ここ数年、チューダーはますます多くのファンを獲得している。ロレックスのファミリーブランドとして知られているが、2009年に前CEOのフィリップ・ペヴェレッリが就任して以降、その勢いが加速しているのだ。近年では特に、独自のデザインを創出してきた歴史を強調するかのように、レトロなモデルを導入している。「ヘリテージ ブラックベイ」は12年に登場したモデルで、そのルーツはブランド初期のダイバーズウォッチにさかのぼる。18年にはひと回り小さい「ブラックベイ フィフティ-エイト」がリリースされ、20年に今回のテストウォッチであるネイビーブルーのモデルが登場した。
「フィフティ-エイト」という名称は、チューダー初期のダイバーズウォッチであり、「ビッグクラウン」と呼ばれるリファレンスナンバー7924が発表された1958年に基づいている。39mmの直径と50年代の特徴的なプロポーションを持つ新作は一見、オリジナルモデルと見間違えるほどヴィンテージ感にあふれている。
オリジナルモデルと同様に、縁の立ち上がりが明確なドーム型風防によってヴィンテージ感はより一層、強められている。オリジナルモデルではアクリル製だった風防は、今作では傷に強いサファイアクリスタルで出来ている。文字盤はオリジナルモデルと同じようにドーム型となっており、細いラグと回転ベゼルのタイポグラフィもチューダーの歴史から引用されたものである。日付表示を持たないことも、ヴィンテージ感あふれるデザインに貢献している。
往年のチューダーのダイバーズウォッチとしてあまりにも有名で、オークションでも人気があるのが、スノーフレーク針を備えたモデルである。スノーフレーク針という名称は時針と秒針に配されているモチーフに由来している。針に対して45度回転させた正方形が雪片を彷彿とさせることから名付けられた。
こうしたディテールは60年代の終わり頃から見られるものである。56年には目的にかなったダイバーズウォッチを探していたフランス海軍がチューダーを試験的に採用し、その結果、チューダーはフランス海軍のサプライヤーとなった。70年代の半ばになると、黒文字盤に代わり青文字盤のモデルが採用された。青文字盤と青のアルミニウム製ダイビングスケールベゼルを備えたテストモデルは、この時代のモデルを想起させる。アルミニウム製ベゼルはセラミックス製のように傷に強くないが、表面がマット仕上げのベゼルはヴィンテージスタイルにふさわしい。
ブラックベイ フィフティ-エイト 〝ネイビーブルー〞は全体的に非常に美しく、調和の取れたモデルである。レトロな外観は青い色によるところが大きいが、フィフティ-エイトに共通するゴールドカラーの針とインデックスを放棄したことで、よりタイムレスな印象に仕上がっている。しかも、視認性は阻害されていない。インデックスは大きく、針にも蓄光塗料がたっぷりと塗布されているので、日中でも暗所でも時刻は明確に読み取ることができる。リュウズは扱いやすく、ねじ込むと巻き上げ機構から連結が切り離され、内部機構は保護される。ストップセコンド機能が搭載されていることと、また日付表示を持たないことで、リュウズのポジション数が減ったため、時刻合わせも簡単に行うことが可能になった。
1分刻みで噛み合う逆回転防止ベゼルも、縁に細かい刻みが施されていることから操作性が良く、容易に回すことができる。初期の頃のモデルではベゼルにまだ遊びがあり、ベゼルを回転させる際に金属的な音がしていたが、チューダーはこれを大幅に改善し、今ではベゼルとケースの噛み合いに重厚感がある。ベゼルのドット部分にも蓄光塗料が施されており、暗い水中でも潜水時間を明確に判読することができる。このベゼルと最大200mの防水性能を備えたケース、水に強いファブリックストラップによって、ブラックベイ フィフティーエイト〝ネイビーブルー〞は実際、ダイビングでも使用可能な時計なのである。
中央にシルバーのストライプが入った青いファブリックストラップは、古いシャトル織機を使った伝統的な製法で織られており、耐久性が高く、かつ極めて軽い。尾錠はチューダーのロゴをモチーフにしており、ケース同様、ポリッシュとサテンのコンビ仕上げの表面が美麗である。
ブルーファブリックストラップは通気性が良く、快適である。厚みのあるケースに薄いファブリックストラップが合っていない時計はよくあるが、ブラックベイ フィフティ-エイト 〝ネイビーブルー〞はそうではない。ファブリックストラップは、テストモデルとの相性が素晴らしく、ヴィンテージ感あふれる外観を完成させている。
ファブリックストラップは裏蓋の下を通すため、裏蓋側はほとんど隠れてしまうが、そもそもブラックベイ フィフティーエイト〝ネイビーブルー〞はトランスパレントバック仕様ではないので問題にならない。いずれにしても、この時計の内部機構を見ることができるのは時計職人だけだ。ステンレススティール製のねじ込み式裏蓋を開けると、マニファクチュールムーブメントキャリバーMT5402が姿を現す。このムーブメントを見ると、チューダーが歴史的に精度と堅牢性を重視してきたことがよく分かる。チューダーのムーブメントは、すべての個体がスイス公式クロノメーター検定協会(C.O.S.C.)で検査され、平均日差がマイナ4〜プラス6秒/日であることが保証されている。
電子歩度測定器で行った精度テストでもクロノメーターであることが見事に証明された。最大姿勢差は小さく、平均日差もマイナス1.3秒/日と小さい。マイナス傾向だったのが唯一残念な点である。着用テストでは日差プラス0.5秒/日という、ほぼ完璧な数値を示した。
チューダーのもうひとつのブランド哲学である堅牢性もムーブメントメーカー、ケニッシとの共同開発によるキャリバーMT5402により具現化されている。さまざまな技術特性を備えたこの自社開発ムーブメントは4.99mmとかなり厚いことから、仮に若干の生産誤差が発生したとしても誤作動を引き起こすことはない。また、テンプは片持ちのテンプ受けだけで保持されるのではなく、両側から支えるブリッジの下に水平に格納されているため安定している。さらに、ヒゲゼンマイはシリコン製なので、衝撃を受けても中心がずれたり変形したりして精度が下がることは少ない。
マニュファクチュールムーブメントの品質を特徴付けるさらなる機能は、約70時間のロングパワーリザーブと、4本の調整ネジを備えたフリースプラングテンプである。これはテンプに緩急針を備えた多くのベーシックなムーブメントのように、緩急針によってヒゲゼンマイの有効長を変えることで歩度の微調整をするのではない。
チューダーはムーブメントの装飾にあまり手を掛けていない。これは、信頼性の高い時計技術を入手可能な価格で提供するという哲学を明示する姿勢の表れでもある。とはいえ、装飾がまったくないわけではなく、スケルトナイズされたローターにはサテンブラッシュド仕上げが施され、チューダーの文字が刻印されている。
ブラックベイ フィフティ-エイト 〝ネイビーブルー〞は歴史的なチューダー ダイバーズウォッチと同じように、その素晴らしいデザインで我々を魅了してやまない。チューダーの時計では常に、機能性が重視されてきた。傷付きやすいアルミニウム製ベゼルが装備されていることを除けば、マイナスポイントはほとんど見つからない。サファイアクリスタル製風防は傷に強く、ふんだんに塗布された蓄光塗料は良好な視認性を約束する。また、高い防水性能を備え、装着感は快適で、ベゼルは簡単に操作することができる。その上、価格も適正である。つまり、あらゆる観点において「正しい」時計なのだ。「正しい」時計であることは、ウェイティングリストが長いことにも表れている。