ヒストリカルピースの特徴を取り入れながらも、随所に工夫が見られる。画一的になりがちなパイロットウォッチに、さりげなく独自性を持たせることに成功した。
認識すべきは何か
つまるところ、見目麗し、操作は簡単、着け心地は快適で、内蔵のムーブメントも興味深い。では、何か足りないものはあるのだろうか?
このモデルを購入しようとするなら、リュウズと一体のプッシュボタンはクロノグラフにストップをかけた後に再スタートができず、スタート、ストップ、リセットの繰り返しのみ機能することを、承知しておかねばならない。もうひとつ、ベゼルがかなり軽やかに回るので、ちょっと触れただけでも意図せずセット位置がずれることもある。これらはベゼルを短いタイムスパンでのチェックのために実用しない場合でも、クロノグラフを紛らわしくなく読み取るためには覚えておきたい。
そして、暗がりでの視認性は、思ったより低かった。夜光塗料はしっかりと発光するのだが、いかんせん時針・分針の塗布面積が狭い。そのため夜間は闇にほぼ同化してしまうのだ。
とはいえ、昼間のうちはよく読み取れるし、これ以外では長所が短所を上回っているので、総合すると良い1本と言える。なんといってもこのデザインの仕上がりの丁寧さ、そして装着感の良さには説得力がある。そして、このムーブメントが、現実的な価格帯のクロノグラフ群の中に、特別感を与えているのだ。
オープンコックピットのシートに揺さぶられる機会など訪れないままであっても、この腕時計とともに過ごせば地上にいても気分は雲の上、となるだろう。