「ハイパーオロロジー」を掲げるロジェ・デュブイが2024年に打ち出した“大作”モデルとは?

2024.12.31

時計専門誌『クロノス日本版』編集部が取材した、時計業界の新作見本市ウォッチズ&ワンダーズ2024。「外装革命」として特集した本誌でのこの取材記事を、webChronosに転載する。今回は「ハイパーオロロジー」というモットーのもと、大作の数々を打ち出したロジェ・デュブイを取り上げる。

奥田高文、三田村優:写真
Photographs by Takafumi Okuda, Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited & Text by Chronos Japan Edition (Yukiya Suzuki, Yuto Hosoda)
[クロノス日本版 2024年7月号掲載記事]


ロジェ・デュブイ。ハイパーオロロジーで定まった方向性

「ハイパーオロロジー」というモットーを掲げて以降、生真面目な骨格が際立ってきたロジェ・デュブイ。もともとの性格が表れただけとも言えるが、2023年の「モノボルテックス スプリットセコンド クロノグラフ」は、確かにこの会社にしか作り得ない“ハイパー” な大作だった。

 続く2024年はトゥールビヨンへの賛辞として4つのモデルをリリース。センタートゥールビヨンの「オルビス イン マキナ」を筆頭に、いかにもなラインナップをそろえた。

ロジェ・デュブイ オルビス イン マキナ

ロジェ・デュブイ「オルビス イン マキナ」
今のロジェ・デュブイらしい、迷いのない新作。2022年の通称“ラウンドテーブル”に似た表示を持つが、設計は一新。使えるサイズを得た。機構は複雑だが、針合わせの感触も悪くない。手巻き(Cal.RD115)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KPGケース(直径45mm、厚さ14.41mm)。10気圧防水。世界限定28本。

 個人的な推しはチタン製の外装を持つ「エクスカリバー モノトゥールビヨン チタン」。既存モデルの素材違いだが、複雑機構がないだけ、バランスの良さが際立つほか、普段使いできる軽快さが打ち出された。限定28本ではなく、レギュラーモデルであってもおかしくない完成度だ。

ロジェ・デュブイ エクスカリバー モノトゥールビヨン チタン

ロジェ・デュブイ「エクスカリバー モノトゥールビヨン チタン」
スポーティーなオートオルロジュリーに対するロジェ・デュブイの回答。肉を抜いた骨太のスケルトンと、簡潔なトゥールビヨン輪列の組み合わせは、モダンなデザインを強調する。正直、限定28本は残念な限り。手巻き(Cal.RD512SQ)。19石。パワーリザーブ約72時間。Tiケース(直径42mm、厚さ12.62mm)。100m防水。2117万5000円。

 いよいよ明確な方向性を打ち出すに至ったロジェ・デュブイ。願わくば、このスタイルが定着しますように。

ロジェ・デュブイ

(左)ロジェ・デュブイ「エクスカリバー モノトゥールビヨン ドラゴン」
あえてモダンなドラゴンをあしらったスケルトン版。責任者のブルタン曰く「普通のメティエダールでは面白くないから」とのこと。今年のロジェ・デュブイは、本作に限らず余白の処理がうまい。手巻き(Cal.RD512SQ)。19石。パワーリザーブ約72時間。18KPGケース(直径42mm、厚さ12.62mm)。100m防水。世界限定28本。
(右)ロジェ・デュブイ「エクスカリバー サンライズ ダブルトゥールビヨン」
既存モデルの素材違いだが、ダブルトゥールビヨンに、合計108個のジェムストーンをあしらっている。クイックリリースシステムによりストラップの交換も容易になった。手巻き(Cal.RD108SQ)。32石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KRGケース(直径45mm、厚さ14.66mm)。10気圧防水。


ロジェ・デュブイのグレゴリー・ブルタンをインタビュー

 今やロジェ・デュブイの、というよりも、リシュモン グループを代表する設計者となりつつあるグレゴリー・ブルタン。創業者ロジェ・デュブイのいわば“愛弟子”である彼は、もともとあったエンジニアリングの素養に、古典の技法やディテールを接ぎ木するようになった。ブルタンが説明してくれたのは、2024年の超大作「オルビス イン マキナ」だ。セントラルトゥールビヨンを持つこのモデルで、ブルタンは「ロジェ・デュブイの基本に立ち返りたかった」と語る。

[ロジェ・デュブイ/プロダクト・ストラテジー・ディレクター]Gregory Bruttin(グレゴリー・ブルタン)
1977年、スイス生まれ。ヌーシャテルのエンジニアリング・スクールで時計製造の理論を学んだ後、エコール・アークで修士号を獲得。2002年にロジェ・デュブイに入社し、自動巻きムーブメント、ミニッツリピーター、スケルトンムーブメントの開発などに携わる。ムーブメント開発部門の責任者などを経て、現職。

オルビス イン マキナでロジェ・デュブイの基本に立ち返りたかった

「2022年のセントラルフライングトゥールビヨンに比べて、オルビス イン マキナはムーブメントもケースも薄くした。そのために巻き上げと時刻合わせや輪列なども変え、巻き上げに使っていた遊星歯車を通常輪列に加えた。普通はやらないが、私たちにはノウハウがある。そして伝達効率を上げるために、遊星歯車に使われる歯は、エレクトロフォームやレーザーで加工している。それとセラミックス製のボールベアリング。この部品がなければ、センターフライングトゥールビヨンを支えるのは難しかったと思うよ」。なるほど、これらは今のエンジニアならではの、モダンな解決策だ。

「ロジェ・デュブイの2000年の時計を取り出して、モダンに仕立て直したらオルビス イン マキナになった。狙ったわけではなく、結果としてそうなった」とは、類を見ない大作に苦闘した彼の、偽らざる感想だろう。もっとも、ブルタンは、古典的な時計作りで名声を欲しいがままにした、ロジェ・デュブイ直系の愛弟子だ。

「設計者とは、ムーブメントにスペースを作るテクニックを覚えなければいけないと思う。スペースを確保するとムーブメントを薄くできるからね。でも今回は、ロジェ・デュブイの教えをムーブメントに盛り込みたかった。造形に深みを与えるため、過去にデュブイの手掛けたムーブメントを見て、ポケットウォッチなどのディテールを加えた。地板などを厚く作ったのはそれが理由だよ。また、厚みがあると側面はリッチに見える」。そんな彼の〝師匠〞に対する愛情を感じさせるのが、新作の「エクスカリバー サンライズ ダブル トゥールビヨン」だ。ベゼルとムーブメントに108個のジェムストーンを据え付けた本作は、意地悪く見ると、流行のレインボーの派生形でしかない。しかし、だ。

「ロジェ・デュブイは、ジュネーブの時計学校に通うため、毎朝、暗い時間に起きなければならなかった。夜明けで見るのは日の出だよ。私は彼の見た情景を時計で表現したかった。日の出の色はオレンジだから、ジェムストーンには、あえてガーネットを選んだんだ」

 ロジェ・デュブイから「深さ」を学んだブルタン。設計者として一皮むけたんじゃないですかと尋ねたところ、彼はこう答えた。「昔は、マルチレイヤーが得意だった。でも今は、3Dに進化したと自分でも思っているよ」。


Contact info: ロジェ・デュブイ 銀座ブティック Tel.03-5537-5317


【動画】ロジェ・デュブイの30年を30分で学ぶ。ブランドの成り立ちからイチオシモデルまで、全部知れる!?

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ロジェ・デュブイ「伝統×革新=ハイパーオロロジー™」

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2024年 ロジェ・デュブイの新作時計を一気読み!

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