カルティエ「タンク」の外装技術の変遷に軸足を置きながら、その歴史を辿る

タンクの特徴である、風防からケースを経て、ブレスレットに至る連なり。ボリュームを増したアングレーズでも、その造形は受け継がれている。ケースの加工精度は高く、ブレスレットとケースの噛み合わせは良好だ。

リュウズを埋め込んだケースサイド。かなり大胆なデザインだが、自動巻きを搭載すればこそ(SMサイズはクォーツ)の試みだろう。側面のサテンを深く、対して上面のサテンを浅くすることで、立体感を演出している。


 1919年に登場したタンク。その存在が再び日の目を見たのは、73年のことである。カルティエを買収した投資家グループは、タンクをカルティエのアイコンに据えようと考えた。彼らの意図は、とりわけエントリーモデルの「マスト ドゥ カルティエ」で大きな実を結んだ。80年代、カルティエの名前はほとんどタンクと同義語であったといっても過言ではない。

 しかしジュエリーの製法と密接な関係にあったタンクの造形は、相変わらず量産に向かないものだった。確かにマスト ドゥ カルティエはタンクLCの意匠を忠実に再現しようと試み、量産品としてはかなりの成功を収めた。しかし生産性を考慮したためかケースの上下は厚くなり--有名なヴェルメイユケースは、鋳造したスターリングシルバーに20ミクロンの金を被せたものであった--オリジナルのタンクLCが持っていた緊張感はいささか損なわれた。また往年のタンクの特徴であった多彩なラインナップも、十分に再現されたとは言い難かった。


中央部にフランケ装飾を配したシルバーラッカー仕上げの文字盤。しかし文字盤外周には浅い筋目仕上げが施されたうえ、マットなクリアが吹かれている。従来までのタンクらしさを残しつつも、モダンさやスポーティさを強調した試みか。

「タンク ノーマル」を思わせる、かなり太めのケースサイド。写真が示す通り、ポリッシュした上面にもほとんど歪みは感じられない。デザインに多様さをもたらした最新の工作機械は、ケースの質をも大幅に向上させた。