パワーリザーブ表示機構原理や有用性、メリットとデメリットを解き明かす

2019.12.12

見えないパワーリザーブへの挑戦

叡智Ⅱ

叡智Ⅱ
「叡智」よりもひと回り大きくなり、さらに、パワーリザーブ表示を裏蓋側に配置することによって、磁器文字盤のシンプルな美しさをより強調した「叡智Ⅱ」。トルクリターンシステム搭載。スプリングドライブ搭載手巻きムーブメント(Cal.7R14)。41石。パワーリザーブ約60時間。Pt(直径39mm、厚さ10.3mm)。日常生活防水。550万円。
Cal.7R14

Cal.7R14
直径32mm、厚さ3.5mm。2枚構成にした大きな受けの一方に、パワーリザーブ表示を配置している。受けの輪郭に加え、ルビーやねじ穴回りの面取りは、職人の手作業によって行われ、どの角度からも美しく輝くように、曲面状に鏡面仕上げが施されている。また、筋目仕上げにより、鏡面部とテンパーブルーのねじの美しさを一層際立たせている。

CREDOR

クレドール40周年、スプリングドライブ15周年を記念して誕生した「叡智Ⅱ」。クレドールが目指す日本人の高い美意識を、白と青の世界観で優美に表現している。一方で、ムーブメントには、主ゼンマイのトルクを長時間持続させるための「トルクリターンシステム」を搭載。手巻きながらも、トータルで約60時間の持続時間を実現。この革新技術を年間わずか20本しか生産できない究極のドレスウォッチに投入する心意気。手巻き時計を永く愛用するための粋な裏技は、意外にもトルク延長に隠されていた。

トルクリターンシステム

トルクリターンシステム
香箱車の回転をトルク返還車、TR第1伝え車、TR第2伝え車により自ら角穴車を巻き上げる。オン時は香箱車が1回転すると角穴車を0.2回巻き上げる。ゼンマイが1回転分解けると、香箱車は1.25回転し、25%(12時間)持続時間を延長できる。オフ時にはTR切離しレバーがトルク返還車側に入り込み、クラッチを切って自己巻き上げは行われない。

 クレレドール「叡智Ⅱ」は、セイコー独自のスプリングドライブ発売15周年を記念して、2008年に発売された「叡智」をより美しく進化させたモデルである。「世代を超えて愛用できるシンプルな腕時計」をコンセプトに、先進技術と匠の技、日本人の感性に訴える繊細な美しさの融合を目指して作られた。手掛けたのはセイコーエプソンのマイクロアーティスト工房だ。シンプルな3針のフェイスに目を移すと純白の磁器製文字盤に目を奪われる。信州に降り積もる雪をイメージしたというこの文字盤は、卓越した職人がひとつひとつアワーマークとロゴを手作業で描いているため、1日に1枚しか生産できないという貴重なものだ。

 一方の裏蓋側を見ると、最初の叡智では文字盤に配されていたパワーリザーブ表示をサファイアクリスタル越しに見ることができる。ここに、このモデル最大のハイライトが隠されている。表側からは決して分からない「トルクリターンシステム」を搭載しているのだ。端的に言うと主ゼンマイの持続時間を延長するシステムである。主ゼンマイのフル巻き状態から約35時間の内の、精度と運針に影響しない全体の約30%のゼンマイトルクを持続時間の延長のために活用し、自らゼンマイを巻き上げる仕組みである。この独創的な機構によって持続時間を延ばすことで、手巻きながらも60時間超えを実現したのだ。表からは、パワーリザーブ表示すら見えない、あくまでもシンプルな叡智Ⅱ。だが、その裏側では、パワーリザーブを〝リサイクル〟するという破天荒なアイデアを実現している。

 結果、叡智Ⅱのパワーリザーブインジケーターは、トルク延長された分だけ、通常よりもゆっくりと進むのだ。

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