あらゆる過酷な環境の下で正確に時を告げる。そんな創業者の理念を継承し、実用時計として求められるであろう機能を数々の独自技術で実現してきたボール ウォッチから最強のフラッグシップモデルが登場した。
紹介モデルにはベゼルの素材が異なるふたつの仕様が用意される。写真は耐傷性の高いセラミックベゼルを採用したモデル。針・文字盤・ベゼルに計28個の自発光マイクロ・ガスライトを搭載する。ブレスレットはSSとTiのコンビネーションだ。自動巻き(Cal.1101-CSL)。21石。2万8800振動/時。パワリザーブ約42時間。Ti×SS( 直径42mm、厚さ13.7mm)。300m防水。57万2000円。
Photographs by Masanori Yoshie
前田清輝:編集・文
Edited & Text by Seiki Maeda
全てをその手に
19世紀、アメリカの産業を、広大な国土の輸送を担うことで飛躍的に発展させた鉄道。しかし、当時の列車には現代のような自動制御装置はなく、運行のために正確な時間管理が求められる鉄道会社にとって時計は重要な道具だった。ボール ウォッチの創業者であるウェブスター・C・ボールはそのために「鉄道標準時計」の基準を作り上げ、自ら販売する時計もあらゆる過酷な環境下で正確に時を刻むことを重視。
その信念は現在のボール ウォッチの設計思想へと継承され、視認性の高さ、高精度はもちろんのこと、優れた耐衝撃性能や耐磁性能などをかなえるべく、さまざまな独自機構が開発されてきた。代表的なものとして、針やインデックスに搭載される極細のガラス管の内側に蛍光塗料を塗布し、トリチウムを充填した自発光型のマイクロ・ガスライトのことを思い浮かべるウォッチファンも少なくないだろう。
そんなボール ウォッチが誇る数々の技術を集結させたモデル、「エンジニア ハイドロカーボン EOD」が登場した。2017年にアメリカ海軍の対テロリスト特殊部隊「DEVGRU(デブグル)」から開発を依頼された「エンジニア ハイドロカーボン デブグル」の後継機であるこのモデルは、同国軍の爆発物処理部隊“ExplosiveOrdnance Disposal”(通称EOD)の着用を想定して開発された。
(右)衝撃緩和素材のエラストマー耐衝撃リングはあえてムーブメントとの間に“遊び”を設け、衝撃が加わった際にリング内のムーブメントがわずかに揺れ動くことでショックを緩和するよう設計されている。
その最大の特徴は、EODの隊員に最も求められるであろう耐衝撃性能だ。ETA2892A2をベースとするキャリバー1101-CSLは、衝撃が加わった際にヒゲゼンマイへの影響を緩和する耐震システムであるスプリングロックに加えて、緩急針を守るスプリングシールドを導入。さらにムーブメントの周囲には衝撃緩和素材のエラストマー耐衝撃リングを配置している。これら3つのボール ウォッチの特許技術に加えて、リュウズを包み込んでスクリューロックをかける耐衝撃プロテクション・システムや独自構造のリュウズガードもアップデートすることで、高さ10mからの落下にも耐えて精度を維持するのである。
耐衝撃性能以外も見逃せない。ムーブメントはC.O.S.C. 認定クロノメーターを取得した高精度と、1000ガウスまでの耐磁性能を確保。加えて特殊オイルを使用することで、マイナス45℃の低温環境でも駆動する。そして、暗闇での視認性を高めるマイクロ・ガスライトのセッティングに高い防水性能……。外装においてもケースには軽量かつ錆に強いチタンを採用し、ブレスレットにはチタンとステンレススティール(中央のコマ)を組み合わせることでバランスの良い重量感を実現するという徹底ぶりだ。まさに文字通り、爆発物処理部隊のための時計と言っても過言ではないだろう。しかし、それでいてデザインが華美になりすぎるようなことはなく、むしろ堅牢なダイバーズウォッチのような佇まいを持つ。エンジニア ハイドロカーボン EODが、過酷な状況下で正確な時を刻むだけでなく、幅広いスタイルにも寄り添ってくれるのは間違いないだろう。
(右)調速機構を2本のネジと特殊なプレートで固定して衝撃から緩急針を守るスプリングシールド。
時計に求める「全てをその手に」。ブランドの叡智を集結したミリタリーウォッチは、そんなわがままな願いをかなえてくれる唯一無二の存在かもしれない。
Contact info:ボール ウォッチ・ジャパン Tel.03-3221-7807
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