ゆっくりと青色に変色する。
海水に強い200m防水のチタンケースと、ドライ・テクノロジーの恩恵による曇らない風防。144.TI.DIAPALは海での活動にもふさわしい。セカンドタイムゾーンを表示するGMT針と日付は、リュウズを2段引きにした状態で、それぞれ早送りして容易にセッティングできる。ディアパル・テクノロジー搭載のチタンケースにレザーストラップ仕様のモデルは価格42万円。
ドライ・テクノロジー
長期的な視野に立てば、ジンが独自に開発したドライ・テクノロジーもムーブメントに大きなメリットをもたらす。この技術では、ケースに充填された原子半径の大きいプロテクトガス(訳注:希ガスの一種)により、ケース内に湿気が簡単には入り込まないようになっている。それでも湿気が浸入してしまった場合に備えて、ケースには硫酸銅を封入したドライカプセルが埋め込まれており、ケース内の湿気はここで吸収される。左下のラグにはドライカプセルの点検窓があり、カプセルにまだ湿気の吸収能力が残っている場合は白く、飽和状態で交換が必要になると青色に変色する。
しかし、この技術にはわずかながらもデメリットがある。パーツ交換は言うまでもなく、ムーブメントに手を入れる作業はどんなに些細なものでも、すべてフランクフルトのジン本社で行わなければならないのだ。プロテクトガスが本社でしかケースに再充填できないのが理由である(日本では、ホッタインターナショナルにおいてパーツおよびドライカプセルの交換、プロテクトガスの再充填を行っている)。その代わり、時計内部が乾燥した状態に保たれることでオイルは劣化しにくく、ムーブメントは錆から守られる。しかも、内部には湿気がまったく存在しないため、温度変化が激しい場合でも風防が曇らない。
ケースは200m防水で、純チタンで出来ている。純チタンは、海水などの塩分を含む水に強く、アレルギー体質のユーザーには特に向いており、熱伝導率が低いことから、心地良い温かさが肌に伝わってくる。また、非常に軽い素材のため、装着性の向上にも貢献している。しかし、空気中の酸素と結合することで、表面に濃い色の硬い酸化皮膜が形成されているにもかかわらず、チタンはスティールよりも傷が付きやすい。ケースは全体的にクリーンな作り込みだが、構造そのものはややシンプルである。
傷の付きやすさは、チタンブレスレットや、チタンプレートで出来たセーフティーフォールディングバックルにもかなり当てはまる。フォールディングバックルは一見、堅牢な印象を与えるが、開閉動作を数回行っただけで、はっきりとした使用傷が付いてしまう。それよりも、装着時にバックルを開けるのが非常に困難で、内蔵エクステンションがしばしば不用意に伸張してしまうことのほうが、どちらかと言えば不愉快である。それに引き換え、装着感は抜群で、手首への馴染みも快適だ。
早送り機能を備えた
セカンドタイムゾーン
この時計は操作性も良好である。リュウズを解除するのに、時計を外す必要がないのはうれしい。日付とGMT針の早送り機能、そして、ストップセコンド機能の恩恵により、すべての機能はスムーズに修正でき、時刻合わせも簡単に行うことができる。
操作性以上に秀逸なのは時刻の視認性である。ネオンレッドのクロノグラフ針は、白い時・分・GMT針と明確に区別することができ、白い針は暗色の文字盤からくっきりと浮かび上がる。GMT針は先端がアロー型になっているため、通常の時針とひと目で区別できるが、夜間には時・分・GMT針、インデックス、数字のすべてがかなり明るく輝くため、時針を読み違える危険も否めない。クロノグラフの諸機能は暗所では発光せず、これがかえって視認性の向上に貢献している。
良好な視認性は、一貫して機能を優先させたデザインの産物でもある。144は、当節流行りのオーバーデザインへの対抗機なのだ。やや1980年代を想起させる外観だが、コックピットの計器のように流行に左右されることはなく、黒いインダイアルを載せたチャコールグレーの文字盤によって、全体が引き締まった印象に仕上がっている。パイロットクロノグラフやドライバークロノグラフを思わせる144は、装飾的な要素が一切廃されているからこそ、好感度が高いのだ。ただ、タキメーターとパルスメーターを組み合わせた文字盤リングは必ずしも必要ではなかったかもしれない。もっとも、活用すれば、文字盤外周に配された薄いメタルリングの前半で160から50の脈拍数を、後半では時速190~60km.の速度を測定することができる。