マジックゴールドは、ウブロとEPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)との共同開発だが、現場で開発にあたったのは、現在、ウブロに所属する素材科学エンジニアのセナード・アサノヴィッチ氏だ。彼は、EPFLでマジックゴールドを開発していたが、マジックゴールドがウブロに移管される際に一緒に同社に移籍し、現在はマジックゴールドの製造と管理を担当する。
「セラミックスの骨格にゴールドを流し込む手法は、ほかのメタルでもできます。その技術はウブロが特許を取っていて、ゴールドのほかにプラチナ、シルバーでも可能で、現在、アルミニウムを開発中です」
こう言って、アサノヴィッチ氏は、薄いグレーの円筒形の素材を見せてくれた。「これがセラミックスとアルミニウムの合金です。マジックゴールドより硬く、はるかに軽量です」。開発中のため、ヴィッカース硬さはまだ検証中だが、ゴールドと異なり、重量パーセント(18カラットの場合で75%)の制約がないため、もっとアルミニウムの比率を高めることができるという。
さらに、アサノヴィッチ氏は、セラミックスでは発色が難しいとされる赤のセラミックスも披露してくれた。
「これはマジックゴールドと同時期に開発していたものです。そもそも赤い色素は不安定で、温度に弱い。通常のセラミックスは1400~1500℃で焼結しますが、この温度では赤の色素が変色して、赤く発色しないのです。ポイントは、焼結の温度を下げたことです」
これほど多様なセラミックスが必要とされる時計業界。実用性だけでは計り知れないところに需要のある点が、時計業界の特異性であり、面白さと言えるだろう。
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