『クロノス日本版』の精鋭?エディターたちが、話題の新作モデルを手に取り好き勝手に使い倒して論評する大好評の連載企画。今回登場するテスト機は、ドイツの精鋭マイスタージンガーの「シュルキュラリス オートマティック」。絶滅危惧種かと思われた1本針の時計ばかりをコツコツと生産しているマイスタージンガーの最高峰自動巻きモデルが編集部に届けられたのであった。
良い意味でのマイナス思考の持ち主にぴったりな時計?
待望のテスト機、マイスタージンガーの「シュルキュラリス オートマティック」が手元に届いた。わたし、何をかくそう、1本針マニアである。太古の日時計から、中世の塔時計はもちろん、置時計や携帯時計だって、最初は針1本で表示していた、などという時計製造史は正直なところどうでもよくて、ムダをそぎ落とした(落としすぎた……)がゆえに生じたピュアの極みのようなデザインにたまらなく惹かれるのだ。とはいえ、約20数年前に銀座の古物商でオーデマ ピゲの異端児「フィロソフィ」という1本針の時計に出会って、その場で買い損ねて以来、どんなに複雑でメカメカしい相貌をもった時計を前にしても、「あーこのインダイアル不要」とか「ロゴさえなければもっと格好いいのに」などと、常に〝良い意味でのマイナス思考〟を発動しながら、時計を見たり、論評したりのクセがついてしまった。
前置きが長くなったが、つまり、このマイナス思考を存分に満たしてくれるブランドがマイスタージンガーなのだ。
マイスタージンガーとは、どんなブランドなのか?
少しだけブランドの紹介を。マイスタージンガーは2001年にドイツのミュンスターで創業した。創業者は中世の塔時計に見られる1本針のプリミティブな時刻表示に着想を得て、エナメル文字盤が印象的な限定モデル「1Z」(1 Zeiger=ドイツ語で1本針の意)を翌年のバーゼルワールドで発表して、一躍ドイツ時計のオルタナティブな存在として好感度な時計関係者に目にとまった。以来、自動巻きモデル、パワーリザーブインジケーター付きモデル、24時間計モデル、そして2014年には自社製ムーブメント搭載モデルを発表するなど、現在では14モデル(文字盤色違いのぞく)を数えるまでの存在に成長した。年間生産本数は約9500本というから、もはやドイツのオルタナ的存在とはいえないのかもしれない。もちろん、付加機能は加えながらも(ジャンピングアワー含めて)、時刻表示は1本針を貫き通している。
マイスタージンガー 「シルキュラリス オートマティック」
わたしの手元に届き、今左腕で快調に時を刻んでいるのは、自社製自動巻きムーブメント、キャリバーMSA01を搭載する「シルキュラリス オートマティック」だ。このムーブメントも素性は素晴らしく、機械だけで簡単な記事の1本や2本作れるくらいのすぐれものなのだが、1本針時計の知られざる使用感をお伝えするのがまずは先決というものだろう。
針が12時間で1周するのは通常の時計と変わらない。インデックスは毎正時がアラビア数字で大きく配され、そこから5分刻みで分表示が刻まれている。毎15分はやや長め、毎30分はより長くて太い表示となっているから、ここを基点にして判読に慣れていくことになる。マイスタージンガーの関係者は「ワンハンドではあるが、メジャーのように正確に時刻を読み取ることができる」と語るのだが、どうだろうか?
ベゼルを大きく絞り、ギリギリまで文字盤の開口部を大きく取ったデザインは、まさに先のメッセージどおりに、視認性、判読性の高さを追求する表れだろう。また、アイボリーの文字盤にネイビーのインデックスという抜群の組み合わせによって、目を落とすと即座に全体のインデックスが視覚に飛び込んでくる。
マイスタージンガーの中では高価格帯に位置するモデルらしく、上質なアリゲーターストラップにDバックルを標準装備するのは嬉しいところ。細腕ゆえ、いちばんきつい穴が適正位置だ。なじむまで時間がかかると思っていたストラップも、意外や意外、着用1日目からすんなりと腕にフィットしてくれた。緩やかにカーブするラグと重心の低いヘッドとの関係もあるのだろう。個人的には最近トライした現行モデルの中では随一ともいえるつけ心地の良さだ。