LONGINES COLUMN-WHEEL CHRONOGRAPH
時計の歴史の中で、数々の貢献を果たしてきたロンジン。現在、控えめな印象だが、今後、新たな展開を迎える期待が高まっている。新型専用キャリバーの登場は、実力派の底力とポテンシャルを見せつけてくれた。
OK-PHOTOGRAPHY: 写真 Photographs by OK-PHOTOGRAPHY
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa
+point
・オリジナルキャリバーを搭載
・トレンドの設計を最新技術で提示
・緩急調整が完璧
・コストパフォーマンスに優れた価格設定
-point
・プッシュボタンのセッティングが安定感に欠ける
・ラグ先端のシェイプが直線的
・日付修正ボタンが小さすぎる
第2幕への予鈴
ロンジンが2010年に発表したコラムホイール クロノグラフで見せてくれた開発力とパフォーマンスは、もう称賛するほかはない。現在のロンジンは、スウォッチ グループの中でのブランドとしての格付けは、ティソやサーチナより明らかに上だが、オメガの下に押し込まれている感は否めない。しかし、その実体は、サンティミエに根を下ろし、世界に輝かしき名を馳せてきた実力派の老舗である。成功の鍵は商品そのものにある。そして、適正な価格設定が販売店との長い取引関係を築き上げてきたのだ。
そのロンジンが、ブランドオリジナルのクロノグラフムーブメントをコレクションに加えたのがこのモデルだ。機械式ムーブメントの粋を集めた新キャリバーL688・2は、ETAが自社キャリバーA08・231をロンジンのために仕上げたエクスクルーシブムーブメントであり、今後も専用機として独占使用が決定している。
開発プロジェクトが始まったのは08年。翌09年のバーゼルワールドでキャリバーL688・2が発表され、10年にクロノグラフの新製品として披露された。それ以降、着々とデリバリーされている。このロンジン専用新型クロノグラフムーブメントは、ETAの従来のクロノグラフムーブメントに比べてはるかに知的な仕上がりになっている。なにしろ設計したエンジニアと時計師は、精巧なクロノグラフムーブメントにかけてはノウハウに長けたスペシャリストたちだからだ。既存ムーブメントの何を生かして何を新しくするかは早々と決まった。まず、腕の動きをきっちりと一方向に整流して伝える片方向巻き上げ方式や、ニヴァロックス製の2万8800振動/時の脱進機、10時位置のケースサイドに修正ボタンを置く日付のクイックコレクト機構などが採用されている。
そして、クロノグラフ機構には信頼性に定評のあるスイングピニオンによる伝達方式が採り入れられた。これは揺れ動くように組み込まれた軸(ピニオン)の上下それぞれの端に備えられたカナが、時計の通常輪列とクロノグラフ輪列を連結する機構である。軸の文字盤側にあるカナは、スモールセコンドを動かす4番車と常に噛み合う。クロノグラフのスタートボタンを押すと、軸の裏蓋側にあるカナが発停レバーによって秒クロノグラフ車(クロノグラフランナー)の歯先に噛み合い、4番車の動力をクロノグラフ機構に伝達し、計測が始まる仕組みになっている。
キャリバーL688・2では、可能な限り経路の短い効率的な切り替え制御を追求してきたこれまでの改良技術が発揮され、厳選された少ないパーツ数で高い品質基準を実現。さらに、メンテナンスしやすいのも特徴だ。スタート/ストップボタンおよびリセットボタンの相関的なメカニズムは、このキャリバーでも存分に生かされている。その中で重要な役割を果たすのが、クロノグラフ秒針と積算計の針を瞬時に帰零させるふたまたのリセットハンマーである。