華々しくはなくとも実直さが魅力
もちろん、時計で一番重要なのは、見て気に入るかどうかという点だ。どんなメリットがあろうが、外観が気に入らなければ意味がない。グランドセイコー メカニカルハイビート36000は、飾り立てないシンプルな気品に包まれているのが大きな魅力だ。シリーズとして、1960年以来の歴史を持ち、クラシックかつ実直なデザイン、飾り立てるものはなくともディテールは美しい。ことにセンターではなく縁に面取りを施した60年代風のドーフィン針の仕上がりはパーフェクトだ。文字盤上ではシルバーの色目との組み合わせにはメリハリがないが、微細に入った放射状のサンレイ装飾との対比はなかなかである。また、アプライドインデックスの片端は、文字盤中心に向けて傾斜が付けられており、日付表示にはきちんと面取りが施された窓枠が備えられている。このモデルはすべてのディテールが優美な域に達しているとまでは言えないが、何かほかの時計とはまったく違う独特のものを持っているのだ。その雰囲気は、男女を問わず人間のファッションモデルになぞらえることができるかもしれない。非の打ち所のない見た目でありながら、漠然と何かが足りないように感じてしまうのだ。
では、何が外観上の弱点なのか、具体的に指摘するとなると、これがまた難しい。ラグに穿たれたバネ棒の穴と、ブレスレットのそれが平行していて、機能的に見えないせいもあるかもしれない。バネ穴の凹みがこうはっきりとしていて、武骨なバネ棒の存在を外から感じさせるようでは瀟洒とは言えまい。とはいえ、ケース中心部の膨らみがサイドのシャープさを際立たせつつも、サテン仕上げは繊細という一面もある。立体感あふれるベゼルも、センターを独立ピースにしたケースとブレスレットの間を埋めるエンドピースも、部分的に鏡面に磨かれていて手間のかかった印象を与える。
このように、時計の内側からも外側からもチェックした結果、グランドセイコー メカニカルハイビート36000は、断罪できるほどの決定的な弱点がほとんど見つからないという結論に至った。個性的なもので他人と差をつけたいならば話は別だが、ぐっと抑制の利いたおとなしいデザインを好む向きには、これ以上望む事柄はないはずだ。第一、これだけの優秀さを持ちながら、えらく高価というわけではないのは大きな魅力だ。そして、極東という異国情緒がありつつ、欧州のクォリティに乖離していないときては、コレクションに加えない手はないだろう。