TORIC HÉMISPHÈRES RÉTROGRADE
分単位を独立調整できるデュアルタイムゾーン
トリック エミスフェール レトログラード
1996年のファーストモデルに範を取った時計。12時位置のサブダイアルで第2時間帯を表示できる。内容を考えれば、価格は極めて競争力を持つと言える。自動巻き(Cal.PF317)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KRG(直径42.8mm)。30m防水。275万円。
1996年のファーストモデルに範を取った時計。12時位置のサブダイアルで第2時間帯を表示できる。内容を考えれば、価格は極めて競争力を持つと言える。自動巻き(Cal.PF317)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KRG(直径42.8mm)。30m防水。275万円。
スイスでも希な一貫生産体制を持つ、パルミジャーニ・フルリエ。その力量をいかんなく示したのが、デュアルタイムゾーン表示を持つ新作「トリック エミスフェール レトログラード」だ。
パルミジャーニのムーブメントを開発・製造するヴォーシェは、複雑時計の製造を得意とするが、よく練られたプチコンプリケーションも手掛けている。本作が載せるデュアルタイムゾーンは、2本のリュウズでそれぞれの時間を調整できるもの。時針だけの早送り、逆戻しはできないが、15分や30分単位(最小は1分単位)でも時差設定ができるほか、針合わせ機構への負担も小さい。他社のデュアルタイムのような分かりやすさはないが、高級メーカーらしい、耐久性を考慮したメカニズムと言える。またヴォーシェのムーブメントだけあって、針合わせの感触も滑らかなうえ、ローター音もよく抑えられている。もちろん、仕上げは言わずもがなだ。
1996年発表の初期トリックは、そもそもベーシックからコンプリケーションまでを網羅する一大コレクションだった。以降のトリックは複雑時計に傾注したが、パルミジャーニは再び、トリックを基幹コレクションに仕立て直そうとしている。コレクションに統一感を与えるだけでなく、ケースの厚みを問わずフィットするモルタージュ装飾。初出から約20年が経った今なお有用であることに、筆者は驚かされる。というのも、かつて一世を風靡したデザイン手法で、そのままリバイバルに成功した例はいくつもないのだ。時計の世界に身を置くひとりとして、筆者はミシェル・パルミジャーニの天才ぶりを理解していたつもりだった。しかし彼の本当の力量を、見誤っていたかもしれない。たかがデザインかもしれないが、後世に残るものを作れるのは、本当の天才だけなのである。
(左)グレイン仕上げの文字盤には、第2時間帯とローカルタイム(+それぞれの昼夜表示)とレトログラード式の日付表示が備わる。グレイン仕上げの絶妙な荒らし方は、今やカドランス・エ・アビヤージュのお家芸だ。(右)トリック クロノメーターに同じく、ベゼルにはシングルのモルタージュ装飾が施される。
ケースサイド。側面を膨らませる手法は、1980〜90年代にポピュラーだったもの。今や珍しくなった方法論だが、モルタージュ仕上げのベゼルと合わせて立体感を与えるには、最も適した手法である。ケースは薄くないものの、裏蓋を厚くし、ミドルケースを絞ったため、実際ほどの厚みは感じない。
(左)12時位置に第2時間帯を示すモジュールを載せているため、PF331のムーブメント自体は、ケースの6時方向にオフセット配置されている。ムーブメントの基本スペック自体は、PF331に同じ。写真が示す通り、最新版は緩急針のないフリースプラング仕様である。22Kゴールド製のローターや、浅いジュネーブ仕上げなど、パルミジャーニならではの優れた仕上げは、このモデルでも同じである。(右)自社製のケース。基本的な造形はトリック クロノメーターと同じだが、厚くなったケースに対応させるべく、大きく下方向に曲げている。磨きの水準は極めて高い。