時代を凌駕するカルティエ「タンク」の引力

2021.12.01

カルティエの「タンク」といえば、時計業界を代表する定番中の定番である。
しかし、「タンク」が時計業界において長きにわたってアイコンであり続けたのには理由がある。
変わり続ける「タンク」、その最新作が「タンク マスト」だ。

カルティエ タンク

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将(クロノス日本版):文 Text by Masayuki Hirota(Chronos Japan)
2021年12月 掲載記事

歴史と革新の競演を今こそまとう

 常に時計の世界を牽引してきた〝アイコン〞が、カルティエの「タンク」である。なるほど、角張ったケースと、大きなローマ数字インデックスの組み合わせは、ひと目で「タンク」と分かるものだ。加えて、時代に先んじて姿を変えてきた歩みが、「タンク」を別格の存在としてきた。

タンク マスト ソーラービート

タンク マスト ソーラービート™ Ref.CRWSTA0059
永遠の定番にして、常に変わり続ける「タンク」。それを象徴するのが光発電機能を搭載したソーラービート™モデルだ。金属製文字盤のローマンインデックスをくりぬき、そこから透過した光によってソーラーセルが発電することで2次電池に蓄電し、クォーツムーブメントを駆動する。2次電池の寿命は約16年と非常に長い。ソーラービート™ 光発電ムーブメント。SS( 縦33.7×横25.5mm、厚さ6.6mm)。3気圧防水。予価32万5600円。

 1917年に発表された初の「タンク」は、王侯貴族やブルジョアが使う本当の意味でのラグジュアリーウォッチだった。秒針を持たず、そしてローマ数字のインデックスを持つ「タンク」は、ドレスウォッチとしての条件を完全に満たす腕時計であった。その「タンク」に、新たな魅力を見いだしたのがセレブリティたちだ。フランスの映画スターや、アメリカのアーティスト、そして一流のスポーツ選手といった〝目端が利く〞人たちは、このスクエアなドレスウォッチに、他の腕時計とは違うユニークさを発見したのである。そんな「タンク」愛用者のひとりにアーティストのアンディ・ウォーホルがいる。彼は「時間を見るためにタンクを着けるのではない。タンクを着けたいから着けているのだ」と言い切った。

 セレブリティたちからの熱狂的な支持を見たカルティエは、「タンク」をよりポピュラーにするモデルを加えようと考えた。それが77年の「レ マスト ドゥ カルティエ」である。「持つべきもの」を意味する「マスト」と命名された「タンク」は、端正なデザインに加えて、戦略的な価格や鮮やかな色の文字盤を持つものだった。正統派のドレスウォッチという在り方を自ら変えた「レ マスト ドゥ カルティエ」。このモデルは〝ラグジュアリー民主化〞の先駆者だったのだ。

タンク マスト

© Cartier
タンク マスト Ref.CRWSTA0053
大きなXLサイズの「タンク マスト」は自動巻きムーブメントを搭載。巻き上げ効率が高いほか、薄いため、「タンク」にはうってつけだ。自動巻き(Cal.1847 MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(縦41×横31mm、厚さ8.37mm)。3気圧防水。48万9500円。

 その「タンク」が、2021年に再び姿を変えた。「レ マスト ドゥ カルティエ」の名を継ぐ「タンク マスト」である。これは戦略的な価格と、かつての「タンク」を思わせるデザインを持つものだ。しかも、今の時代ならではの要素として、「エコ」が強調された。それを象徴するのが光発電機能を持つソーラービート™だ。見た目がソーラーウォッチらしくないのは、文字盤が金属素材のため。インデックスから光を通すことで、文字盤は高級時計らしい質感を持つにもかかわらず、光発電が可能になった。また、このモデルはレザーストラップではなく、植物由来のエコレザー製ストラップを採用する。普通のクォーツモデルもやはりエコを意識している。搭載するクォーツムーブメントは、約8年間バッテリーの交換が必要なく、長期間バッテリーが切れないため、常に愛用できる。

 加えて、「タンク マスト」には「レ マストドゥ カルティエ」を思わせるカラフルな文字盤のモデルも追加された。これは文字盤だけでなく、ストラップも同色という凝りようだ。また、機械式ムーブメントに興味がある人には、自動巻きを搭載したモデルも用意された。

© Cartier
タンク マスト
(右から) Ref.CRWSTA0054、Ref.CRWSTA0055、Ref.CRWSTA0056

「レ マスト ドゥ カルティエ」の特徴であったカラフルな文字盤が「タンクマスト」でリバイバルした。右から、レッドラッカーダイアル、ブルーラッカーダイアル、グリーンラッカーダイアル。クォーツ。SS( 縦33.7×横25.5mm、厚さ6.6mm)。3気圧防水。33万9900円。

 新しい「タンク マスト」は、外装のクォリティも高まった。2000年、カルティエはスイスのラ・ショー・ド・フォンに自社工場を落成。ムーブメントだけでなく、ケースやブレスレットも自社で製造するようになったため、質を大きく高めることができたのである。鏡面仕上げのケースに歪みがないのは、顔を映せば一目瞭然だ。また、ラッカー仕上げの文字盤も発色は鮮やかで、表面も完全にフラットだ。見た目こそ「レ マスト ドゥ カルティエ」を思わせるが、カルティエの革新は、「タンク」をさらに進化させたのである。

 今や〝伝説〞となったにもかかわらず、時代に先駆けて常に変わりゆく「タンク」。もちろん「タンク マスト」が女性に似合うことは間違いない。しかし、時代を凌駕していく男性の腕にこそ、この時計はふさわしいのではないだろうか。

タンク マスト

© Cartier
タンク マスト Ref.CRW4TA0017
第1次世界大戦で活躍した戦車。その造形に触発されたのが「タンク」だ。本作はオリジナルのデザインを踏襲しつつも、ケースにダイヤモンドをあしらったものだ。自社製のケースも価格以上の質感を見せる。クォーツ。SS(縦33.7×横25.5mm、厚さ6.6mm)。3気圧防水。85万2500円。


Contact info: カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-301-757



 

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