細部の精度が構築する外観美
ジルコニア・セラミックスでブライトチタンのミドルケースを覆う。アイデアだけ聞けば、実現は容易に思える。
しかし、GSの耐久性を盛り込むとなれば、いきなり条件は厳しくなる。
割れやすいセラミックスに、いかに耐久性を持たせるか。
必要だったのは、今までにないケース構造と、より高い加工精度であった。
ブライトチタンにジルコニア・セラミックスの外殻を被せたハイブリッド構造。セイコーはフルセラミックスも検討したが、裏蓋をねじ込み式にできないこと、経年劣化を否定できないことから、ブライトチタンとセラミックスの混合に決めた。「例えばストラップを固定するバネ棒。常にテンションがかかると、クラックが入る可能性がある」(江頭氏)。あり得ないように思えるが、実際、フルセラミックケースの穴の周囲に亀裂が入った例は少なくない。
類を見ないハイブリッド構造のケース。開発に際して、セイコーは細かい配慮を加えた。まずは外殻とミドルケースのクリアランスを最小限に抑えたこと。「セラミックスは脆性材ですが、わずかにたわむのです。ですから、ミドルケースに密着させることで、ショックで割れる可能性を軽減しているのです」。セラミックスとチタンの間を可能な限り詰めた理由だ。そして、クリアランスを詰めた分、高級感が生まれる。外殻を固定するネジの位置にも工夫がある。4つのネジは、ケースの中心に向けてねじ込まれた。理由は、セラミックスに最も負荷をかけない角度のため。
ミドルケースに軽いチタンを採用したことも、配慮のひとつだ。時計が軽くなると、落下時の衝撃は大きく減る。結果、ハイブリッド構造を持つこのケースは、通常GSで実施する落下テストをクリアしている。また、セラミックパーツを分割しているため、仮に外殻が破損してもケースを全交換する必要がない。
しかし、加工は困難だった、とセイコーエプソンの担当者は語る。例えばインナーケース。ラグとケース部分のつなぎ目は非常に細いバイトで切削している。これは量産品の加工用としてはあり得ない細さだが、セラミックスとのクリアランスを正確に保つには、この細さが必要だったという。またラグの内側も、加工が難しい箇所であった。
「セラミックスとチタンの面が揃っていないと段差が残ります。そのため、ストラップの取り付け部がすぐに傷みます。揃えるには組み上げた後、ヤスリがけをすればいいのですが、痕が残るためにストラップを傷めるし、磨くと割れやすくなる」(久保氏)。結局、セイコーエプソンは、ヤスリがけで整面せずとも面が揃うように、サンプルを6回作り直した。
ケーシングも今までのGSよりもはるかに手間がかかる。ムーブメントに文字盤を据え、時針とクロノグラフ秒針以外の針を取り付けてケーシング。文字盤側にひっくり返した後、文字盤リングを被せ、ここで分針とクロノグラフ秒針を取り付け、ベゼルを固定する。大変な手間だが、結果、直径38㎜という大きな文字盤と、インデックスに届く長い針の採用に成功した。
ハイブリッドケースというセイコーならではの試み。可能にしたのは、GSのリバイバル以降に培われてきた、セイコーエプソンの外装加工技術だったのである。