ひとつの鉄道事故を教訓として、高精度な時計の必要性を提唱したボール ウォッチ創業者ウェブスター・クレイ・ボール。彼の掲げた理想と理念を継承し、現代最高の水準を実現した高精度&高機能モデルが、ボール ウォッチの最新作「ロードマスター M パーシビア」である。
COSC公認クロノメーターに加え、より厳しい自社基準にも合格した高精度な自動巻きモデル。横ストライプのブラック文字盤からマイクロ・ガスライトを封入したインデックスと針が浮き立ち、あらゆる状況下で抜群の視認性を発揮。自動巻き(Cal.RRM7309-C)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径40mm、厚さ14mm)。10気圧防水。42万9000円(税込み)。
名畑政治:文 Text by Masaharu Nabata
田中克幸(アトリエ アッジェ):編集 Edited by Katsuyuki Tanaka(Atelier Adjet)
強く、正しく、美しく
時計の命は言うまでもなく精度。特に鉄道の世界では高精度な時計による厳密な時間管理が行われているはずだった。だが現実には違っていた。それが露見したのが、1891年4月にアメリカ合衆国オハイオ州キプトンで発生した9名の乗務員が犠牲となった凄惨な鉄道事故。この悲劇を繰り返さないため、事故の調査と対策を命じられたのがウェブスター・クレイ・ボール。つまりボール ウォッチの創業者である。
この時、ボールは機関士の時計が4分遅れていたこと、同時に鉄道会社の時間管理が極めてずさんであったことを突き止める。その結果、ボールは「鉄道標準時計の基準」と「時計検査システム」を制定して、正確かつ厳密な時間と運行の管理を提案。自身も「ボール ウォッチ・カンパニー」を設立して高精度で高品質な懐中時計を提供した。
やがてボール ウォッチはスイスへ拠点を移すが、創業者が定めた「あらゆる過酷な環境のもとで正確な時を告げる」という理念を継承し、高精度で実用性に優れ、高い耐久性を兼備するタイムピースを提供し続けている。
そのボール ウォッチの最新作が、ブレスレット一体型デザインの「ロードマスター」コレクションにおけるベーシックモデル「M パーシビア」である。最大の特徴は安定性に優れる汎用ムーブメントをベースとしつつ、自社開発による独自部品を最大限に組み込んだ自動巻きキャリバーRRM7309 -Cの搭載。このムーブメントはシングルバレルで最大約80時間の長いパワーリザーブを実現。精度面ではスイスの公式クロノメーター検定機関C.O.S.C.の厳しいテスト(日差マイナス4秒~プラス6秒/日)に合格した公認クロノメーターであると同時に、ボールが独自制定した、より厳しい「BALLオフィシャルスタンダード」(日差マイナス2秒~プラス4秒/日)という基準をクリアしている。
この高い精度を支えるのが、文字盤のインデックス(アワーマーカー)と時分秒針3本の針にセットされた合計16個の「自発光マイクロ・ガスライト」である。これにより夜間や暗闇で最上級の視認性を確保する。
ケースは化学や医療の分野で用いられる耐食性、耐酸性、耐久性に優れ美しい光沢を持つ904L。この素材は高級時計で一般的な316Lに比べ、ニッケルやモリブデンなどの含有率が高く、一層、サビに強く強靭な材質である。しかし、非常に硬く加工が難しいため採用するメーカーは極めて稀。そしてリンクをコンパクトなH型形状とし、すべてビスで連結してしなやかなフィット感と耐久性を両立させたブレスレットも素晴らしい完成度だ。さらに5000Gsの衝撃にも耐えるタフさや4800A/mの強い磁場にも機能を停止しない優れた耐磁性など、「ロードマスター M パーシビア」が備える特徴は多岐にわたる。
100年以上も前、悲惨な事故を教訓に鉄道における時間管理と時計精度の基準を変革し、やがて一般市民のレベルでも時間に対する意識を変えたウェブスター・クレイ・ボール。彼の掲げた高い理想と時計作りの精神は、この最新作、ロードマスター M パーシビアにも確実に継承されている。
鮮烈なアイスブルー文字盤バージョン。先端を赤くペイントした秒針と6時のインデックスの上に表示される「Chronometer」の赤い文字が呼応し、このモデルが極めて高い精度を保持していることを物語る。自動巻き(Cal.RRM7309-C)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径40mm、厚さ14mm)。10気圧防水。42万9000円(税込み)。