つぎはフォーラムについて少し紹介しよう。前回の記事でも少し言及したが、ゲストスピーカー3〜4名と司会進行役のモデレーターという構成で、多くの意義深いテーマに沿って議論を重ねていくという内容だ。筆者が聞いたのは「リテイラーの挑戦」「デジタルキュレーター」「デザインとクリエイティビティ」「自身のブランド創設について」「時計の価値はどう作られる?」などだ。個人的には、アジェノーのジャン-マルク・ヴィダレッシュとデザイナーのエリック・ジルー、ロマン・ジェロームのマニュエル・エムシュが絡み、エンジニアであるヴィダレッシュがデザインとムーブメント設計における関連性を説いた「デザインとクリエイティビティ」と、苦労人であるマキシミリアン・ブッサーがMB&F設立の経緯を雄弁に語り、その傍らにフィリップ・デュフォーとショパールのカール・フリードリッヒ・ショイフレ(彼もまたフェルディナント・ベルトゥーを〝設立〟したばかりの立場であることを思い出してほしい)が相対するという夢のような人選の「自身のブランド創設について」を興味深く聞いた。各ディスカッションは連日満席で、聴衆もジャーナリストやブランドのディレクターなど関係者が中心なので真剣そのものだったことを特記しておきたい。ノンプロフィットではないものの、シンガポールの大リテイラーであるアワーグラスが主催した伝説のイベント「テンパス」を仕掛けたマイケル・テイ氏が腕組みをしながら討論に聞き入っていたのが印象的だった。パネルディスカッションやこの後に紹介するマスタークラスのアイデアは、先にマイケル・テイ氏が草案したものを、ドバイの関係者たちが換骨奪胎して再構成したものだというのは周知の事実である。「時計業界人が集い、情報をシェアする場を提供したいと考えたのが、2004年に初めて開催されたテンパスの主たる目的でした。ドバイ ウォッチ ウィークは私たちの考えを継承してくれているのでとても嬉しいですね。これからも応援していきたい」と筆者に語ってくれた。もちろん、彼もまたゲストスピーカーのひとりに名を連ねていた。