カルティエ「タンク」の外装技術の変遷に軸足を置きながら、その歴史を辿る

「タンク ルイ カルティエ」(1970年代)のリュウズ。意匠は右に同じだが、おそらく外周のミル打ちは、埋め込みではなく、予め成形されたもの。とはいえ完成度は非常に高い。

「タンク ノーマル」(1928年)のリュウズ。外周には、手作業でミル打ちが施されている。典型的なジュエリーの技法を、カルティエは幾何学的なタンクに盛り込んだ。


 もちろん製法だけでなく、意匠にもジュエリーの技法は転用された。好例がサファイア カボションを埋め込んだリュウズだろう。外周に施されたパール状の飾りは、ジュエラーがこの時計を手がけたことを示すアイコンとなっただけではなく、指がかりを良くするための役割も果たしている。

 直線で構成されたタンク。もちろん優れたデザイナーがいればこその造形だが、しかしその形状は、貴金属を折り曲げることに親しんだジュエラーでなければ、決して思いつかないものだったのではないか。ジュエリーの技法を転用できればこそ、タンクはタンクたり得たといえるし、その製法ゆえに、タンクはやがて様々なバリエーションを持つことができた、と言えるだろう。