最もF.P.ジュルヌ「らしい」、高精度な手巻きの「Cal.1304」【傑作ムーブメント列伝】

2024.11.29

時計ハカセこと『クロノス日本版』編集長の広田雅将が、傑作ムーブメントについて記したコラムを6回分、webChronosに掲載する。第2回は、時計愛好家垂涎! F.P.ジュルヌのCal.1304を取り上げる。

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Text by Masayuki Hirota(Chronos Japan)
[ムーブメントブック2023 掲載記事]


F.P.ジュルヌならではの合目的性が光る「Cal.1304」

Cal.1304

Cal.1304
シンプルな構成に、高い精度を盛り込んだムーブメント。ツインバレルにより、テンプの振り角は常に高く維持される。シンメトリーな造形も、本作の大きな個性だ。地板と受けは珍しいゴールド製だ。直径30.40mm、厚さ3.75mm。22石。パワーリザーブ約56時間。パワーリザーブ表示。フリースプラング。

 1999年の創業以来、さまざまなムーブメントをリリースしてきたF.P.ジュルヌ。どれも傑作ぞろいだが、最も「らしい」ムーブメントを挙げるならば、「クロノメーター・スヴラン」と「クロノメーター・ブルー」が搭載するCal.1304になるだろう。

 設計者としてみると、フランソワ-ポール・ジュルヌほど多彩な才能を持つ人物はいない。レマニアの自動巻きクロノグラフをフライバックに改め、モジュール用にラージデイトを設計し、トゥールビヨンにルモントワールを載せ、実用的な天文時計を作る。その一方で、彼は簡潔なムーブメントにも妙味を見せてきた。自動巻きのCal.1300系然り、手巻きのCal.1304然りだ。

 その名称が示す通り、クロノメーター・スヴランは、高精度を狙ったモデルである。設計のモチーフとなったのは、往年のマリンクロノメーター。しかし、ジュルヌは搭載するCal.1304の設計をできるだけシンプルにまとめた。

 まず目を引くのは、シンメトリーに配されたふたつの香箱である。加えて、輪列を文字盤側に配置することで、テンプと脱進機が裏蓋側から見た際に強調されている。その見た目は往年のブレゲ製懐中時計を思わせるが、ジュルヌがデザインだけでツインバレルを採用するはずがない。彼はクロノメーター・スヴランの携帯性能を高めるため、あえて香箱を増やしたのである。

F.P.ジュルヌ「クロノメーター・スヴラン」

Cal.1304を搭載するのがクロノメーター・スヴランだ。往年のマリンクロノメーターよろしく、パワーリザーブ表示が備わる。理由は、駆動時間(巻き上げ残量)を知るためではなく、主ゼンマイのトルクを適切に管理するため。高精度機ならではの配慮だ。

 F.P.ジュルヌで際立つのが、テンプの振り角を抑え、しかしその振り角を長く維持するという設計思想である。今でこそ各社も追随するようになったこの思想を、ジュルヌは創業から一貫して追及してきた。その象徴が、振り角がほぼ落ちないルモントワール付きのトゥールビヨンである。

 対していっそう精度を追求したCal.1304では、少し「味付け」が変えられた。ツインバレルを採用したなら、普通はパワーリザーブを延ばそうとする。長時間の等時性を重視してきたジュルヌならなおさらだろう。対してCal.1304では振り角が高められた。全巻きの振り角は水平姿勢で約320°、そして24時間後は約280°。F.P.ジュルヌとしては例外的に高いテンプの振り角は、携帯精度を求めた結果だ。

 もっとも、性能を抜きにしても、Cal.1304は傑作と言える内容を備えている。今やシンメトリーなデザインを追求した腕時計用ムーブメントは少なくないが、Cal.1304はその祖なのである。しかも、地板と受けをゴールドで成形することにより、そのユニークさが一層強調されている。

 ジュルヌの設計思想を考えれば、あえて振り角を高めたCal.1304は多少毛色が異なる。しかし目的にかなった設計を好むジュルヌの性格を考えれば、これほど「らしい」ムーブメントはないだろう。歴史に残る傑作のひとつだ。


ニッチメーカーからの脱却を手助けした 薄型自動巻き F.P.ジュルヌ「Cal.1300系」

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“良い時計の見分け方”をムーブメントから解説。良質時計鑑定術<最上級、上級、実用時計の仕上げを比較する>

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