今や、世界的な知名度を誇るようになったジン特殊時計会社。しかし、そんな同社が腕時計クロノグラフの製造を始めたのは1960年代も後半になってからのことだった。ミリタリーユースを意識した防水ケース入りの「103」は、80年代後半以降、ジンを代表するモデルへと変貌を遂げる。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Special thanks to Michele Tripi (vintage-sinn-collector.de)
[クロノス日本版 2020年7月号初出]
103.B.SA.AUTO
細かな改良点を盛り込んだ現行モデル
1990年代半ば以降に完成した、新しいスタイルを持つ103の最新版。見た目はそれ以前と変わらないが、2018年6月10日以降は、Arドライテクノロジーが標準装備となった。自動巻き(ETA7750)。25石。2万8800振動/時。SS(直径41mm、厚さ17mm)。20気圧防水。41万円。
1986年にリリースされた第3世代の103は、年々外装の完成度を高めてきた。その狙いは防水性能と実用性の強化である。SUG製ケースの採用も、103に限って言えば、質感向上よりも、性能向上のためという意味合いが強い。
現在の103のベースとなったのは、96年に発表されたダイバーズクロノグラフ「203」である。リュウズガードを設け、プッシャーをねじ込み式に改めたこのモデルは、200mという驚異的な防水性能を誇っていた。103の定番モデルである「103B SA AUTO」は事実上、このモデルの兄弟機と言ってよいだろう。同じケースを使っているわけではないが、外観と仕様はほぼ同じである。明らかな違いはベゼルのみだ。
もっとも、技術の進歩を受けて時計自体の完成度は大きく高まった。文字盤の印字は明瞭になり、リュウズのガタも抑えられたのである。103に質感を求める人は少ないだろうが、ケースの磨きも、SUG以前のモデルに比べて改善された。加えて言うと、トランスパレントバックからのぞくローターには、なんとジュネーブ仕上げも施されている。実用時計でありながらも、きちんとアップデートされたのが、現代のジンなのである。
とはいえ、103のキャラクターは本質的なところで、なにひとつ変わっていない。ベゼルは交換しやすいアルミ製のままだし、針やインデックスは、視認性を重視した「タイプ20」スタイルのままだ。あえて角を立てないケースも、良い意味で103の個性である。
現在、これよりも作りの良いクロノグラフを探すのは難しくない。同じジンの中でも、それは容易だろう。しかし、往年のクロノグラフのパッケージと思想を明確に踏襲したという点で、103に比肩するクロノグラフは多くないだろう。これこそ、世代を超えて語り継がれるアイコニックピースではないか。
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