[特別インタビュー]ジャン-クロード・ビバーが語る ビッグ・バンの誕生と進化について
時計業界には、希に「万能の才人」が存在する。マーケティングに秀でているだけでなく、プロダクトも分かる人物だ。
主立った例を挙げると、LMHの故ギュンター・ブリュームライン、パネライのアンジェロ・ボナーティ、そしてウブロのジャン-クロード・ビバーになるだろうか。
そんな「才人」のひとりに、ウブロのマーケティングではなく、ビッグ・バンそのものを語ってもらうことにしよう。
筆者にはひとつの不満があった。ジャン-クロード・ビバーという人物は、スイスの時計業界にあって、最も製品を知悉した経営者だ。しかし目にする多くのインタビューは、ほとんどがマーケティングに関するもの。確かに彼は販売戦略にも長けている。しかし彼に聞くべきは、売り方以上にむしろ商品、つまりビッグ・バンそのものではないか。
――CEOに就任したのは04年の6月。ビッグ・バンを作る準備期間はほとんどなかったですね?
「(指を折りながら)準備期間は10カ月。04年の6月にアイデアを考え、デザインの完成は8月。3月のバーゼルワールドでプロトタイプを発表し、6月に納品した。期間は短かったけれど、これは100%新しいプロダクトだった。まずは自動巻きムーブメント、これはウブロで初の採用だ(ラ・ジュー・ペレ製)。ふたつ目はコンセプト。ビッグ・バンは見た目以外にも、新しいコンセプトを持っていた。これは世界で初めて、サンドイッチ構造のケースを持った時計だ」
ミドルケースを上下から板ではさむという、新しいケース構造。ビッグ・バンの開発に際して、ビバーがケースなどのサプライヤーを一新した理由も分からなくはない。
――サンドイッチ構造という発想に至ったのは、CEOに就任してからですか? あるいはそれ以前ですか?
「CEOになってからだね。具体的には『フュージョン』というコンセプトができてからだよ。サンドイッチ構造がフュージョンを可能とした。サンドイッチ構造だと箇所ごとに部品を重ねられるだろう。ベゼル、ミドルケース、そしてケースバックという風にね」
異なるものの融合を意味する、フュージョン。彼はそのコンセプトを練り込んだ後、異素材を融合するために、サンドイッチ構造のケースを考案した。
――今となっては、さまざまな素材でケースを構成するという考えは広まりました。でも防水性を確保するのは難しい。
「防水性能はまったく問題ない(彼はケースの展開図を引っ張り出してきた)。というのも、防水はサンドイッチではなく、ミドルケースで支えているからだ。防水はミドルケースで完結しており、それを上下から挟み込んでいる」
一見斬新だが、なるほど構造自体はコンベンショナルだ。広く普及するスリーピースケースの上下に「スカート」を足したのが、サンドイッチ構造と言えるかもしれない。
――サンドイッチ構造を採用した結果、ビッグ・バンは立体感を持たせやすくなったように思います。例えばオーデマ ピゲの「ロイヤル オーク オフショア」に比べると、ビッグ・バンはより立体感がありますね?
「ロイヤル オークは1972年、ビッグ・バンは2005年だろう? 両者には時代的な隔たりがある。ただし72年当時、ロイヤル オークは革新的だったし、クロッコ氏も同じ『舷窓』からインスピレーションを受けて、ウブロを作ったことは間違いない。両者のスピリットは100%同じだ。でも違いはある。ウブロのベゼルは丸く、APは八角形。またウブロにはラグがあり、耳もある」
確かに、80年のオリジナルウブロは、パテック フィリップの「ノーチラス」、ヴァシュロン コンスタンタンの「222」、ボーム&メルシエの「リビエラ」同様、ロイヤル オークのフォロアーとも言える。
――ビッグ・バンの立体感について聞きたいと思います。オメガやブランパンの在籍中も、時計に立体感を持たせようと考えましたか?
「それはない。立体感はフュージョンを考えた後だよ。あくまでサンドイッチの結果が(彼は両手を叩いた)立体感だ」
05年3月に発表されたビッグ・バンは、空前の成功を収めた。会期中に集めた受注は前年の3倍。この年、ウブロの年産はわずか1万2000本、うちわずか2500本がビッグ・バンであった。しかし消費者にとって、ウブロはビッグ・バンの同義語となった。
――ビッグ・バンは大変大きな成功を収めましたね? 06年発表のビッグ・バン・オールブラック(250本の限定だった)もやはり成功を収めました。オールブラックというアイデアも、04年にはあったのですか?
「いやオールブラックの元となるアイデアは、1980年、いや79年にはあったね」
ビバーの顔が、有能な社長からだんだん「プロダクトマネージャー」に戻ってきた。