計としてのあり方を進化させてなお、いささかもその個性は減じていない。時計業界を見渡しても、実に希有な存在と言えるのではないか。

Contact info: オフィチーネ パネライ Tel.0120-18-7110