オーデマ ピゲが誇る複雑機構トゥールビヨンを知る。歴史と主なモデル

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2022.04.16

オーデマ ピゲは複雑機構の名手であり、その高度な時計製造技術はトゥールビヨンの進化にも発揮されている。世界初の自動巻きトゥールビヨン腕時計を作り、フライングトゥールビヨンの搭載にも着手した、オーデマ ピゲの歴史と逸品を紹介しよう。

オーデマ ピゲ

1986年に発表された、世界初の自動巻きトゥールビヨン搭載ウォッチ。キャリバー2870を内蔵する18Kイエローゴールドケースのサイズは縦32.8×横28.7mm。


トゥールビヨンとは

オーデマ ピゲはあらゆる複雑機構をエレガントな腕時計に搭載するマニュファクチュールである。オーデマ ピゲの歴史や逸品を見る前に、まずはトゥールビヨンについて解説しよう。

重力を分散させるための機構

「トゥールビヨン」とは、伝説的天才時計師アブラアン-ルイ・ブレゲが1801年に特許取得した調速機構である。

機械式時計は主ゼンマイがほどけることで動力を得て、ガンギ車・アンクル・テンプ・ヒゲゼンマイからなる調速脱進機によって等時性、つまり計時の精度を保っている。

テンプが安定して振り子運動を行うことによって精度は維持されるが、時計の姿勢が変わると重力により微妙な誤差が生じ、ムーブメントが直立する縦姿勢であればなおさら影響が大きい。

この姿勢差問題を解決するためにブレゲが発明したトゥールビヨンは、調速脱進機をひとつのキャリッジに格納し、キャリッジごと1分間で1回転させる機構だ。

これにより縦姿勢を保ったままでも振り子運動の偏差は分散され、懐中時計をポケットに忍ばせたままの縦姿勢でも等時性を維持することに成功したのだ。

コンプリケーションの花形

トゥールビヨンは優れた調速機構であったが、実用に堪える精度を保証するには複雑すぎた。とりわけ小型のムーブメントが求められる腕時計での実用化は困難を極め、長らく採用するウォッチメーカーはほぼ皆無であった。

トゥールビヨンが時計史に返り咲くのは、クォーツショックの余波が残る1980年代後半、機械式時計にとっての冬の時代である。

高精度な腕時計を安価に大量生産できるクォーツ式に対抗し、トゥールビヨンは腕時計に搭載する複雑機構の象徴として復活した。

復活当時ではトゥールビヨンを組み立てられる時計師は数えるほどしか存在せず、その流麗かつリズミカルな駆動も相まって、コンプリケーションの花形としてスターダムに躍り出た。


オーデマ ピゲの歴史

オーデマ ピゲは145年(2020年現在)を数える歴史の中で複雑機構の巨頭として時計業界をリードし続けてきた。オーデマ ピゲの歴史をトゥールビヨンにフォーカスして紹介しよう。

複雑機構を得意とするメゾン

オーデマ ピゲの歴史は1875年、時計師ジュール=ルイ・オーデマがスイスのジュウ渓谷のル・ブラッシュに開いた時計工房に始まる。

複雑機構に長けたオーデマは幼なじみの時計師エドワール=オーギュスト・ピゲを招き入れ、ピゲを経営担当として1881年に自社ブランド「オーデマ ピゲ」をスタートさせた。

1892年には世界初となる腕時計式のミニッツリピーターを発表し、創業当時から得意としたクロノグラフを中心として、パーペチュアルカレンダーやムーンフェイズなどを搭載したコンプリケーションを続々とリリースしていく。

1986年には、世界初となる薄型の自動巻きトゥールビヨン腕時計を発表するなど、常に時計業界をリードし続けてきたコンプリケーションの名手だ。

ミニッツリピーター

1892年に発表された、世界初の腕時計式ミニッツリピーター搭載機。このムーブメントは後にLouis Brandt frères(オメガ)へ売却された。

フライング トゥールビヨンを開発

1920年、ドイツのグラスヒュッテ時計学校の校長アルフレッド・ヘルヴィッグによって、ダイアル側にトゥールビヨンキャリッッジを支えるブリッジ(受け)を持たない「フライング トゥールビヨン」が発明された。

トゥールビヨンの復活以降、いくつかの時計メーカーがフライング トゥールビヨンの搭載を実現したが、オーデマ ピゲがこのエレガントな複雑機構を初めて採用したのは2018年発表の「ロイヤル オーク コンセプト フライング トゥールビヨン GMT」である。同メゾンにしては後発なのが意外だ。

ロイヤル オーク コンセプト フライングトゥールビヨン GMT

2018年に発表された「ロイヤル オーク コンセプト フライングトゥールビヨン GMT」。9時位置にフライングトゥールビヨンを備える。手巻き(Cal.2954)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約10日間。チタンケース(直径44mm、厚さ16.1mm)。100m防水。

おすすめのモデル

オーデマ ピゲは数々の卓越したコンプリケーションを発表しているが、ここでは主にトゥールビヨン搭載モデルの逸品を紹介しよう。

ブラックセラミックスが映える ロイヤル オーク トゥールビヨン エクストラ シン

「ロイヤル オーク トゥールビヨン エクストラ シン(Ref.26522CE.OO.1225CE.01)」は、厚さわずか9mmのボディーにトゥールビヨンを搭載した、ブラックセラミックスが静かに輝くブティック限定モデルである。

ダイアルは通常のタペストリーではなくサンバースト状の「エヴォルティブタペストリー」を採用し、意匠の中核を成すトゥールビヨンが際立つデザインだ。

Ref.26522ST.OO.1220ST.01では気品のあるパープルダイアルで一味違ったエレガンスが楽しめる。2020年代の新作では、18Kホワイトゴールド製の日本限定モデル2種もリリースされた。

ロイヤル オーク トゥールビヨン エクストラ シン

「ロイヤル オーク トゥールビヨン エクストラ シン」。Ref.26522CE.OO.1225CE.01。手巻き(Cal.2924)。25石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。セラミックケース(直径41mm、厚さ9mm)。50m防水。

魅惑的な機械仕掛けの ロイヤル オーク トゥールビヨン クロノグラフ オープンワーク

「ロイヤル オーク トゥールビヨン クロノグラフ オープンワーク(Ref.26343CE.OO.1247CE.01)」は、大胆かつ精緻なサテン仕上げのオープンワークを施した、メカニカルな魅力に満ちたコンプリケーションだ。

ダイアルと呼べる構造は極限まで削ぎ落とされており、ミニッツサークルはインナーベゼルに配する徹底ぶりである。

ダイアル側にトゥールビヨンと主ゼンマイの連動するさまがあらわになり、トランスパレントバックからはCal.2936のあらゆる構造が一望できる。複雑機構の愛好者ならずとも興奮を禁じ得ないに違いない。

ロイヤル オーク トゥールビヨン クロノグラフ オープンワーク

「ロイヤル オーク トゥールビヨン クロノグラフ オープンワーク」Ref.26343CE.OO.1247CE.01。自動巻き(Cal.2936)。28石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。セラミックケース(直径44mm、厚さ13.2mm)。20m防水。

オーデマ ピゲ屈指の傑作 CODE11.59 バイ オーデマ ピゲ

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ

「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」。Ref.15210OR.OO.A099CR.01。自動巻き(Cal.4302)。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。18Kピンクゴールドケース(直径41mm、厚さ10.7mm)。30m防水。280万円(税別)。

2019年に誕生した「CODE11.59 バイ オーデマ ピゲ」コレクションのRef.15210OR.OO.A099CR.01は、新機軸のデザインコードとクラシックなエレガンスを融合させたモデルだ。

8角形のミドルケースをラウンドケースとブリッジ状のラグで挟む独特の立体3層構造で、12時方向から6時方向へ内側に湾曲したサファイアクリスタル風防と相まって、視点によって複雑に変わる表情が楽しめる。

ミニマルな表示要素は現代的な洗練さを感じさせるが、ホワイトラッカーダイアルと18Kピンクゴールド、大きな竹斑入りブラウンアリゲーターストラップの組み合わせは伝統的な高級ドレスウォッチの風格をたたえる。

これをベースとしてフライングトゥールビヨンを搭載したRef.26396BC.OO.D321CR.01は、ブルーのグラン・フー・エナメルダイアルが美しい18Kホワイトゴールド仕様だ。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ

「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」。Ref.26396BC.OO.D321CR.01。自動巻き(Cal.2950)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約65時間。18Kホワイトゴールドケース(直径41mm、厚さ11.8mm)。30m防水。


機構を知って時計の理解を深める

オーデマ ピゲは上品なケースに高度な複雑機構を収めるノウハウが卓越しており、その腕時計は機構の洗練から仕上げまで一切の隙がない。

ロイヤル オークのデザイン性に目が向きがちだが、トゥールビヨンをはじめとする機構を知り、オーデマ ピゲの時計製造技術がいかに優れているかを再考しよう。

Contact info: オーデマ ピゲ ジャパン TEL: 03-6830-0000

川部憲 Text by Ken Kawabe


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