「No.97975」は、永久カレンダーを搭載した初の腕時計として有名。センター針による日付、12時位置サブ・ダイヤルの曜日、6時位置サブ・ダイヤルの12カ月表示と、3時位置にムーンフェイズ表示も装備。1898年に女性用ペンダント・ウォッチとして考案されたものを1925年に腕時計に作り替え、1927年に販売された。
1985年発表の「ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー・クロノグラフ」は、永久カレンダーの一つのスタンダードとなる48カ月ディスクで機構を制御。4桁の西暦表示もあり、その部品を交換すれば2499年までの表示も可能だ。複雑機構をコンパクトにモジュール化し、リュウズのみで全調整を可能にした点も革新的だった。
さて19世紀後半に目を向けると、スイスの高級時計メーカーが作った懐中時計にも永久カレンダーを搭載するモデルはいくつか発見できる。パテック フィリップは、1889年に永久カレンダー機構で特許を取得しているが、そこでは、31歯が備わる日付車を月末に先送りする仕方に工夫があった。例えば、30日の月の月末は歯を2つ、2月の月末は4つ先送りすることで調整するといった具合だ。閏年のほうはカムで制御し、2月29日をいったんセーブしておいてから3月1日に移行するというもの。ちなみに、腕時計の分野で世界初の永久カレンダー搭載モデルとされているのは、1925年にパテック フィリップが製作し1927年に販売した「No.97975」である。この複雑時計の日付表示はセンター針によるポインターデイト式で、なおかつ深夜零時に切り替わる「瞬時日送り式」なのも特徴だ。
腕時計の永久カレンダー機構によく使われてきたのは、48か月ディスクである。腕時計のムーブメントに適したコンパクトなサイズながら、賢い動きをするのがこの司令塔とも呼べる回転ディスクである。48か月ディスクはカムの働きをする。まず閏年を1周期として4年分、48か月の各月の大小を識別する溝をディスクに設け、4年目の最後に閏年の2月を割り当てる。これを4年周期で回転させると、ディスクに接するレバーの爪が溝の深い浅いの別を検知して、その情報によってカレンダー表示の先送りを制御するわけだ。
IWCが1985年に発表した永久カレンダー・クロノグラフの傑作「ダ・ヴィンチ」は、この48か月ディスクを利用する典型的なモデルの一つだが、「ダ・ヴィンチ」は、さらに4桁の西暦表示という精巧な機構も搭載する。48か月ディスクによる永久カレンダーは、実際は4年毎に同じことの繰り返しなのだが、「ダ・ヴィンチ」は、そこに4桁の西暦表示という拡張機能を加えて、繰り返しから脱したところが革新的だった。この腕時計は、つねに「〇年〇月〇日〇曜日〇時〇分〇秒」という表示をもって、二度と存在しない「今」という瞬間を表示し続けるのだから、まさに永遠の時の流れをイメージささせる。