ZENITH PILOT BIG DATE SPECIAL
さじ加減ひとつで、マニアックにも小粋にもなるのがパイロットウォッチ。ゼニス定番のエル・プリメロに新たな工夫が加えられ、ナビゲーションウォッチの高揚感が満喫できそうだ。
ニック・シェルツェル: 写真 Photographs by Nik Schölzel
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa
+point
・美しく表面装飾が施されたマニュファクチュールムーブメントを搭載
・ディテールの組み合わせが工夫されている
・安定感のある精度
・仕上がりと価格のバランスがよい
-point
・大型日付表示のよさが生かしきれていない
・ストップセコンド機能がない
・尾錠の作りが全体に見合っていない
上昇気流に乗って
20世紀初頭、パイロットウォッチは飛行においてなくてはならないナビゲーションツールだった。1909年7月25日、飛行士のパイオニアであったルイ・ブレリオは、自身の飛行機「ブレリオ11号」による約37分間の連続飛行の際、ゼニスのインナー回転ベゼル付き腕時計を腕に巻いて臨んでいる。その後ほどなくして、コクピットに組み込まれた計器が登場し、パイロットウォッチは次第に必要不可欠なものではなくなっていく。そんな中、ゼニスが製造していたのは、とりわけ高性能の計器だった。ゼニスは30年代から40年代には、温度変化に強く、磁気に対する防御力を備えたボードクロックで成功を収めている。
今日のパイロットウォッチとは、何よりもデザインの一ジャンルであることは間違いない。そして、もちろん趣味で操縦する飛行愛好家にとっては、緊急時に役立つツールであることにも変わりはない。職業パイロット仕様のクラシックなデザインのものにファンは多く、パイロットウォッチの吸引力は、いまだ衰えを見せていないのが現状だ。このほどゼニスから登場した「パイロット ビッグデイト スペシャル」は、歴史的なデザインを踏襲し、パイロットウォッチの各機能を強調しつつまとめ上げられている。照り返しのないつや消しの黒文字盤や夜光の表示など、ナビゲーションツールとしての典型的な要素を堂々たるサイズのサテンケースに包み、白いステッチ付きのカーフストラップが寄り添う。
注目すべきは、文字盤のデザインにおいて、古典的であることに縛られ過ぎていない点だ。このモデルには、クラシックスタイルのパイロットウォッチには見られない微細な目盛りが盛り込まれ、逆に12時位置からは、典型的なふたつのドット付き三角形が外されている。中でも長針・短針の形状が特徴的だ。先端の幅が、目盛りと目盛りの間に渡るほどの広さになっていることからも、全体のデザインに力点が置かれたことがうかがえる。