【75点】ロンジン/ヘリテージ ミリタリー

2017.08.29
原型となったモデルは、針合わせはまだダボ押しのヒンジ式ケースにワイヤーでラグを取り付けたもの。ムーブメントが大きな懐中時計を転用していたため、スモールセコンドの位置にも無理がない。


 時計ファンの中でもメカの愛好者にとって、ロンジンで最も心をくすぐられるのはヘリテージコレクションだ。このコレクションは20世紀に作られた、ロンジンならではの数々のモデルから構成されている。その内容は、ダイバーズウォッチあり、パイロットウォッチあり、クロノグラフや優美なタイプもある。そして、ミリタリーウォッチも含まれる。その中のひとつに挙げられるのが、1918年、つまり第1次世界大戦時のデザインに範をとったヘリテージ ミリタリーだ。当時は紳士用の懐中時計にワイヤーをロウ付けしてラグを作り、そこにベルトを通すことによって、腕に巻きつけておく時計としての活用が始まった時代だ。これは塹壕の中や隊の移動時の狭い車両の中で、軍服に付いているたくさんのポケットから懐中時計を探し出すのが実用的ではなかったからだ。

 初期の兵士用腕時計として典型的だったのは、夜光塗料が施された大きな数字だ。今やその独特のフォントだけで、かつて戦場で実用されていたミリタリーウォッチとしての機能を彷彿とさせる。ロンジンはその数字をヘリテージ ミリタリーに生かしつつ、基となったモデルで使われていたブレゲ針の代わりに、より視認性の高い夜光塗料付きコブラ針を使用。しかも文字盤の色には黒を採用して、丸みを帯びた懐中時計のケースに比べ、幅広のベゼルでよりたくましく仕立て、まごうことなき腕時計用のケースとともに、いかにも現代的な風貌だ。

デザインも機能も現代ならでは

 しかしこのモデルで、原型となったオリジナルのほうが良かったのではと思えるのは、スモールセコンドの配置だろう。テストウォッチのスモールセコンドの位置はぐっと上へずれて、スモールダイアルの頂点は時・分針の軸付近まで迫っている。これはケース径が44㎜と大型なところに、それより小さな直径のムーブメントであるETAのキャリバー2895を搭載しているためだ。それゆえ、日付表示も文字盤の端に届いていないので、ムーブメントがケースにきちんと適合しているとは言い難い。

 こうした不調和は、1970年代や80年代に設計されたムーブメントが、今やどんどん大型化しているケースに搭載されている場合によく見られる。かつてのミリタリーウォッチはムーブメント自体に大きさがあった。それは実用する兵士たちにとって、スモールセコンドがいかに重要な情報だったかという証明でもある。戦場では臼砲弾がまさに飛んでいるような時にさえ、瞬時に文字盤に目を走らせ判断する必要があったからだ。しかし今日においては、スモールセコンドは時計がちゃんと動いているかどうかの目安としての役割が大半だろう。そして日付表示は、恐らく多くのユーザーにとって、だまっていても必然的に付いてくるもの、という感覚であり、そのためにメーカーも原型であるヒストリカルデザインに無理を加えてでも組み込んでしまうのではないだろうか。

 以上のことを除くと、ヘリテージ ミリタリーは昼夜を問わず見やすく、ストップセコンドと日付早送りの機能が付いて使い勝手が良い、魅力的な腕時計だと言える。特に後者ふたつの機能はミリタリーウォッチとして発展した黎明期の腕時計にはなかったもので、現代のムーブメントならではの恩恵だ。

 ケースに格納された自動巻きキャリバーETA2895の働きぶりには、まるで質実剛健なプロイセン軍人の如き実直さが見られた。歩度測定器による平均日差はプラス1.7秒、着用測定ではマイナス0.5秒とごくわずか。姿勢差は最大9秒と開きがあったが、結果としては引き締まり感のあるデータが出ている。

 最後にひとつだけ、このモデルのミリタリーテイストに反する点を挙げるとすると、ストラップにアリゲーターを使用していることだろう。しかし、ミリタリー調でガチガチに固めているよりも、バランスよく崩すことによってちょっとした余裕が生まれる。このエレガンスの表現は、ロンジンならではの魅力だろう。