ウルベルクの共同創設者。左のマーティン・フレイはアートディレクター。右のフェリックス・バウムガルトナーはマスターウォッチメーカー。
竹浦康郎:写真
Photographs by Yasuo Takeura
古川直昌(本誌):取材・文
Text by Naomasa Furukawa (Chronos-Japan)
Photographs by Yasuo Takeura
古川直昌(本誌):取材・文
Text by Naomasa Furukawa (Chronos-Japan)
サテライトで独自の世界を築く
マスターウォッチメーカーのフェリックス・バウムガルトナーと、アートディレクターのマーティン・フレイのコンビからなるウルベルク。彼らの作るタイムピースを手に取ると、まずは複雑な曲面を持つエッジィなケース、12時位置に配置された巨大なリュウズなど、奇想を極めた外装に目を奪われる。そこから視線を文字盤に転じると、見慣れない時刻表示が飛び込んでくる。各々3つのインデックスを刻んだダイスのような4つの「アワーサテライト」が、分目盛りに沿って交互に時刻を刻んでいく独自の「アワーサテライトディスプレイ」は、ウルベルクを象徴する刻時システムだ。2005年にハリー・ウィンストンと共同開発した「オーパス5」で世界的な知名度を得たことも、愛好家ならば周知の事実である。
彼らの奇想は独自開発の機構面にも及ぶ。その例が「タービン制御による巻き上げ効率セレクター」「過去2時間の巻き上げ効率を表示するインジケーター」「稼働時間を積算してオーバーホールの最適な時期を表示するオイルチェンジ」「オーナー自身が緩急針を通じてヒゲゼンマイの有効長を調整できる緩急調整機構」「機械式ムーブメントに光学センサーを内蔵して歩度を測定するEMC」などである。
しかし、エキセントリックの裏側に正統を隠し持っているのが、ウルベルクの知られざる本質である。ケースの加工精度は極めつきに高く、パーツの表面加工や装飾も高級時計に相応しいクォリティを備えているのだから。異端と正統のはざまを自由に行き交うことで生まれるウルベルクの作品の数々を、これから見ていくことにしよう。
(左)マーティン・フレイが描いたUR-105 Mのデザイン画。通称「アイアン ナイト」と呼ばれるこのモデルのコンセプトは中世の騎士。SS製のベゼルとTi製のミドルケースは当時に見られた鎧に着想を得てデザインされた。(右上)UR-105 Mのケースバックから見えるムーブメントにはオイルチェンジ、パワーリザーブインジケーター、調速ビスからなる「コントロールボード」が置かれている。側面に見えるのは秒表示とパワーリザーブインジケーター。(右下)ウルベルクはジュネーブの他にチューリヒにもアトリエを持つ。チューリヒでは開発と設計、そして機械加工が行われる。組み立てはジュネーブの時計師たちが手掛ける。