GPHG(ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ)2023でチャレンジウォッチ賞を受賞した「ミレジム」の最新作、「ミレジム 35 センターセコンド」を着用レビュー。なお、この腕時計はブランドから借りたわけではなく、『クロノス日本版』編集部の鶴岡智恵子の所有物。購入してから1カ月経った今、改めてこの話題のモデルについて振り返りたい。
Photographs & Text by Chieko Tsuruoka(Chronos-Japan)
[2024年11月16日公開記事]
レイモンド ウェイルの2024年新作モデルを購入!
レイモンド ウェイルは、決して「誰もが知るブランド」ではない。しかし2023年、同社が手掛ける「ミレジム」がGPHG(ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ)でチャレンジ賞のグランプリを獲得したことから、時計業界にその名が広まった。この人気を受けて、翌2024年、レイモンド ウェイルはコレクションを拡充。ムーンフェイズ搭載モデルをはじめ、バリエーションが豊かになり、ユーザーはより自由に自分好みの1本を選べるようになったのだ。
私も「自分好みの1本を選べるようになった」時計愛好家のひとりだ。ミレジムの“ネオヴィンテージ”というコンセプトにのっとった、オールドウォッチを思わせる意匠にはとても引かれていたのだが、従来からあった径39.5mmケースは手首回り14.7cmの私にとっては少し大きく、購入の候補とするまでには至らなかった。しかし今年追加された新作モデルの中に、35mm径ケースを備えた「ミレジム 35 センターセコンド」があったのだ。
自動巻き(Cal.RW4200)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SSケース(直径35mm、厚さ9.18mm)。50m防水。30万8000円(税込み)。
日本への入荷前に実機を見る機会があり、着用してみて、購入を即決したのはこのシルバー文字盤とブレスレットを備えたモデル。入手から1カ月が経過した今、本作をレビューする。
“ネオ・ヴィンテージウォッチ”というコンセプトがハマる1本
「流行は繰り返す」などと言われるように、時計業界でも、ひと昔前のデザインが注目されている。かつて自社で製造していたモデルを現代技術で「復刻」する時計ブランドが多く見られるようになり、こういった往年のスタイルを持った腕時計は、人気のジャンルとして確立されている。
ミレジムはフランス語で「ヴィンテージ」を意味しており、やはりオールドウォッチのスタイルを踏襲するレイモンド ウェイルのコレクションだ(ちなみに、『クロノス日本版』2024年5月号でのCEOエリー・ベルンハイムへのインタビューによると、「良い年」も意味しており、ワインの良い年を“ミレジムイヤー”と表現するらしい)。もっとも、特定のオリジナルモデルがあるわけではない。“ネオ・ヴィンテージウォッチ”を標榜しており、1930年代に流行したというセクターダイアルや、オールドウォッチに見られるボックス型のプラスティック製風防といったデザインを採用しつつも、現代的なスペックやトレンドを取り入れることで、「古臭さのない、でもしっかりレトロ調のスタイル」を獲得しているのだ。
このコンセプトを取り入れたデザインというのが、私がミレジムに引かれた要素だし、多くの時計愛好家にも共感してもらえるのではないかと思う。スッキリとしたシンプルなセクターダイアルが良いのはもちろんのこと、カレンダー表示を持たない“ノンデイト”仕様であることも好ましい。私自身は決してノンデイト原理主義者ではないものの、シンプルなデザインは使いやすいし、文字盤の判読性も高くなる(これでGPHG受賞作のように、スモールセコンドだったらもっと好きというユーザーもいるかもしれないが、私はセンセコ派である)。
文字盤のデザインだけでなく、秒針が少し曲げられていたり、ブレスレットが細かいコマを5連にした、ドレッシーな印象となっていたりするのもレトロ調であることに寄与している。“ボックス型風防”は、もう少し大きく盛り上がっていた方が好みだが、高さがない分ケースの厚みが抑えられている。
小径ケースはヴィンテージ感あふれるうえに使いやすいのが◎
35mm径というケースサイズが購入の後押しをしたと前述したのは、私が平均的な女性の手首回りのサイズを持つということも関係しているものの、男女問わず時計愛好家の中には、このサイズ感が好みという諸氏が少なくないだろう。35mm径ケースの新作ミレジムが今年の春、Watches & Wonders Geneveで発表された折は、レディース向けとしてラインナップされていたように記憶している。しかし現在の公式ホームページでは、男性向けコレクションに分類されている。ケース径35mmというのは、まさに往年のヴィンテージウォッチのサイズ感。2000年代の“デカ厚”ブームを経て、また徐々にケースサイズのトレンドは小さめに振ってはいるものの、スタンダードは径40mm前後だ。このサイズでもまだ大きいと思う愛好家はいるだろう。そんな中で35mmという、オールドウォッチ好き待望のサイズ感(ちなみに、昔の時計は33mm〜36mmくらいが一般的だった)は、ありがたいことだ。
また、やはり小径サイズというのは着用感が良い。本作はケースとブレスレットともにステンレススティール製ということもあり、決して軽量というわけではなく、7コマ抜いた状態で88g。そこそこの重さがある。しかし、小径かつ厚みが抑えられていることから、着用感がかなり良いのだ。好みで手首よりも、ブレスレットを少し緩めにしているが、不必要に時計が回ってしまったり、ぐらついてしまったりすることがない。
加えて、操作性が良いというのも特筆すべき点だ。こういったシンプルなモデルは、フォルムをスッキリさせるためにあえてリュウズを小さくする場合がある。この小さいリュウズが、ジェルネイルを楽しむために、爪を伸ばしている私にとっては曲者で、引き出しにいことや、回しにくいことが多々ある。しかし本作はリュウズにある程度の大きさを持たせているので、操作がしやすい。リュウズにあしらわれた切り込みによって、指の腹が痛くなるといったことがないのもうれしいポイントだ。ノンデイトなので、カレンダー操作禁止時間帯などを気にせず、主ゼンマイの巻き上げや時刻合わせのみを行うというのも、シンプルで分かりやすいだろう。
このモデルに搭載されているムーブメントは、セリタをベースとしたCal.RW4200。着用中によく主ゼンマイが巻き上がるものの、パワーリザーブ約38時間と、各ブランドの自社製ムーブメントが2日以上の持続時間を持つことが当たり前となった今では短く、何日か時計を外していたら時間が止まってしまって時刻合わせしなくてはならなくなったというシーンが結構あったため、リュウズの操作性は重要だ。その点、本作はストレスを感じないというのも、使い勝手として良いポイントだと思う(セリタ製ムーブメントを使うことは価格を抑える大きな理由のひとつだと思うので、このパワーリザーブに文句はない)。
抑えた価格の“ネオ・ヴィンテージウォッチ”というポジショニング
本作の購入に至った理由は、製品に引かれたというのもあるが、同時に、手が出しやすい価格だったというのが大きい。本作の定価は30万8000円(税込み)である。ちなみに革ベルトのモデルが28万6000円、同じサイズのムーンフェイズ搭載モデルが39万6000円〜だ。このように、抑えられた価格もミレジムの美点のひとつだ。もちろん、工作機械が進化した今、同価格帯、あるいはよりベーシックな価格のモデルでもよくできている製品は多い。しかしネオ・ヴィンテージというコンセプトを守る本作は、セクターダイアルの文字盤を仕上げ分けしたり、針を曲げたりといった、このコンセプトを崩さないような手間やコストを掛けている。ヴィンテージ調で、しかもその雰囲気を最大限楽しませるためのディテールを備えたとなると、結構選択肢は限られてくる(そもそもノンデイトって、意外と少ないんですよね)ため、ニッチなジャンルながら、クラシカルな時計好きを引きつけるというポジショニングに成功している。この競合の多くないポジションでレイモンド ウェイルは今後もプレゼンスを高めていき、ファンを増やすことが予測できる。
レイモンド ウェイルの「ミレジム」、これからもヘビロテするぜ!
入手してから1カ月が経過したレイモンドウェイルの「ミレジム 35 センターセコンド」を着用レビューした。
デザイン面でも機能面でも使いやすく、おまけに性能や価格を考えれば、気を遣うことも少ない本作を、ほぼ毎日着用している。ほかにもお気に入りの腕時計はあるが、ついつい使い勝手が良くて、手に取るのが本作なのだ。これからもヘビーローテーションしていくだろうし、本記事を読んでくれた読者も、一度この“ネオ・ヴィンテージウォッチ”を手にしてみてほしい。もちろん多彩なバリエーションの中から、あなたのお気に入りを、ね。