複雑機構を用いて詩情豊かな作品を生み出すヴァン クリーフ&アーペルのポエトリー オブ タイム。その最新作はダイアル上でプリマドンナが踊る、カリヨンとオルゴールを組み合わせたミュージカルウォッチだ。
オンデマンドアニメーションとミュージカルウォッチを組み合わせたジュエリーピース。ダイヤモンド ウォッチが奏でるのは、1875年にチャイコフスキーが作曲した『交響曲第3番』。手巻き。パワーリザーブ約54時間。18KWG(直径44.5mm)。5187万6000円(税込み)。
鈴木裕之:取材・文 Text by Hiroyuki Suzuki
クロノス日本版 2021年5月号 掲載記事
バレエの世界を表現した「レディ アーペル バレリーヌ ミュージカル」
1940年代の初頭からバレリーナクリップなどのモチーフを手掛けてきたヴァン クリーフ&アーペル。50年代にルイ・アーペルが、著名な振付師であるジョージ・バランシンと親交を深めたことで、メゾンとバレエの結びつきはさらに深いものとなってゆく。ふたりの宝石への情熱を結実させたバランシン作のバレエ『ジュエルズ』が初演を迎えたのは67年のニューヨーク。第1幕の『エメラルド』にはガブリエル・フォーレ、第2幕『ルビー』にはイーゴリ・ストラヴィンスキー、第3幕『ダイヤモンド』にはピョートル・イリイチ・チャイコフスキーの楽曲が、それぞれ使われている。
『ジュエルズ』第2幕をイメージしたルビー ウォッチ。ストラヴィンスキーの『ピアノと管弦楽のためのカプリッチョ』(1929年)を92音で再現する。そのうち69音がオルゴール、23音がカリヨンによるもの。ミュージカルウォッチ用の編曲は、すべてフルート奏者のミシェル・ティラボスコが担当。手巻き。パワーリザーブ約54時間。18KWG(直径44.5mm)。5187万6000円(税込み)。
ポエトリー オブ タイムの最新作となる「レディ アーペル バレリーヌ ミュージカル」は、精緻なダイヤモンドセッティングとエナメル装飾に、ミュージカルウォッチのムーブメントを載せたもの。『ジュエルズ』の各演目に沿ったモチーフと楽曲の組み合わせで、3モデルが展開される。搭載される手巻きムーブメントには、12時間表示のレトログラード針と、専用香箱によるオンデマンド作動のオルゴール機構を搭載。約20秒でダイアルが1回転して各楽曲を奏でてゆく。
本作が奏でる楽曲が重厚に聞こえる理由のひとつは、通常のオルゴール機能に加えて、4ゴング4ハンマーのカリヨン機構を組み合わせているため。ダイアル同軸で回転するディスク裏にピンを立てて、オルゴールの歯を弾く構造は通常のディスク式オルゴールと同じだが、本作ではディスク外周のリングにハンマーを弾く爪を設けて、カリヨンを同時に作動させている。オルゴール用のディスク、カリヨン用のリング、そしてダイアルをすべて同軸配置として、遠心ガバナーで調速しながら約20秒で回転させる。機構としては極めてシンプルだ。
音質を良くするもうひとつの理由はケース構造にもある。ベゼルからケースサイドにかけて、ダイヤモンドがセッティングされたドレープ状のモチーフが見えるが、ここに適切な隙間を設けることで、音を外部に向けて拡散させてゆく効果を狙っているのだ。ムーブメント自体は防水ケースに収められており、ケースバックとの間で音を反響させ、ドレープの隙間から逃がす。オルゴールとカリヨンによる多層的な音色と、反響室と拡散効果を狙ったケース構造。これらの相乗効果で、従来にはない詩情豊かなミュージカルウォッチを完成させている。ジュネーブ近郊のメイランで手掛けられる自社製のエナメルダイアルも美しく、ベースエナメルを焼成した後に部分的に剥がし、そこに細密彫金を施したうえで、さらにミニアチュールペイントを施すという、手の込んだ手法が採られている。
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