モナコは1969年に発表された最初期の自動巻きクロノグラフのひとつとして知られる。モナコのファンは、ブルーサンレイ仕上げの文字盤、明確なコントラストを与えるシルバーカラーのクロノグラフカウンター、アクセントとなる赤いクロノグラフ針、ステンレススティール製のスクエア型ケース、そして、そこから堂々と隆起するサファイアクリスタル製ボックス型風防の切り立ったエッジなど、特徴的なデザインに賛辞を惜しまない。そして歴代のモナコが備えていたこれらの特徴は、今回の最新作にも受け継がれている。「タグ・ホイヤー モナコキャリバー ホイヤー02 クロノグラフ」は「タグ・ホイヤー モナコ キャリバー12 クロノグラフ」の進化形と言っても過言ではない。また、以前は文字盤と面一だったサブダイアルの縁の部分にテーパーを施し、文字盤のデザインにもさらなる奥行きが加わった。
左右対称のサブダイアルは双方ともクロノグラフカウンターで、これまでのモデルでスモールセコンドがあった3時位置に30分積算計が、そしてこれまでは30分積算計が配されていた9時位置に12時間積算計が搭載されている。それに伴いスモールセコンドが6時位置に配置されたため、ツーカウンターから〝3つ目カウンター〞へと変更されている。
新作でも表示要素が控えめにデザインされているのは喜ばしい。ただひとつ、残念なのは、「AUTOMATIC」の文字が以前よりも文字盤中央へと押しやられ、ふたつのサブダイアルの間に配されている点である。これは、新型ムーブメントの秒表示を失わないための妥協策だ。
最新の自社製ムーブメント
文字盤のレイアウトが変わったのは、ムーブメントの抜本的な改良によるものである。タグ・ホイヤー単独による純然たる自社開発のクロノグラフムーブメントがモナコに搭載されるのは初である。69年の初代自動巻きクロノグラフムーブメント、キャリバー11は、ホイヤー、ブライトリング、ハミルトン・ビューレンの共同開発プロジェクトだった。加えて、モジュール作りのスペシャリスト、デュボア・デプラもクロノグラフの機構開発で当時のプロジェクトに寄与した。自社開発のクロノグラフムーブメントの登場は長年、待ち望まれていたが、2017年になってようやくホイヤー02として実を結ぶ。ホイヤー02が最初に搭載されたのは、同年に発表された新生オータヴィアである。それ以前には、タグ・ホイヤーで自社開発ムーブメントと言えるのはトゥールビヨンを備えたクロノグラフムーブメント、ホイヤー02Tをはじめとする複雑機構〝しか〞ラインナップされておらず、その前に開発されたホイヤー01は基本構造においてセイコーのクロノグラフムーブメントに依拠したものだった。
ホイヤー02の登場により、正真正銘の自社製クロノグラフムーブメントをモナコは初めて手にしたのだ。これは、マーケティングの観点からだけでなく、ユーザーにも多大なメリットをもたらす。第一に、クロノグラフの計時を最長30分ではなく、12時間まで測定できるようになったのは、クロノグラフ機構を愛するユーザーにとってありがたい改良点だろう。次に、フル巻き上げ時のパワーリザーブが約40時間から2倍の約80時間に拡長された点である。これは、金曜日に時計を手首から外して置いておいても、月曜日の朝、問題なく使用できることを意味する。そして、3つ目の特徴こそ、モナコの外観を完成させるものである。ムーブメントの直径が31㎜と大きくなったことで極めてテクニカルでモダンな印象を与える新型ムーブメントは、サファイアクリスタル製のトランスパレントバックから存分に鑑賞できるのである。つまり、ケースバック側からの見た目は、セリタ製のSW300にデュボア・デプラのクロノグラフモジュールを載せたキャリバー12や、キャリバー12をモディファイした、リュウズが9時側にあるキャリバー11よりもずっと好印象なのである。
ただ、新型自社製ムーブメントを搭載したことによるデメリットもある。ローターが片方向巻き上げ式であることから、両方向巻き上げ式のものよりも空転時のノイズが大きく、これが長時間続くのだ。クロノスドイツ版編集部で以前、オータヴィアをテストした際はそこまでローターのノイズが気にならなかったので、おそらくケース構造の違いによるものと思われる。
品質と操作性
それではタグ・ホイヤー モナコ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフの精度はどうだろうか。着用テストでは日差がプラス3秒/日とごくわずかで、歩度測定器でのテストではさらに優秀なプラス2秒/日だった。機械式時計としては理想的な数値である。
加工や仕上げにおいても最新の技術が駆使されている。プッシャーは複雑な形状で、ガイドで衝撃から守られている。クロノグラフはコラムホイールで作動するため操作も快適で、垂直クラッチの恩恵により計測始動時の針飛びもない。良質な作りのアリゲーターレザーストラップは片折れ式セーフティーフォールディングバックルを備え、脱着も問題なく、クランプ機構によって長さを無段階で調節できる。
加工においては非の打ちどころがないモナコの最新モデルだが、あえて欠点を挙げるとするなら、縦39×横39㎜のステンレススティール製ケースが15.1㎜と厚いことだろう。スクエア型ということもあり、装着感がやや損なわれる。しかし、モナコのファンにとっては、これが自社開発のクロノグラフムーブメントを搭載した最新作を拒む理由にはならない。66万円という価格は、リュウズが左側のホイヤーモナコ キャリバー11クロノグラフと同価格なのだから。エボーシュ+モジュールで構成されるムーブメントが、自社開発のクロノグラフムーブメントに替わったことを考えれば良心的である。
このようにタグ・ホイヤー モナコ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフは、歴代モナコの持つ美点をすべて備えながら、新型自社製ムーブメントによりさらなるメリットがもたらされているのだ。もし、購入を検討する愛好家が、6時位置に移動したスモールセコンドと、それによって文字盤中央へと移動を余儀なくされた「AUTOMATIC」の文字を、アイデアに欠ける解決策と捉えないのであれば、モナコ史上、最も優れたモデルを手にすることとなるだろう。