ケースの構造
押し込み式裏蓋が採用されていることからも、ステンレススティールケースの構造をそのままセラミックスで再現できないのが分かる。スピードマスター コーアクシャルのステンレススティールモデルに採用されているねじ込み式裏蓋は、セラミックスにねじ山を切ることが困難であることから、セラミックモデルでは採用できないのである。そのため、メタル製のインナーケースを接着あるいは圧着し、ここにメタル製裏蓋をねじ込むブランドは数多い。だが、オメガは、スペーサーやリュウズ用のチューブさえ使わずに裏蓋を直接押し込む方式を採用した。ムーブメントはネジでケース内に固定されており、裏蓋側から取り外すことができる。リュウズを湿気や水の浸入から守っているのはパッキンのみである。そのため、ケースバックのパッキンには薬品に対して高い耐性を持つ緑色のバイトンが使われている。それにもかかわらず、5気圧という防水性は、スピードマスター コーアクシャルのステンレススティールモデルの半分に過ぎない。したがって、〝ダークサイド・オブ・ザ・ムーン〟はウォータースポーツには向いていない。
クロノマットGMTブラックスチールは、〝ダークサイド・オブ・ザ・ムーン〟よりもはるかに防水性が高い。50気圧防水は、水深500mの水圧に耐えられることを意味している。クロノマットGMTブラックスチールでは、ケースバック、リュウズ、プッシュボタンに至るまで、すべてねじ込み式で留められており、10mの飛び板から飛び込んでも問題ない。ケースバックを外すとキャリバーB04が姿を現す。ブライトリングが自社開発し、2009年に発表したクロノグラフキャリバーB01のGMTバージョンである。ブライトリングのキャリバーB04の方が、2011年に発表されたオメガのキャリバー9300よりも目視できる範囲が広く、コラムホイールやレバーの数々ばかりか、リセットカムを載せたクロノグラフ積算車も一部、観察することができる。その点、オメガのキャリバー9300では、3つの開口部を通して辛うじてコラムホイールが見えるものの、ブリッジがムーブメントのほぼ全体を覆ってしまっている。それでも、オメガ独自のスパイラル状に広がるアラベスクのコート・ド・ジュネーブや、面取りとポリッシュを施したエッジ、鏡面仕上げのネジ頭を持つ黒くコーティングされたネジなど、極めて高級感あふれる仕上がりとなっている。ブライトリングでもポリッシュ仕上げのネジ頭や模様彫りは見られるが、シートメタルから打ち抜き加工されたレバーなどは、ポリッシュが施されていても、やはり見劣りしてしまう。