今回新作として登場する世界8本限定の「T1 チタン ギョーシェ」では、HYTの現代的な流体式機械時計製造技術に、伝統的なコンセプトが導入されたものだ。それは、数世紀前に時計製造に初めて採用されたギヨシェ彫りという職人技である。
新たなデザインの地平を切り開く第3世代のT1
「T1 チタン ギョーシェ」は、第3世代のT1タイムピースである。2024年春、T1コレクションの4つのモデルがデビューし、モダンな外観と人間工学に基づいたデザイン、スケルトン加工を排した控えめな文字盤が時計業界に新風を巻き起こした。同年には、ヴィンテージワインにインスピレーションを得た「T1 ミレジメ エディション」も発表され、2024年9月から2025年4月までの期間限定で製入手可能である。
本作の「T」は「伝統」(トラディション)を意味しており、ヴィンテージのテーマをさらに深化させた。八角形のナチュラルカラーのブラックコーティングを施したサテン仕上げのチタン製ケースは、歴史的な折衷様式を現代的に昇華したものである。

手巻き(Cal.501-CM)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。Tiケース(直径45.3mm、厚さ17.2mm)。50m防水。1441万円(税込み)。世界限定8本。
ケース径は45.3mm、厚さは17.2mmであり、バランスの取れたプロポーションが快適な装着感をもたらす。ケースは短いラグと急角度のストラップ接続部を備え、ほぼすべての手首にフィットする設計となっている。ストラップとケースがシームレスに溶け込むことで、外観のデザインも一層際立つ。さらに、人間工学に基づき、2時から3時位置の間にリューズを配することで、快適な装着感を実現した。

T1 チタン ギョーシェの、大ぶりなブルーの文字盤には3種類の模様が刻まれている。メインダイアル中央から放射状に広がる躍動感ある円形模様、境界をなすアラビア数字のフランジに施された線状の模様、そして2時と3時位置の間に配されたパワーリザーブを示すサブダイアルのサンレイ模様である。これらの繊細な彫刻が光を受けることで壮麗な印象を生み出し、視認性と審美性を両立している。

ギヨシェ彫りの伝統的な文字盤が、HYT独自の流体時間表示にこれほど適した装飾となるとは想像もしなかったが、HYTはこれを見事に実現した。
HYT独自の流体時間表示ムーブメント
時刻はレトログラード式流体時間表示と、ブルーの文字盤中央に位置する大きな分針によって表示される。ホウケイ酸ガラス製のキャピラリーチューブ内ではブラックの流体が目盛を通過し、時間を示す。

トランスパレント仕様の裏蓋からは、Cal.501-CMのムーブメントが姿を現す。この手巻き式ムーブメントは352個の部品で構成され、2万8800振動/時の振動数と約72時間のパワーリザーブを誇る。ふたつのベローズ(いわゆるふいご)は片方が圧縮されるともう一方が膨張し、文字盤側で流体が動くという仕組みである。
Cal.501-CMはミニチュアのパワープラントのようであり、352個の部品が織りなす伝統的な仕上げとユニークなパーツのコントラストが魅力である。ベローズは合金製で、隔壁は髪の毛の約4分の1という極薄構造となっている。
全世界で8本限定のT1 チタン ギョーシェには、ブルーのアリゲーターレザーストラップと、ブラックのラバーストラップが付属する。どちらもチタン製ピンバックルとクイックチェンジシステムを備え、用途や装いに応じて簡単に交換できる。
古代からのインスピレーション、クラシックな装飾技法、アヴァンギャルドなマイクロ流体技術が融合したこの腕時計は、審美性に非常に優れている。加えて人間工学に基づき設計されているため、驚くほど快適な装着感を提供し、すべての側面において卓越したタイムピースである。
ギヨシェ彫りとは?
「ギヨシェ」という言葉は18世紀後半のフランス語に由来する。フランスで働いていた「ギヨ」という技師の名を冠している。正確な年代やギヨのファーストネームは不明であるが、彼がギヨシェをつくる工具ないし旋盤を考案・製造したとされている。
1770年代には、古代オリエント、古代ギリシア、ローマの建築にみられる交差する渦巻や重なる渦巻、その他の反復的な建築模様や、中世初期のアングロサクソン芸術の織り模様にも、ギヨシェという言葉がさかのぼって用いられていた。
ギヨシェ彫りの時計文字盤を製作するには、時間、工具、技能、そして才能が必要であることは、今も昔も変わらない。ギヨシェ彫りの職人は、古めかしいローズエンジン旋盤、直線旋盤、錦織機械を用いて、金属に精巧かつ複雑な模様を刻み込む。作業は、まず文字盤が正しい方向になるよう、機械を位置決めすることから始まる。
次に、刃を押しつけ、力加減を変化させることで異なる仕上がりを生み出す。こうして綿密な構造の文字盤が完成し、比類のない、鮮やかで躍動感に満ちた光の反射が得られるようになる。
かつてギョーシェ彫りは時計専門学校で教えられていた技法であり、たとえば1896年から1932年までは、スイスの時計製造で知られるラ・ショー・ド・フォンの応用工芸学校において定員10名の授業が行われていた。しかし今日では、手作業によるギョーシェ彫りの技法をマスターした職人はわずか数人しか残っていない。
職人技への愛着
HYTのCEOであるヴァへ・ヴァーツベッド氏は、T1コレクション、特に今回リリースされる魅惑的なギヨシェ文字盤の限定モデルに強い思い入れを持っている。
「2024年のT1シリーズ導入は、快適性と着用性を高めつつ、初めてスケルトン加工を施さない文字盤を採用したことで意表を突き、また伝統的な手法で表現する道を拓いたのです。T1シリーズコレクションは、我々が深い愛着を抱く職人技を導入するプラットフォームであり、その最初の例が、T1 チタン ギョーシェです。世界限定わずか8本であり、ギョーシェは完全に手作業でつくられています。伝統的な時計製造の非常に純粋な表現と、我々独自の流体時間表示とを融合させたタイムピースを発表できたことを誇りに思います」と語る。