【86点】ヴァシュロン・コンスタンタン/パトリモニー・トラディショナル・14デイズ・トゥールビヨン

2015.04.03

特筆すべき持久力

ワンミニッツトゥールビヨンを歩度測定機に掛ける場合、各姿勢とも最低1分間計測するか、ひと姿勢を数回テストする必要があることを考慮しなくてはならない。というのも、重力の均等化による効果はそうしなければ確認できないからだ。それで今回は、各姿勢とも5分間計測することにした。
主ゼンマイがフルに巻き上がった直後においては、垂直姿勢の歩度は期待した通りかなり良い。平置きの水平姿勢では、テンワにかかるトルクが幾分高めに表れているようで、振り角が大き過ぎるくらいだ。手巻き時計にとって重要なチェックポイントである、巻き上げから12時間後も数値は良好。姿勢差は最大で5秒、平均日差はプラス2秒だった。7日後も同じく優秀な歩度が保たれた。垂直姿勢での最大姿勢差は1秒を示した。13日後になって、ようやくパワーはやや衰えを見せ、姿勢差が開いて来ている。それでも平均日差はプラス2秒と、なおも小さい数値にとどまった。これらのことから、このトゥールビヨンのメカニズムは、幾分のパワフルさを要しているのは明白だろう。駆動開始時でも停止間際でも、水平姿勢と垂直姿勢との振り角の差は約60度と、通常の腕時計に比べて2倍ほどの開きがある。さらに印象深いのは、14日巻きというロングパワーリザーブモデルでも優良な精度を出すことへの道筋を付けたことだ。
しかし、これらの結果のように胸が熱くなるとは残念ながら言い難いのは価格だ。ピンクゴールドケースのモデルは2850万円である。手頃なテラスハウスでも購入し得る値段だと思うと、やはり誰しもあれこれ考えてしまうだろう。確かに、他の多くのトゥールビヨンと比べて、このモデルは値が張っている。だが、これほどのロングパワーリザーブを備えたものはほとんどないのも事実だ。
時計への投資はよく考えて決断したいところ。だが、その幾多の煩悶を乗り越えた者には、かくも麗しい細密世界との甘美な時が待っているのだ。