【着用レビュー】オリエントスター最新作「M34 F8 スケルトン ハンドワインディング リミテッド」は、名実ともに“輝ける星”を体現!

2024.09.28

オリエントスター「M34 F8 スケルトン ハンドワインディング リミテッド」を実機レビューする。本作は、手巻きムーブメントを搭載したスケルトンウォッチだ。これまで数々のスケルトンウォッチを作り続けてきたオリエントの、技術とデザインセンスがさえわたる1本に仕上がっている。

オリエントスター「M34 F8 スケルトン ハンドワインディング リミテッド」

野島翼:文・写真
Text & Photographs by Tsubasa Nojima
[2024年9月28日公開記事]


オリエントスター「M34 F8 スケルトン ハンドワインディング リミテッド」

 今回は、オリエントスター「M34 F8 スケルトン ハンドワインディング リミテッド」の実機レビューを行う。本作は2024年10月発売の新作であり、国内で200本のみ販売される、数量限定モデルだ。手巻きムーブメントを搭載し、機械式時計ならではの構造を楽しむことができるスケルトン構造を特徴とする。

 オリエントのスケルトンウォッチの先駆けは、1991年に登場した「モンビジュ」にあたる。クラシカルなデザインのケースにスケルトン仕様のムーブメントを収めたモンビジュは、高額になりがちなスケルトンウォッチの魅力を、より手頃に、より多くの人に知ってもらうために生まれたモデルだ。今回レビューを行うM34 F8 スケルトン ハンドワインディング リミテッドも、オリエントスターらしい安定したスペックと、40万円弱というフレンドリーなプライスを踏襲している。

 ともすればイロモノ扱いされがちなスケルトンウォッチ。30年以上もそこに向き合ってきた同社は、本作をどのように仕立てたのだろうか。

オリエントスター M34 F8 スケルトン

オリエントスター「M34 F8 スケルトン ハンドワインディング リミテッド」Ref.RK-AZ0103L
オリエントスターのスケルトンモデルの最新作。“深宇宙に輝く恒星の光”をデザインテーマとした、細部にわたる丁寧な作りこみが魅力だ。自動巻き(Cal.F8B61)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径39mm、厚さ10.8mm)。5気圧防水。国内限定200本。39万6000円(税込み)。


立体的な構造のスケルトンダイアル

 まずは、最大の特徴と言って差し支えないだろうスケルトンダイアルに注目していきたい。スケルトンウォッチは一般的に、ダイアルの中央部、ムーブメントの地板とブリッジをくり抜き、その内部を詳らかにしたものである。これはあくまでも筆者の考えに過ぎないが、インパクトのあるデザインゆえに、細部にまで手を掛けているかどうかが、そのまま飽きずに使い続けられるかに関わってくるのではないだろうか。言ってしまえば、初見のインパクトに頼ると出オチ感が否めない。飽きるとは、同じ刺激を受け続けることで生じる慣れへの反応である。もちろん理屈抜きで考えれば、デザインよりもユーザーの強い思い入れや趣味嗜好が優先されるのが常だ。しかし、見る度に新しい発見をもたらしてくれるような造形である方が、長く付き合いやすいだろう。

 その点本作は、スケルトンウォッチ特有のダイナミックなデザインに加え、それだけに終始しない魅力あふれるディティールがちりばめられている。そのひとつが、立体的な構造だ。ダイアルの外周から、ミニッツマーカーがプリントされたフランジとブルーのリングが配され、その上にインデックスが並ぶ。中央には無数のペルラージュ装飾が施された地板が輝き、パワーリザーブインジケーターやスモールセコンド、ブランドロゴを配したグレーのプレートが、ネジによって固定されている。

 細部に目を移す。地板にはダイヤモンドカットによる深い面取りが施され、スケルトンの輪郭をはっきりと際立たせている。9時位置には振動するテンプ、6時位置にはスモールセコンド、そしてその背後の青いシリコン製ガンギ車が配され、機械式ムーブメントの動きを視覚的に楽しむことが可能だ。また、本作は“深宇宙に輝く恒星の光”をデザインテーマとしており、テンプを支える地板の形状には彗星が持つふたつの尾、渦のような形状のガンギ車には天の川銀河系になぞらえたデザインが与えられている。

オリエントスター「M34 F8 スケルトン ハンドワインディング リミテッド」

9時位置のテンプを支える地板の形状には彗星が持つふたつの尾、ガンギ車には天の川銀河系の渦をイメージしたデザインが与えられている。このシリコン製ガンギ車の製造には、エプソンが培ってきた半導体技術が生かされている。

 ムーブメントは、ケースバックからも鑑賞することが可能だ。ダイアル側の仕上げとは一転して、ブリッジにはストライプ装飾が施され、曲線を多用した滑らかな面取りを楽しむことができる。ただし、輪列のほとんどはブリッジに覆われているため、内部機構を隅々まで見ることはかなわない。

 目盛りやロゴが配されたプレートは、グレーカラーのめっきを施すことで漆黒の宇宙空間を表現する。ホワイトの印字部に設けられた溝は、光の反射を抑え視認性を高めるための工夫だ。プレート自体はシャープに切り抜かれ、地板に固定するためのネジにも組立時の傷のようなものは認められなかった。キズミでのぞいても興ざめするような要素はない。


個性を潰さずに使い勝手を向上させる針とインデックス

 真っすぐに伸びるペンシル型の時分針は、両サイドを斜めにカットしポリッシュをかけた上で、天面にサテン仕上げを与え、スモールセコンドの秒針は、左右でポリッシュとサテンに磨き分けている。これらは、視認性の向上を狙ったものだろう。実際、地板のペルラージュ装飾がよく光を反射させるため、本作のダイアルは手放しに見やすいとは言えない。しかし、針に施された一工夫によって、実用にも耐えうるスペックを確保することができているのだ。対して、パワーリザーブインジケーターの針は、地板の輝きに埋没してしまいがちだ。しかし、主ゼンマイの残量を頻繁に確認する必要はないだろうし、実用上の支障はないだろう。

 インデックスは12時位置のみローマンタイプ、その他は台形型を採用。台形型インデックスの天面には光の反射を抑える溝が施され、サイドの4面は斜めのカットによってポリッシュが目立つよう工夫されている。時分針と類似したアプローチによって、高い立体感と視認性がもたらされているのだ。インデックスの下に位置するブルーのリングには粒状感のある仕上げが与えられ、ポリッシュとの対比によってインデックスを際立たせている。

オリエントスター「M34 F8 スケルトン ハンドワインディング リミテッド」

立体的な構造のダイアル。スケルトンウォッチは一般的に視認性に劣るが、針やインデックスに複数の仕上げを組み合わせることで、一定の見やすさを確保している。

 デザインに何かしらのモチーフを持つ時計は少なくないが、時計のデザインからダイレクトにモチーフが連想されるものは多くない。本作のデザインテーマが“深宇宙に輝く恒星の光”であることを知らずとも、ブラックのベゼルからフランジ、インデックスを取り囲むブルーのリングへとつながる奥行きにどこまでも続く暗闇を、ムーブメントの地板に施されたペルラージュ装飾に星の瞬きを見出すことは難しくない。見立ての秀逸さこそ、本作の最大の魅力だろう。


ギリシャ神話の英雄ペルセウスになぞらえた外装デザイン

 本作は、オリエントスターの「Mコレクションズ」の「M34」に属する。M34は、フランスの天文学者であるシャルル・メシエが作成した天体カタログ、メシエカタログにおけるペルセウス座の散開星団を指すものであり、オリエントスターのM34には、ギリシャ神話の英雄ペルセウスの力強さに着想を得たデザインが与えられている。そのことをよく表すのが、直線を基調としたシャープなラグだろう。エッジを利かせた造形にサテンとポリッシュの磨き分けを取り入れることで、モダンな印象に仕上げている。

 また、本作は手巻きムーブメントを搭載しているため、裏蓋が薄いことも特徴だ。見た目のすっきり感はもちろんのこと、重心が低くなるため優れた装着感が望める。

オリエントスター「M34 F8 スケルトン ハンドワインディング リミテッド」

ギリシャ神話の英雄ペルセウスに着想を得たシャープなケースライン。両球面サファイアクリスタルが密やかに高級感を高める。

 ステンレススティール製のブレスレットは、H型のリンクを組み合わせて構成されている。サテン仕上げをベースに一部ポリッシュを加えることでケースとの調和を見せ、角を落とすことで滑らかな肌触りを実現する。バックルは、プッシュボタンによって開閉する三つ折れ式。微調整はワンタッチとはいかず、サイドにある3つの穴とバネ棒によって行う。なお、本作にはグレーの本ワニ革ストラップが付属し、バネ棒外しがあれば付け替えて楽しむことができる。

オリエントスター「M34 F8 スケルトン ハンドワインディング リミテッド」

サテン仕上げを基調として、一部にポリッシュを取り入れたブレスレット。バックルはプッシュボタンによって開閉するタイプ。


手巻きムーブメントの醍醐味を味わう

 手巻きムーブメントを搭載しているため、本作には自分の手によって主ゼンマイを巻き上げるという楽しみがある。リュウズをつまみ12時側に回すと、チチチチという控えめな感触とともに巻上げを行うことが可能だ。カリカリとした手応えはないものの、同系統の自動巻きムーブメントのジージーという感触に比べると、はるかに心地よい。

 ダイアルを見ながら巻き上げると、指の動きに合わせてパワーリザーブインジケーターがどんどん溜まっていく様子を見ることができる。しばしば機械式時計を生き物に見立て、手巻きという行為を餌付けに例えることがあるが、本作ではお腹がいっぱいになっていく様子を視覚的に楽しむことができるのだ。満腹になると、指先に抵抗を伝えてその意思を示す。すなわち、ちゃんと巻き止まりが設けてある。

 巻上げは、ケースバックから見ても楽しめる。ブリッジの上に香箱へつながる巻上げ用の輪列とコハゼが配されており、リュウズの回転に合わせてそれぞれの歯車が回る様子を鑑賞することが可能だ。

 リュウズを一段引くと時刻調整ができる。リュウズの径自体は大きいものの、ケースとの隙間がほとんどなくぴったりと取り付けられているため、引き出す際にはわずかな隙間に爪を差し込む必要があり、少しだけ苦労する。時刻調整の感触は少し軽めだ。気になるほどのふらつきはなく、不自由なく時刻を合わせることができる。

オリエントスター「M34 F8 スケルトン ハンドワインディング リミテッド」

ケースバックからもムーブメントを鑑賞することが可能。ストライプ装飾と曲線を多用した面取りが施されている。


トータルバランスに優れた着用感

 手首に載せると、想像以上に優れた装着感を味わうことができる。ケースが薄く重心が低いことを考えれば悪くなりようはないが、少し厚みを持たせたブレスレットと短めのラグによって、手首への収まりが非常に良いのだ。ちなみにケースの直径39mmに対し、縦の長さは46.5mmである。下方に向かって伸びるラグが手首のカーブに沿うことで、軽く腕を振っても激しく動くようなことはない。

 装着感以上に魅力的なのは、思わずじっと眺めてしまうようなスケルトンダイアルだ。手に持って眺めるのと着用して眺めるのでは、また違った印象である。立体的な構造や煌めくペルラージュ、その下にのぞくテンプやガンギ車の動きが、ユーザーの意識を彼方の宇宙へと連れて行ってくれる。自然光や人工照明の下など、光源によって表情をコロコロと変えるのも楽しい。手首から外してケースバックを見れば、ダイアル側とはひと味違ったストライプ装飾を目にすることもできる。

 ただし、この幻想的なダイアルは、多少の視認性の犠牲の上に成り立っていることを理解しなければならない。針がペルラージュの輝きに埋もれてしまいがちなのだ。とはいえ先述の通り、針にはサテンとポリッシュの仕上げ分けが施されているため、見にくいと感じたときには少し腕を傾けて光の当たり具合を調整すれば、難なく時刻を読み取ることができる。一般的な時計に比べて劣る場合があるというだけで、スケルトンウォッチとして考えれば優秀だ。

オリエントスター「M34 F8 スケルトン ハンドワインディング リミテッド」

ケースやブレスレットを含めたトータルで、優れた装着感を実現。手首回り16.5cmの筆者にはぴったりな収まり具合だ。


輝ける星

 “輝ける星”となることを目標として、1951年に誕生したオリエントスター。以降、オリエントスターはオリエントの主力ブランドとして進化を重ね、その過程でさまざまなモデルを生み出してきた。パワーリザーブインジケーターやワールドタイム、GMTなどの付加機能を備えたモデルから、スポーツカーやギター、ターンテーブル、カメラ、ロードバイクなどのモチーフを取り入れたユニークなデザインのモデルまで、これほどまでに豊かなラインナップを展開してきたブランドは珍しい。

 このことは、我々にとっての“星”が、ただひとつだけではないということを教えてくれた。つまり、筆者の思う星とあなたの思う星は異なる場合があり、それ自体はごく自然なことであるという意味だ。昨今では多様性という言葉がしきりに用いられるが、オリエントスターは早期からそのことを見抜き、時計が人々の星となるにあたってのさまざまな可能性を形にし、世に問うてきた。スケルトンウォッチである本作も例外ではない。決して万人受けするものではないが、だからこそ緻密にデザインテーマが反映された、血の通った作品に仕上がっているのである。



Contact info:オリエントお客様相談室 Tel.042-847-3380


オリエントスター「M34 F7 セミスケルトン」を着用レビュー。手の込んだオリジナルダイアルが所有欲をくすぐる

FEATURES

オリエントスター「M34 F8 デイト」宇宙の青を求めて

FEATURES

オリエントスター「Mコレクションズ」とは?「M34」「M45」「M42」の特徴とおすすめモデルを解説

FEATURES