時計全体と調和した
ムーブメントの仕上げ
弓のようなカーブを描いたブリッジのフォルムもモダン過ぎず、このモデルに似つかわしい。ムーブメント全体の仕上がりが、時計全体のキャラクターに合っているのだ。最も目を引くのは、3つのブリッジのサテンが同じ方向に揃えられている点だ。ネジの頭やルビーが収まる穴の縁も、エッジは面取りされていて、加工の細やかさを感じる。キズ見を使って観察すると、面取りされた箇所は鏡面に磨かれているのではなく、非常に正確にフライスで切削されていることが分かるだろう。機能面にも目を向けると、ストップセコンド仕様になっていないが、2針なのでさしたる問題にはならない。
さて、性能面はどうだろうか。歩度測定機にかけた結果、さまざまな傾向が見られた。全姿勢の平均日差はプラス2・5秒と、良い数値が出ている。もっとも各姿勢を見ると、プラス8秒からマイナス5秒まで開きが出て、最大姿勢差は13秒という結果になった。しかし、振り角に関しては、垂直姿勢で236度だったので、まずまずといったところか。
次に操作性をチェックすると、ストップセコンド仕様にはなっていないものの、オリジナルと比較すると、ちょっとした改良点がある。リュウズを1段引きすると、時針のみを単独で合わせられる機構になっているのだ。分針を1周させることなく素早く針合わせできるため、時刻をセカンドタイムゾーンやサマータイムに設定する時なども重宝する。
3日間に及ぶパワーリザーブも評価すべきポイントだ。かつてのロレックス製ムーブメントではパワーリザーブは約36時間。後にアンジェリュス製ムーブメントでは8日巻きになっていたものの、初代に比べて雰囲気を踏襲しつつも技術改良が行われたのは喜ばしい。
ムーブメントの造形からも当時の雰囲気が伝わってくる。キャリバーP.3000のブリッジは、アンジェリュス製ムーブメント同様、3分割されている。生産性を考えれば1枚で済むはずだが、美観を重視して、パネライはあえてブリッジを分けた。厳密に言うと同じではない。しかし、ブリッジに与えられた曲線を描く造形などは、昔のアンジェリュスをよく模している。
加えて、オリジナルとは異なり、このモデルの裏蓋はトランスパレント仕様となった。しかも、ディテールに凝るパネライらしく、サファイアクリスタルを取り巻くリングのエングレービングはかつてと同様、“OFFICINE PANERAI BREVETTATO"と刻印されている。その刻印の末尾を飾るのは登録商標である。
ところで、今年2012年は、“ルミノール 1950”ケースを持つPAM00422もアンジェリュス製ムーブメントへのオマージュとして発表された。もっとも、こちらは今回のテストウォッチほどは昔日の薫りを漂わせてはいない。というのも、かつてのものはスモールセコンドが9時の右脇に置かれていたのだが、新作では9時位置に据えられているからだ。
尾錠も歴史的デザインに則りつつ進化している。昔のモデルでは、現在のように尾錠がカーブを描かず、ストレートな形状であった。当時のユーザーの多くは、自分自身で尾錠を曲げてフィット感をよくし、手首回りに余分な遊びがないようにしていたものだった。今作ではあらかじめ尾錠にカーブを持たせ、デザインを崩さずに着用性を向上させている。同様に、幅広にフライスされたツク棒は、かつてと同じくサテンで仕上げられているが、ストラップ穴に通す時にストラップへのダメージが少ないよう、若干のカーブが加えられた。また、ケースも尾錠と同じようにフライスに手間を掛け、最高の仕上がり具合を愉しむことができる。