イノベーションの数々
文字盤外周で航空高度を表示する精巧な構造はオリスの特許技術である。だが、この構造にはデメリットもある。それは、高度計が作動している間、時計の防水性が失われ、空気と湿気がムーブメントまで浸入する危険性がある点だ。これを回避するため、オリスはケース内部のリュウズ用の穴の後ろ側に機能性膜を取り付けた。通気性のある防水布と同様、空気を通すが湿気は通さないこの機能性膜も、オリスの特許技術である。リュウズをねじ込んだ状態では、ビッグクラウン プロパイロット アルティメーターは100mの防水性を備えている。
特許を取得しているイノベーションはこれだけではない。高度計に使用されている極めて軽い針もオリスの特許技術である。この針はカーボンファイバー複合材で出来ており、非常に動きやすく設計されているが、振動にはほとんど反応しないのが特徴である。
飛行術ではさまざまな約束事があるが、5000フィート(約1500m)に達した時点で、安全上の理由から、装備されている高度計を大気圧の国際基準である1013ヘクトパスカルに規正しなければならないこともそのひとつである。これ以上の高度になると、複数の航空機の飛行高度を明確に区別するために、フィートではなくフライトレベルで表現される。つまり、標準気圧に切り替えると5000フィートは「フライトレベル50」と表示されるのだ。これは、航空機の衝突事故を防止するための規定である。それぞれの出発地の気圧が極端に異なる場合は離陸前の設定気圧が異なることから、航空機の高度計がそれぞれ異なる高度を示し、フィート表示のままでは2機が誤って同じ高度に滞在する可能性が生じてしまうためだ。フライトレベルは航空機に装備されているトランスポンダーによって伝送され、航空機はこれに応じて他機を回避するか、航空管制官から適切な高度の指示を受ける。
空中での衝突を避けるための対策は他にもある。計器飛行方式で飛行する航空機はフライトレベル60、70等を利用し、有視界飛行方式ではフライトレベル65、75等が利用される。これで、1機が他機の行く手をさえぎる事態が発生しないようになっている。さらに、有視界飛行方式による飛行の場合は、10の位が奇数のフライトレベル(FL55やFL75等)は東、10の位が偶数のフライトレベル(FL65やFL85等)は西、というように飛行方向が定められている。これによって、2機が正面すれすれで遭遇する危険を回避することができ、パイロットの注意力が低下した場合や視界が悪い場合に、2機が超高速で接近し、あわや衝突という事態を防ぐことができるのだ。
というわけで、セスナの高度計と同時にオリスの高度計の設定も切り替えることにしよう。文字盤と外周リングの間の一段、深くなった場所に配されている気圧スケールには鮮やかな赤い三角形があり、フライトレベルを示す「FL」が記されている。これを6時位置の赤い三角形の下まで動かすだけでよい。細くて小さな気圧スケールだが、飛行中に振動があっても、簡単に切り替えることができるのはありがたい。
そうこうしている間に、セスナはうっすらと雪の積もったメミンゲンとケンプテンの上空を越え、アルプス山脈が目前に迫っていた。我々は、フライトレベル105まで高度を上げた。これは、高度約1万500フィートあるいは3200mに相当する。太陽の光がたっぷりと降り注ぐ中、雪に覆われた美しい山頂が手に取るように見える。