J12 WHITE 38m/m
進化を続ける〝ホワイト・クラシック〟
2003年初出。09年にマイナーチェンジを受けたJ12は、近年外装の仕上げなどにも手を加えた。大きな違いは文字盤。単色のポリッシュラッカーから、下地を細かく荒らし、表面にクリアラッカーを吹いたものに改められた。あくまで筆者の私見だが、より女性用に振ったモディファイだろう。自動巻き。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。ハイテク セラミック(直径38mm)。200m防水。62万円。
2000年9月に発売された当初のJ12は、ブラックケースのみだった。ケース径は33ミリと38ミリ。その3年後にはホワイトを追加し、11年には新色のクロマティックカラー(=チタン セラミック)を加えたが、基本的なデザインは変わっていない。しかしディテールは年々進化している。とりわけブラックよりも、ホワイトの方が、外観上の変化は著しい。
筆者の見る限り、2003年の初出以降、J12 ホワイト(現J12)は少なくとも2回のマイナーチェンジを受けている。09年には文字盤外周にインナーリングが追加され、最新版は文字盤の仕上げも変更されているようだ。これらの狙いをシャネルは明らかにしないが、かつてのモデルに並べると一目瞭然だ。J12は立体感を増し、微妙なニュアンスを備えるようになったのである。現在のトレンドに倣ったと言えばそれまでだが、さすがにシャネルだけあって、手の入れ方が細かい。
現行のJ12 ホワイトで目を引くのは針だ。かつてシャネルはダイヤモンドカットした針の表面だけに、薄く黒を載せていた。意図的に表面だけを塗装したことは、側面に色が回っていないことからも分かる。しかしこのモデルでは、シャネルは針の側面にまで色を回し、かつJ12 ブラック同様、塗料を厚く盛るようになった。凹凸が出るため、一般的な時計メーカーはこうした手法を好まない。しかしJ12の色載せは完璧であり、厚く盛った結果、時計としての立体感はかなり強調された。
文字盤も、かつては単色のポリッシュラッカーだったが、最新作では下地を荒らし、その上にクリアラッカーを吹いたものに変更された。ラメ調に見える文字盤は、他社にはまず見られないものだ。
シャネルらしい細部に対する執念。こういった試みは、13年の「J12 ホワイト ファントム」でいっそう強調されるに至った。
J12 WHITE PHANTOM 38m/m
〝オールホワイト〟を纏ったアニバーサリーモデル
「J12 ホワイト」の10周年記念モデル。文字盤の仕上げが一新されたほか、デイト表示やベゼル上の数字も廃された。文字盤上の白や銀のニュアンスを細かく変えることで、単色にありがちな平板さを抑えている。近年のシャネルの在り方を体現した1本。自動巻き。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。ハイテク セラミック(直径38mm)。世界限定2000本。200m防水。参考商品。
J12 ホワイトの10周年を記念する限定モデルが、2013年発表の「J12 ホワイト ファントム」である。基本的なデザインは、既存のJ12 ホワイトに同じ。しかし仕上げのニュアンスを変えて、表情に変化を加える近年のシャネルの手法は、このモデルで一層際立っている。
J12 ホワイトとの違いは文字盤にある。といっても、ただすべてを白くしたわけではない。文字盤の地を荒らす手法は、J12 ホワイトに同じ。しかしより細かく荒らすことで、シャイニーさをいっそう強調している。それに併せて、レイルウェイトラック外周の銀枠も太くされた。文字盤の地が光るようになったため、枠も太くした方がつり合いを取れるというシャネル一流の配慮だろう。
このモデルはロゴの処理も面白い。レイルウェイトラック同様の印字(いわゆるタコ印刷)と思いきや、このモデルはロゴがシール状のエッチングシート貼りとなっている。
実は、金色や銀色のロゴは、時計メーカーにとっての鬼門である。銀を印字すると、どうしても印字の締まりが甘くなる。締まりを良くしたければ銀の粒子を細かくすればよいが、そうすると色調は灰色に寄ってしまう。筆者の知る限り、ロゴを銀や金で印字して、成功した例はほとんどない。おそらくはそれが理由で、シャネルはロゴを印字ではなく、エッチングシート貼りに改めたのだろう。これならばロゴが明瞭になるうえ、立体感も得やすい。他のラグジュアリーブランドでも採用し始めた手法だが、過剰なツヤを持たせなかったのがシャネルのシャネルたる所以である。過剰に光らせると、文字盤がややチープに見えるうえ、荒らした下地とのバランスも悪くなるからだ。
かつてのJ12を見た筆者は、これ以上、手の加えようがないと考えた。しかしそうでなかったことは、このモデルが証明している。