2017年 日本の高級時計市場の行方

河村恭臣（LVMHウオッチ・ジュエリージャパン 取締役 タグ・ホイヤー ディヴィジョン ジェネラルマネージャー）
1960年愛媛県四国中央市（旧 伊予三島市）出身。明治大学工学部（現  理工学部）卒業後、ブリストル・マイヤーズ入社。営業、販売、企画全般を担当。1998年にタグ・ホイヤージャパン入社後は販売企画や営業の各部門に携わる。セールスディレクターを経て、2015年２月より現職。

　2017年の展望をと話を向けたところ、河村恭臣氏から開口一番「ブランドの認知度を上げることが最優先です」という意外な回答が戻ってきた。国内外の著名なアスリートを中心に数多くのブランド・アンバサダーを積極的に登用、サッカーの公式計時を担当するなど、同じ業界にいるとタグ・ホイヤーは間違いなく認知度抜群のメガブランドに思えるのだが……。

「昔から広告費用は使っているのに、何故かタグ・ホイヤーの認知度は上がらないというのは事実です」

　河村氏はこうも語る。「時計市場はマーケティングがリードしていく時代に突入しましたが、時計ブランドの伝統的なマーケティングを踏襲するつもりはありません」。

　河村氏がブレイクスルーの起爆剤になると考えているのが「Jリーグとの提携」だ。

　現在、あるアンケートで若い男性の「将来就きたい職業」のナンバーワンはサッカー選手である。地域密着で若年層を草の根から掘り起こすJリーグの理念は、全国の販売代理店と緊密なリレーションで分かち難く結びついたセールスを展開するタグ・ホイヤーの企業理念と通じる。また、ブンデスリーガ（ドイツ）やプレミアリーグ（英国）といった各国の主要リーグをスポンサードする本国のマーケティングとも軸を一にする。

「時計のマーケットで育った人間ではない」河村氏は、市場を仔細に分析する冷静さを強く備えている。販売戦略は「日用品と同じ」３〜６か月先の短期的なプランニングを常に組み、主要30店舗とのバーゼル新作発表後の販売戦略は、すでに２月の段階で仕掛けが決まっているという。

　昨年の販売戦略上の失敗談も詳らかにしてくれるなど、河村氏は常に胸襟を開いて聞き手に対峙する人物だ。現在の CEOであるジャン−クロード・ビバー氏着任後のセルアウトが約３万本強という好調さを維持するセールスも彼の揺るぎない理念の後ろ盾になっていることも事実だ。分けても、合理的な生産ラインでトゥールビヨンを平均価格167万5000円まで押し下げた「ホイヤー02T」は大好評を博しており、約200本を受注した。「しかし、いまだ入荷は50%にも満たない」と苦笑いするが、「最初に買うスイスの高級時計」としてブランドをさらに認知させたいと考える河村氏の方向性と、この時計はとてもよく合致しているだろう。

「2016年は金額ベースで前年比６%の伸びを示しました。６-７%の伸び率は最低ラインです。今年もまた、前年を割るようなプランは念頭にありません」

　今年からミレニアル世代をターゲットにしたマーケティングも積極的に展開していくという。

　セールスにはコンサルティング能力を、マーケティングにはロジカルな証明能力を求める河村恭臣氏率いる我が国のタグ・ホイヤーチーム。2020年の東京オリンピックに向けて「それまではスポーツとのつながりをメインに据えて邁進していきますよ」と語る彼の視界（日本市場はラッキーとさえ彼は明言する）は明瞭そのもののようだ。